クラウドが削減しているコスト-3
クラウドのコスト削減について、2点ほど言及してみましたが、コスト削減てのは、いつの時代も一時的なもの。永久に削減を続けられるわけではないと思います。
IBMのSmarter Planetの資料でもたまに登場しますが、「自動化」はコスト削減の一つの手法です。クラウドは、システム準備を「自動化」することで大きなコスト削減をしています。こういった自動化は、ある程度のレベルに達してしまうとコスト削減効果がフラット化(効果が薄くなる)する傾向にあるはずです。
前回までの二回で、「流通コストの削減」と「自作による削減」という二面によって大きなコスト削減が図られている、という話をしましたが、これは「コストバランス」の問題だと思っています。
どういうことかというと、いま、コンピューターシステムは「開発」と「製造」のコストを、利用者の数で割り算したとき、そのコストより「流通」コストのほうがはるかに高いのです。
この考え方は、実は私が長くおつきあいしている(笑)オープンソース・ソフトウェアにもあてはまります。
一人の人が1年間、ほかのことをせずに開発したソフトウェアがあるとします。この人のコストが1,000万円だとします。(所得のほかに、オフィス、器材、交通費などの諸経費をすべて含む)このソフトウェアを10万人の人が使うとすると、一人当たりのコストはたったの100円です。ところが、このソフトウェアをマニュアルをつけ、各国語対応し、パッケージ化してCDやDVDに焼き、運送して店頭に並べ、マーケティング活動やらセリング(価格交渉)などをするようになると、周辺で何十人、何百人という人が働くようになります。これらの人のすべてのコスト(所得のほかに、オフィス、器材、交通費などの諸経費をすべて含む)を、このソフトウェアの売り上げから負担しようものなら、あっというまに、ソフトウェアは数千円から数万円になってしまいます。
これが、「無駄なコスト」です。
これはH/Wにも言えることで、開発し製造した段階では、サーバー1台あたり数千円くらいしかしないのでしょう。それを世界中に「流通」するために周辺で働く人全員の生活を支えるために、ユーザーのところに届くまでに数十万円~数百万円(ひどいときには数億円)まで膨らむことになるのだと思います。
それを劇的に改善しているのがクラウドです。ネットによる流通によって、「無駄なコスト」を削減すること。これが、現代に求められているコンピューターのスタイルなのでしょう。
バランスが変化することになります。
ITシステムを流通することだけに従事していたIT技術者への投資は今後減る可能性が高いです。すくなくとも、サーバーシステムと呼ばれるものに関しては、多くのものがインターネット・クラウドで利用されるか、クラウドスタイルで構築されます。当然、構築の周辺で働いていたIT従事者は削減対象と言わざるを得ません。
では、IT人口は減るのでしょうか。いえ、私はそうは思っていません。なぜなら、一つ一つのコストが削減された結果、さらに裾野の広がった幅広い分野でITシステムが使われるようになるはずです。そういった、幅広い分野でITシステムが利用されるようになるためには、そのための人材が大量に必要になります。それは、「人材のシフト」のようなことを巻き起こす可能性はありますが、決して投資額の減少には繋がらないと思っています。
人材のシフトが起こりますから、流通だけに従事していた人はIT業界に残れないかもしれません。逆に、業務改善のプロのような人がIT業界に入ってくるのかもしれません。
また、冒頭でも触れたとおり、これはバランスの問題。開発・製造コストが上回る時代が来れば、当然流通しなければならない時代も来ます。ネットワーク能力が、必要とするプロセッサ処理量を下回れば、当然システムは手元に置かなければなりません。H/W能力とS/Wはいつでもいたちごっこを繰り返しています。つねに波打つトレンドを追跡していくことが重要です。クラウドは「今のトレンド」ですが、5年後、10年後はそうでないかもしれない、という身構えのもと、つきあってみてはいかがでしょうか。