一生、まとい続けられる、カオリ、ニオイ、ってありますか?ヒトは変わるのに。 ~日用品公害・香害(n)~
日本石鹸洗剤工業会が、不思議な意見を述べている。あまりにもビックリしたので、紹介したい。
「香害をなくす連絡会」と「香害をなくす議員の会」は、同工業会に、香りや消臭・抗菌をうたった柔軟剤・合成洗剤の不明点について、何度か質問を繰り返しているという。その回答の要約が日本消費者連盟のサイトに掲載されている。
一読して、筆者は、腰を抜かしそうになった。上流工程(設計)経験のあるITエンジニアなら、同様に驚くとおもうのだが、どうだろうか。
ちなみに、筆者は、同連盟や、連絡会とは、接点がない。議員の会には、筆者の居住する自治体の議員さんはひとりも参加していない。つまり、第三者の立場だ。その者から見て、2024年10月10日の3回目の質問に対する回答が、不可思議なのだ。
同工業会は、「香りが付いた衣類を数回洗たくと乾燥を繰り返すことで徐々に香りが弱くなる設計となっている」と回答したという。
つまり、一度の洗濯では除去できないということだ。そして、繰り返し洗えば弱まりはしても、完全に除去できるわけではないということだろう。
このような「設計」は、アリなのか。
いろいろな条件を想定してみる。まず、ユーザーが別の製品に切り替えたい場合。
たとえば、あるメーカーの柔軟剤が気に入り、使っていたとしよう。何カ月か後に、別のメーカーの柔軟剤が発売され、試してみたいとする。こうした変更は、よくある話だ。
まず、すでに使った柔軟剤の香りを弱めるために、何度も洗う。そうして弱まったところで、次の柔軟剤に切り替えることになる。弱まらないまま、切り替えたなら、2つの香りが混在してしまう。個性と個性がぶつかりあい、どのような香りになるか想像もつかない。たとえ同じメーカーであっても、別の製品や後発品であれば、同様だろう。
次に、無香料製品に切り替えざるをえない場合。
たとえば、湿疹や、時々の咳といった軽い症状が現れ始め、試しに無香料製品に切り替えて様子をみたい場合だ。
実際、元ユーザーで、頭痛が生じたり、アレルギーがあることに気付くなどして、無香料製品に切り替えているケースは少なくない。試してみて症状が軽快するなら、完全に切り替えざるをえないだろう。
また、女性の場合、妊娠すると、香りを受け付けなくなることがある。ほかにも、病気によっては、香りがつらくなることもある。こうした場合も切り替えざるをえない。
あるいは、健康に影響はなくとも、農業や漁業、食品加工業、飲食店、医療、精密機器製造など、香料使用不可の仕事に就いた場合も、切り替えざるをえない。弁当製造のパートを始めるにも、香り付きの服のまま気軽に出勤することはできない。
いや、自分の知り合いのパートさんは香料製品を使っている、と言う人がいるかもしれない。それは、雇用者の食に対する意識が低いだけだ。味と香りのわかる消費者は、食材の香りを重視しない食品会社には背を向ける。そのうち経営が傾いていくから、長く勤めることはできないだろう。
では、体調不良にもならず、仕事の事情もない場合は、どうか。つまり、切り替えたいわけでもなく、切り替えざるをえない事情もない場合だ。
似合う香りが変わる問題が残る。香りは不変でも、ヒトは変わる。ミニスカ女子学生が教師に。スリムなスポーツ少年がメタボの経営者に。年を取り、交友関係が変わり、ライフスタイルが変わっても、同じ香りをまとい続けられるだろうか。
香りに対する社会的な評価も変わる。たとえば、ポマードのような香りの柔軟剤がある。若いユーザーは、新しい良い香りだとおもって使っているのだろう。だが、昭和の時代、それは壮年の男性が使う整髪料の香りだったのだ。10年先20年先に、同じ評価が続くとは限らない。
もっとも、それ以前に、終売になり、ストックも使い切ったなら、別の製品に変更せざるをえないのだが。
