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開けてしまったらあふれ出すテクノロジー。そこには希望が残っていた!

IBMを卒業いたします

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皆様
本日は、IBMの卒業式を、同僚の東京基礎研究所の皆さんにしていただきました。
ごく個人的なお知らせで恐縮です。またものすごい長文で恐縮です。
今月末、2015年3月31日付をもって、28年間お世話になったIBMを卒業することとなりました。ごく一部の方には事前にお知らせしましたので重複したお知らせになり申し訳ありません。この数ヶ月間「あらかじめご報告しなくては」と思うリストを作りメールやらメッセージやら送り続け、この時になって、自分は「なんてたくさんの人に支えられて来たんだろう」と、驚き、感謝の念でいっぱいです。「え、なんで私は今日まで知らされなかったの?」という方もおられるかもしれません。ただ、単に私のミスです。お許しください。驚かせようと思っただけです。
短時間で集めていただいたにもかかわらず、たくさんの方に祝っていただきました。

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IBMでは、メインフレームのソフトウェア・サポート技術員、メインフレームユーザー向けソフトウェア・ソリューションの設計と開発、ソフトウェア・テクノロジー・エバンジェリストとしてテクノロジーのマーケティング、東京基礎研究所でのXMLセキュリティー技術の日本語環境での評価とドキュメント作り、技術団体(EJBコンソーシアム)での規約策定、SWテクニカル・セールス、お客様のいくつかのシステムの設計と構築リード、ProVISION誌コミッティー、論文査読員や昇進試験官、新人研修教官、ソーシャル・テキスト分析事業立ち上げ、スマーターシティー事業にて福島県伊達市でのコンサルティング、廃棄物管理ソリューション・ソフトウェアの設計と開発、モバイルソリューションの研究と、非常に幅広い経験をさせていただきました。とくにエバンジェリスト時代には、日本中を駆け回って300回以上の講演、100以上の記事投稿、十数冊の著書の執筆、数回の新聞への掲載など、一つの金字塔を建てられたと思います。 私をエバンジェリストにしてくださった、T原さん、東京基礎研究所の元所長のM山さん、マーケのF長さん、T屋さん、ありがとう。こうして振り返ると、研究、標準化活動、開発、マーケティング、プリセールス、開発デリバリー、アフターサービス・サポートと、ソフトウェア・エンジニアリングとライフサイクルにおけるほぼ全てのフェーズを職業として体験することができました。IBMだけでなく、メディア、競合他社やパートナーの皆様など、とてもたくさんの業界の方々と出会い、活動し、多くのことを学びました。主要なITベンダーのほとんどに、元上司や友人がいます。ドイツ、イギリス、アメリカなど、たくさんの海外出張もさせていただきました。こういった多くの経験は、私にとってこれからの人生の大きな糧となると信じています。
最後に所属したIBM東京基礎研究所で担当したモバイルソリューションの研究は、ウェアラブルやIoTデバイスとiOSデバイスを組み合わせた研究で、とても楽しいものでした。たくさんの試作をし、アイデアを作りましたが、それらは置き土産として置いていきます。継続したかったのですが、タイミングは難しいもので、研究途中にも関わらず継続できなくなり残念です。最後にProVISION誌のコンテンツリーダーを再度担当しました。とても楽しかったです。編集長のE子さん、ありがとう。
次の仕事として、自然言語会話技術の研究・開発の職を得ました。私が長い間心に溜めてきた分野です。ITプロダクツやITサービスのベンダーでもなく、IT部門でもありません。業務用に特化しない分野に移行します。コンシューマー・プロダクツにも関わるものとなります。
ご存知の方も多いかもしれません。一つ前のエントリーでも語ってますが、私は、スタンリー・キューブリック氏のSF映画「2001年宇宙の旅」に登場した、木星探査宇宙船「ディスカバリー号」の運用・管理コンピューター「HAL9000システム」に強く影響を受けIBMに惹かれました。中学の進路指導時に「IBMでコンピューターエンジニアになる」と書いていたほどでした。当時の中学校教員(先生)から見れば、異質なものを志向する不思議生徒にしか見えなかったかもしれません。家庭の経済的な理由と両親の思い込み、学校教員の理解不足、などの相互作用で大学には進学できません(しません)でしたが、IBMへの就職のみを目指して群馬工業高専を選び、IBMへの就活一本で日本IBMへ就職しました。高専の教授からは「普通、就活は数社に対してするものだ」と叱られましたが、一社のみ受けました。高専最終学歴の外資系IT企業での生活は、「そうでない人」には到底理解できないものだと思います。しかし心の奥底にはいつも「人と会話するコンピューター」がありました。サポート部門、ソフトウェア部門と異動して働きましたが、なかなかその分野を経験することはできませんでした。自分の力量的にもそれをできるレベルになかったかもしれませんし、「AIにITが挑戦できる時代にない」と自分が思ってしまっていたこともあるかもしれません。
日本IBMの技術誌「ProVISION」の「匠」コーナーで、自分がHAL9000に影響を受けたことを初めてカミングアウトしました。そのときに編集長のK子さんは、そのきっかけを作ってくれた人の一人です。ありがとう。
OS/2 の ViaVoiceという音声認識製品や読み上げくんというスピーチエンジン、WebSphere Voice Serverという音声自動応答システムを支える製品にも少しだけ関わりました。しかし、それらにはピンと来なかったのも事実です。
5年ほど前に経験した、IBM Content Analytics(現Watson Content Analytics)を活用したソーシャル・テキスト・マイニングの事業はとてもエキサイティングなものでしたが「会話できるシステム」とは違う分野のものでした。このソーシャル分析の経験をしたころから「そろそろAIだ」と思うようになりました。IT技術は以前よりずっと向上しました。自分の経験値も蓄積されました。一緒にやってくれた、N川さん、Y田さん、A野さん、A子さん、ほかみなさん、ありがとう。
いろいろなことを考えました。いろいろなチャレンジもしました。ここには書けない、多くの検討とあきらめもありました。それは一緒に呑んだ際には、その席でお話しできるかもしれません(思い出せればw)。
とにかく、今回、結果的には別の企業に一旦就職し、AIシステムの構築に関わります。しかし、これは一時的なものかもしれません。その後はその経験をもとに、できるかぎり多くの AI システムやロボットの構築に関わりたいと思っています。FA(Free Agent)のような立場かもしれません。個人事業や法人を立ち上げるかもしれません。またどこかの企業にお世話になるかもしれません。もしかしたら、またIBMに戻ってくるかも? ただ、AI とロボットを自分の軸にしようと思っています。コンピューターシステムに、心や感情や人格や価値観を与えたいのです。今後はもうぶれません。
社会や企業がITもしくはICTを活用するという状況は、かなり安定した一般的なものになったと思います。そして、AI やロボットが社会進出するのはこれからです。私は、これから AI と ロボットが社会と企業活動に浸透し始めると思っています。老いていく私たち自身が社会で働き続けるためにサポートしてもらう役割もあるでしょう。多くの人の生産性を上げるためのパートナーとなるかもしれません。より多くの人がコンピューターに指示を出せるようになるためにもAIが必要でしょう。それは、私が元気に働いている期間の間、すなわちこの十数年に大きく進化すると信じています。私はその分野に身を投じたいと思いました。スタートするのは今でないといけないのです。その分野をリードしたいのです。AI・ロボット・インテグレーターを志向します。

