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日本はモノづくりを手放し、海外はモノづくりへ向かう? Google のFitbit買収にみる「サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)」

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■日本はモノづくりを手放し、海外はモノづくりへ向かう?

11月1日、Googleが約21億ドル(約2269億円)でFitbitを買収することを発表しました。
Helping more people with wearables: Google to acquire Fitbit

■公式ブログの一部を意訳:
「Fitbitは、ウェアラブル業界の真の先駆者であり、魅力ある製品、体験、活気あるユーザーコミュニティを創り出している。Fitbitのチームと連携し、最高のAI、ソフトウェア、ハードウェアを統合することで、ウェアラブルの革新を促進し、世界中のより多くの人々にとって役立つ製品を構築できる」

この発表において、Googleは、Fitbitを買収した理由の1つに「活気あるユーザーコミュニティの存在をあげています。今日は、「サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)」を支える「ユーザーコミュニティ」について書きたいと思います。

サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)
2004年、Stephen L. Vargo と Robert F. Luschによって提唱された「モノ(有形の商品)」と「サービス(無形の商品)」を区別することなく包括的にとらえ、「企業が顧客とともに価値を創造する」という価値共創の視点からマーケティングを組み立てるという考え方。
http://www.sdlogic.net/index.html

2004年にStephen L. Vargo と Robert F. Luschの論文が発表されると、モノを経済活動の基本単位とする「グッズ・ドミナント・ロジック(G-Dロジック)」から、すべての経済活動をサービスとしてとらえる「サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)」への転換が必要という議論が巻き起こるようになりました。日本でも「モノからコトへ」というスローガンを掲げ、事業の中心を「サービス」に移し、多くの企業が新しいサービスを考えることに注力しています。

コメント 2019-11-06 173539.png本来、S-Dロジックでは、「サービス」を実現する手段として「モノ」を包括的にとらえ、「モノ and サービス」で考えます。例えば、iPhone(モノ)+Apple Store(サービス)、Kindle(モノ)+Kindle Store(サービス)といった具合です。

ところが、日本では「モノ or サービス」であり、「モノからコトへ」とモノづくりを手放してサービスだけを考えてしまっていることが多いように感じています。

みなさんは、初代のKindle(2007年11月発売)よりも前に、Sonyから「ソニー・リーダー(Sony Reader)」(2006年9月発売)という電子ブックリーダーが北米・欧州市場で発売されていたことをご存じでしょうか?(2013年モデルが最終モデル)

当時、発売されたばかりのSony Readerを求めて、USの電化製品店をまわるもSold Out。7軒目で、やっと最後の1台を手に入れることができました。
ところが、電子ブックリーダーを手に入れたものの、コンテンツである電子書籍を入手できるサービスがなかったので、ドキュメントスキャナーを用意して1冊ずつ書籍や漫画の電子化(通称:自炊)をしていました。

自炊経験のある方ならお分かりいただけると思いますが、自分で本を電子化するには、手間と時間が必要です。結果として、せっかく手に入れたデバイスだったのですが、数か月で使うことを止めてしまいました。

この経験から、「モノ or サービス」ではなく、「モノ and サービス」で相乗効果にならないと、世に先駆けて作った優れた「モノ」でも、ビジネスとして継続することが難しいということを強く意識しました。

そして、今、日本が「モノ」づくりを手放す一方で、海外は「モノ」づくりに向かっているように感じています。

iPod、iPad、iPhoneといったデバイスを次々と世の中に送り出したAppleだけでなく、MicrosoftやGoogle、中国のHUAWEIなどが「モノ」づくりに力を入れていることからも、さらに、そのことを強く感じています。

■「活気あるユーザーコミュニティ」の価値

有形の「モノ」をつくる場合、製造台数を予測する難しさが伴いますが、提供するものが、有形の「モノ」であれ、無形の「サービス」であれ、ビジネスを継続させるためには、提供側は価値を提供し、ユーザー側がその価値を必要とする関係性が必要です。

そして、その関係性をより強くしたい場合、「活気あるユーザーコミュニティ」の存在は、提供側にとって、非常にありがたい存在です。

例えば、宝塚や芸能などの世界では、何十年にも渡りファンである方や親子数世代に渡ってファンである方が属するファンクラブ(「活気のあるユーザーコミュニティ)が存在します。
提供側にとって、「活気あるユーザーコミュニティ」が存在するということは、継続して「価値共創」できる基盤があることを意味しています。
つまり、舞台や音楽の価値に対して支払われた対価が次の舞台や音楽の制作につながり、その循環が何十年と繰り返され、「変化」と「安定」の両方を実現することができているように思います。

では、IT業界において「活気あるユーザーコミュニティ」をもつ企業や製品と言われたら、どのような企業や製品を思い出しますか?

私が思い浮かべる1つはAppleです。Apple がiPhoneの新しいバージョンを販売する際、開店前から店舗前に並ぶ方々を思い出します。そのような「熱狂的ファン」が存在するAppleにおいても、iPhoneシリーズの売上の初動は年々緩くなってきていると言われています。
「活気あるユーザーコミュニティ」が存在していたとしても、維持し続けることは容易ではないということだと思います。小さなコミュニティではありますが、自身もコミュニティ運営を通じて、その難しさを強く感じています。

「モノ」や「サービス」そのものは、提供側の努力だけで提供することができますが、「活気あるユーザーコミュニティ」は提供側の努力では実現することができません。
だからこそ、「活気あるユーザーコミュニティ」の存在に価値があるのだと思います

今回の発表を聴き、Googleの買収によってFitbitの「活気あるユーザーコミュニティ」に変化が起きるのか、また、製品やサービスがどのように変わっていくのかを観察していきたいと思います。

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