単身者ではなく、家族がいれば、すべての衣類を同じ洗濯機で洗うことだろう。家族のだれかひとりが体調不良に陥ったり、妊娠したり、病気になったり、転職したり、あるいは、香りの好みが変わったなら、どうなるか。一世帯分の、すべての衣類を、アンダーウェアやシーツや靴下まで、繰り返し洗いしなければならない。洗濯物の量を想像するだけで、気が遠くなりそうだ。
しかも、徐々に薄れはしても、完全に除去できるわけではない。多数のXユーザーが、水洗いだけでなく、石けん、クエン酸、湯、米のとぎし汁など、ありとあらゆる方法を試みているが、完全に除去できたという情報はない。
そもそも、どの程度薄れるのだろう。5回洗って1割以下になるのか、10回洗って半減なのか。水質や水温や服の素材など、条件によって、除去率はどれほど異なるのか。
元ユーザーで無香料に切り替えたひとたちのポストが、しばしばXに流れてくる。
過去の衣類を、衣替えの時期に出して、驚いている。何度も水洗いして収納したにもかかわらず、翌年、ケースから取り出すと、香りが立ち上がるというのだ。翌年ならまだしも、数年経ったのに、と嘆く声もある。
そして、この除去作業が、実に厄介である。
筆者の経験を話そう。数年前、柔軟剤スプレーも使うパワーユーザーが来訪し、服に強いニオイが付着した。そこで、繰り返し洗濯をしたところ、水道料金が跳ね上がった。水道検針員は漏水を疑った。終日マイ制服、素材は綿や麻の、ノンユーザー一人分の衣類でさえこれである。
ユーザーならば、衣類には強力に香りが付着しているわけで、どれだけ水道代がかかることやら。服をたくさん所有していたり、天然素材よりも除去しにくい合成繊維の服や、紳士ものなどサイズの大きい衣類があれば、洗濯回数は倍増どころではない。もっとも洗濯を繰り返して香りが薄れる前に、衣類が傷むかもしれないが。
そして、衣類に付着しているのは、香り、つまり人工香料だけではない。花やフルーツやミントやスパイシーなカオリだけではないのだ。ほかの成分のニオイが付着している。それは、ニオイであってカオリではない。これも除去は難しい。
そこですべての衣類をメルカリに出して、新しく購入しようと考える。ところが、香料製品を使って洗った衣類には、買い手が付きにくくなり始めている。柔軟剤不使用の品へのニーズが高まりつつあるようなのだ。これでは売ったお金で新規購入することは難しいかもしれない。
だからといって、繰り返し洗濯にかかる水道代、あるいは新規購入費を、メーカーが負担してくれるわけではない。負担するのはユーザーだ。
つまり、使うのであれば、同じ製品を大量にストックして、家族全員が長年使い続ける、そんな覚悟がもとめられるようにさえおもわれる。
以上のことを、ユーザーが理解して使っているのなら、仕方あるまい。だが、こうしたことを知らず、想定もせず、使っている人が少なくないようなのだ。
そこで、その情報を事前に知らせる必要があると考える。
一度水洗いしただけで完全に香りを除去できない製品であるということを、ボトルに記載してはどうか。
「本製品は、一度使えば、衣類に香りが残ります。数回洗たくと乾燥を繰り返せば、徐々に香りが弱くなる設計となっております。その場合の水道料金は、お客さまのご負担となります。また、香りを完全に除去することはできませんので、フレグランス・フリーの場所では着用できない可能性があります。以上をご理解のうえ、香りをお楽しみください。」
これがIT業界なら、「お使いのアプリは、アンインストール作業を繰り返すことで徐々にファイルが消えていく設計となっています。何度繰り返しても完全にはアンインストールできず、ゴミが残ります。これ以降インストールしたアプリとは共有違反を起こすことがわかっています。」などと言おうものなら、クレームの嵐にサポート担当者が逃げ出すだろう。え?サポートはAI自動音声だから大丈夫だって?あ、そう。
一度使ってしまった後、本稿を読み、「水道料金!!買い替え!?」と、叫び声をあげそうになっている皆さまの、除去作業の健闘を祈ります。