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何年か前に「私は今、しゃがんでいる時なのだ」という話をネットに書きました。若いころ聴いた杏里さんの曲「Future For You」に出てくる「ジャンプするには一度しゃがむの。深く、深く落ち込んでも、未来は私の心の中で息づく。」という歌詞に何度励まされたことかわかりません。今はしゃがんでいる時なのだ、と思いこむことで、つらい時間を乗り越えました。

この数年間、行きたい方向へ舵取りをする、という非常に負荷の大きいチャレンジをしてきました。そのためか、自分ができないことにチャレンジすることばかりでした。それは自分が希望してないものもありましたし、希望して選んだものもありました。しかし、エネルギーを溜め込むために必要なことだと思ってやってきました。ゼンマイやバネはどんどん押し込められてエネルギーをその中に溜め込みます。人間にもそういう時が必要なのです。それを最後に導いてくださったOさん、Yさん、Kさん、ありがとう。
エネルギーは溜まりました。いま、立ち上がり、歩き出し、ジャンプを始めたいと思います。
この数年のお気に入りの楽曲に「Pick Youself Up, (自分を奮い立たせなさい、あるいは、立ち上がりなさい)」という曲があります。これは「有頂天時代」という映画に出てくる曲なのですが、ダイアナ・クラールが歌っている 2-beat リハ・テイクが最高です。

私もようやく Pick Myself Up する時がやってきたと感じています。
Pick myself up, dust myself off, and start all over again.
さぁ立ち上がろう、埃をはらって、最初からやり直しだ!
憧れて入社したIBM、お世話になりました。ひとつめの夢は叶いました。私は卒業します。
Thank you, IBM !
私は辞めるのではありません。始めるのです。
人工知能とロボットの世界、こんにちは。これからよろしく!
Hello, Artificial Intelligence and Robots' World !
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