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【読んでみた】高倉健さんの『あなたに褒められたくて』

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第13回日本文芸大賞エッセイ賞受賞!心にかかる男の想いを、いま、初めて言葉に。

と帯にあります。さらに、裏側には

男が生きてきた 忘れることのできない時間と場所があり 忘れられない人々がいる。

と書かれています。これだけ見ると、なんだか映画スターそのままの、かっこいい健さんのすかしたエッセイにも思えてしまいますが、驚くべきことにその内容は、あの「不器用ですから。。。」というイメージからはかけ離れたものでした。

ひと言で表現するならば、茶目っ気、でしょうか。

若い頃の任侠映画での切れ味、熟年からの渋すぎる雰囲気からは俄かに想像できない人柄が、そこにはありました。
いや、少し前にですね、たけしさんの『下世話の作法』という本に、いくつか「健さん伝説」が紹介されていましたので、薄々は感じていたのですが、最近見たNHKのドキュメンタリーでの言葉、そしてすごいタイミングで本の交換会であるブクブク交換でこのエッセイ集が紹介されたこともあり、いても立ってもいられなくなり、手にしたというわけです。

あ、あえて文庫版でなくて当時のものを入手。1991年、第三刷。

長い映画人生で出会った、素敵な人たちとの関わりの中で感じたことを、一話ごと語るというスタイル。そして最後はタイトルからもお察しはつくと思います。やはり褒めてほしいのはお母さん。亡くなった母へのオマージュで締めくくられています。

いやぶっちゃけ、こんなに俗っぽい方だとは思っていませんでしたので、少々驚きながら読みました。
例えば、最新のスポーツカーみたいのも大好きだし、ポンと船を買っちゃったり。勝手なイメージで、禅僧のような生活をされているのではと考えていましたから、こんな少年のような健さんに、あてが外れた悔しさとともに、親近感のわく一冊でしたね。当時ベストセラーになったのは、みんなそんな感情になったからではないでしょうか。

ひとつお話をご紹介いたしましょう。「お心入れ」という話題。主にお茶の世界で、お客様へのおもてなしについての言葉だそうですが、迎える方もさりげなく、もてなされた側も気付いていても言葉には出さず、心でそっと受けとめる。引用します。

お心入れって、いい言葉ですよね。

お心入れがないんですよね、このごろ・・・端的に、どこどこの何でございますって、ちょっと高級といわれる料亭行くと、
「ええ、これは琵琶湖のシジミでございます」って。
「聞いてねえよ」って言いたいときがありますね。
どこどこの和牛でございますとか、これは何とかのヒレでございますとかって、みんな説明しちゃうんですものね・・・。

この自分が今、売る商品に関しての・・・それはある意味では自信なんでしょうけど、僕はだからお心入れっていうのは、お互いにわかっているって、何も言わないで出すんだけれども、これだけはあなたのために自分は選んできたんだって言いたいけれども言わない。で、出されたほうは、これだけ気をつかっていただいて出してもらった、みんなわかってる・・・それはもうある意味では、文化だっていう気がするんですよね。

今は何でもデータを全部書いてしまうでしょう、カタログだって。だから、やれトルクがどうのって、全部出してしまうでしょ。出してないのはロールスロイスくらいですかね。あれ出さないですよね。だから、あそこになんか日本人に近い何かがあるのかなあと思ったり・・・ともかくどこも出しますよね。

僕、出さないものがあってもいいんじゃないかなあって思うんですよね。
本当にそういう時代が来てるんじゃないですかね・・・ぐるぐる回っているんでしょうけどね。

うーん、今の日本人にはもうわかんない感覚ですよねこれ。もちろんわたくしもですが。かといって欧米のようにはっきりモノが言いまくれるかというと全然そうじゃない。かなり中途半端な民族になってしまっている、そんな気がします。
このお話は最後、こんなふうに締められています。

要するに思いが入っていないのに思いが入っているようにうるから具合が悪いので、本当に思いが入ってるのに、入ってない素振りするところが格好いいのかもわかんないですね。

そう、先に書いた健さん伝説の根本がここにありますね。
ものすごいお心入れをしているのに、みんなが気付いたときにはもうそこにいなかったりする。
それは、お金の使い方であったり、時間の使い方であったりするわけですが、どこまでも心を配るその姿勢に、まわりのみんなはポーッとなっちゃうそうなんですね。それでもう心のベクトルは健さんに真っ直ぐですよ。

人間、何が一番幸せって、人様に想ってもらえることだと思うんです。(だからFacebookのいいね!がうれしいのでしょう。)
究極に言えば、自分の葬式で何人の人が泣いてくれるか。それってその人がどう生きたかのひとつの尺度だと思うのですが、結局こういうことの積み重ねでしかないのですよね。積陰徳。

この本を読んでから、わたくしの大きな夢のひとつがはっきりと姿を現しました。
「高倉健さんと焼肉を食べること」
映画の世界では、場末の店でご飯かき込みながら、黙々と食べるイメージですが、もう少しフレンドリーで、お茶目な本当の健さんとね。

言うのはタダです。楽しいじゃありませんか!(笑)

 

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