AI導入時代に求められる"見える化"と戦略:FinOps Foundation Virtual Summit
近年、AIシステムの導入が加速する中、クラウド/インフラ運用コストも大きく膨らんでいます。しかし、単にコストを抑えるだけではなく、「それだけの支出に見合った価値が得られているか」をどう定量化するかが、FinOps関係者にとって新たな課題になっているようです。
この課題に応えるべく、FinOps Foundationは「AI向けFinOps」をテーマとしたバーチャルサミットを開催しました。概要を簡単に書いてみました。
FinOps Foundationの挑戦とコミュニティ拡大
創設当初はわずか12社からスタートしたFinOps Foundationですが、現在では200社以上が参加する大きなエコシステムに成長しました。クラウド事業者、SaaS企業、インフラベンダーなど多様なプレイヤーが入り混じる中で、ベストプラクティスを共有していく使命感が強調されていました。
イベントも世界各地で展開されており、サンパウロでのFinOps X Dayや、アムステルダム/ワシントンD.C.での次回イベントなど、グローバル展開が加速しています。
AI導入の現状とFinOpsに求められる変化
コスト収集と配分の課題
AIプロジェクトでは、モデル運用、データ準備、推論、キャッシュ、ログ収集、異常検知など、さまざまな要素がコスト構成に入り混じります。
多くのメンバーが「どこにAIコストをかけているかを把握できない」「部門横断での配分が難しい」といった悩みを抱えており、これはサミットでも主要なテーマとして取り上げられました。
内部価値 vs 外部価値:何をどう測るか
AI導入において重視すべきは、「内部価値」(社員業務効率改善、コスト削減など)と「外部価値」(顧客向け機能、売上貢献など)の両立です。
ただし、これらを指標化・可視化していくのは容易ではありません。今後は、AI投資審査委員会(Architectural Review Boardや投資レビュー会議)の設置、共通KPIの整備などの仕組みが重要になるとの指摘がありました。
技術的視点:CPU vs GPU、アーキテクチャ複雑化
よく「AI=GPU」と語られがちですが、このサミットでは CPUでの推論 も十分に有効な選択肢として提示されました。特にレイテンシに敏感でない用途では、CPUを利用することでコスト効率が劇的に改善するケースもあるとのこと。
また、AIアーキテクチャは、単純なモデル呼び出し型から、RAG(Retrieval-Augmented Generation)モデル、エージェント AI、農業エージェントなど、複数モデルや複雑構成を前提とする設計が増えてきており、FinOpsの可視化・最適化機構も進化が求められています。
実践者からの報告:Shutterstockなどのケース
シャッターストックのベッキー・カンタベリー氏は、自社でのFinOps運用経験を紹介。
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初期段階では、月次AI支出を把握するだけでも経営判断に資するレポートが可能だった
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次第に、部門別・モデル別・機能別のコストやROIを組み込んだレポートへと進化
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エンジニアと財務の橋渡しをする中で、レポート出力が意思決定に直結するようになった
このような実践事例は、他の組織にもヒントを与える内容でした。
FInOps for AIという認定資格も話題に出てましたね。
コミュニティの動き
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FOCUS (FinOps Open Cost & Usage Specification)
クラウド請求の共通仕様を整備中。バージョンアップと検証ツールも進んでる。 -
FinOps X 2026 はもう準備開始。CFP(登壇者募集)もスタート。
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Cast.ai みたいなベンダーも理事会に参加して、実践と技術をつなぐ動きが増えてきてます。
まとめ
FinOps X 2025で強調されていたのは、
「AI時代のFinOpsはコスト削減じゃなく、価値をどう見える化して伝えるか」 という点でした。
AI導入でアーキテクチャが複雑になるほど、FinOpsの役割も大きくなります。
「ただ動かす」だけじゃなく「価値を説明できる設計・運用」が求められる時代。
2026に向けて、自分たちのチームでも小さく実践していきたいですね。