オープンソースとサポート
私の会社は、オープンソース・ソフトウェア(OSS)を組み合わせて、顧客にサーバシステムと技術サポートを提供している。商用パッケージを使うのは、ウィルス対策ソフトや顧客が希望する機能やサポートがOSSには存在しない(あるいは役不足である)場合などだ。サーバ寄りの仕事になっていることもあって、創業以来Linuxが絡む売り上げが100%という、特異な会社になっている。
サーバ構築とそのサポートが主業務なのだが、Z-Linux (ズィーリナックス)という独自に開発したLinuxシステムも持っている。かれころ5年ほど開発とメンテナンスを続けているが、いわゆるLinuxディストリビュータとは位置づけていない。当社が提供できるソリューションをもっともよく生かすための「Linuxベースの独自OS」といった位置づけに近い。
さらに、サーバ構築といっても、おもな分野をメール関連に絞りこんでいる。ただし、数百人〜千人程度の企業が必要とする主だったソリューションは、冗長化(HAクラスター)、ウィルス/スパム対策、メール全文保存システムなど、ひととおり取り揃えている。
すごく間口が狭くて融通がきかないスタイルだ。だが、社員は精神的にも時間的にも余裕を持って仕事している(ようだ)し、収益もここ数年良好だ。目下最大の悩みは営業力で、これがクリアできたらもっと社員も増やせるはずだ。
このようなスタイルは、我々にとって次のようなメリットをもたらしている。
まず、OSを含めて得意分野に絞り込むことにより、理解すべき範囲を限定しやすくなる。たとえばOSとしてインストールされるファイル数は、通常のLinuxディストリビューションの場合数万〜数十万になるが、Z-Linuxの場合は数千〜数万ですむ。存在しないファイルのことは考えなくてもいいので、原因不明のトラブルも減り、サポートしやすくなる。
次に、独自の機能や特徴を強化しやすくなる。たとえば、Z-Linuxには他のOSにはないきわめてユニークな機能がある。たとえシステムディスクが壊れても、新品に交換してリブートするだけで、完全に自動復旧できる。その際データもバックアップ時点の状態まで自動復旧する。インストールと設定も、シンプルかつ間違いを極力排除できるようにしてある。これらの魅力を理解していただけたお客様には、「次回も頼むよ」と言っていただけることが多い。
3番目に、得意な分野に集中しやすくなる。詳細に調べる必要が生じたら、ソースコードまで調査できる余裕が生まれるし、さらに理解が深まって新しいニーズにも対応しやすくなる。最近の当社の事例だが、スパムメール対策に取り組んでいたおかげで、Webの登録フォームに入力された迷惑メッセージをフィルタリングするという開発案件をいただいたことがある。また、以前書いたSpamAssassinへの取り組みも、分野を絞って集中していたからこそ取り組む余裕が生まれたのだと思っている。
商用OS、商用パッケージだと、ここまで徹底するのは難しい。OS自体のカスタマイズは制約があるか、ライセンス、サポート上無理だ。ミドルウェアやアプリケーションも、商用の場合には、ドキュメントに書かれていない低レベルになると手探りしかない。OSSはソースコード閲覧や改変の自由が保証されている。やる気さえあれば、独自の付加価値を付けた商品やサービスが作れる。
Linux/OSSをサポートするベンダーが増えている。しかし、ソフトを与えられたものとして扱うだけのベンダーが多いように感じる。中身を解析したり、ときには改変するようなところまで踏み込んでいるベンダーは、まだまだ少数ではないか。
OSSのサポート資料のほとんどはWebなどで手に入る。付加価値(=利益率)の高いサービスを提供するには、ベンダーごとに得意分野を持ち、ユーザニーズに合わせてカスタマイズまで提供できるように努力していく必要があるだろう。OSSは、うかうかしていたらユーザがベンダーを追い越す分野だと考えておく方がいい。