自分の声はソプラノ?それともテノール?
日本を代表するバス歌手の岡村喬生さんは、早稲田大学グリークラブ(男性のみの合唱)に入団したとき、先輩から
「君のパートはどこ?」
と聞かれ、
「私の母はソプラノですから、自分もソプラノです!」
と大真面目に答えたと言います。
今や男声でも、テクニックでソプラノと同じような声を出す「ソプラニスタ」の存在が有名になりつつありますが、新聞記者になろうと早稲田に入学して、歌が初めての岡村さんがソプラノのはずはないですね。
最初は、天下の岡村先生でもご自分の声は分からなかったのです。
皆さん、自分はソプラノかしら?テノールかしら?と気になりませんか?
クラッシックには声域があり、高い声の順に、女声がソプラノ、メゾソプラノ、アルト、男声はテノール、バリトン、バス、というようになっています。
それでは、どのようにして声域を決めるのでしょう?
私は歌を始める前、「自分は高い声が出ないからソプラノじゃないだろうな」と勝手に思っていました。
しかし、初めて声楽家の先生にレッスンしていただいとき、
「あなたは絶対ソプラノです」
と迷いなく断言されました。
「エっ・・・でも高い声出ないんですけど・・・。」
「最初から高い声を出せる人はいません。
あなたはソプラノの声質ですから、これからトレーニングすれば出るようになります。」
とおっしゃいます。
声域は「声質」で判断するのですね。
極端な話ですが、高い声が出るアルトやバスもいるし、高い声が出ないソプラノやテノールもいるというわけです。
しかし、本来バリトンだったとして、でもどうしてもテノールが歌いたい場合もありますよね。
クラッシックのオペラ・アリアなどは、圧倒的にテノールのほうが華やかな曲が多いのです。
これは、テノールが「王子様」や「ヒーロー」の役をするキャラクターだからなのですね。
また、オペラの主役はほとんどがソプラノ。
素晴らしいアリアの名曲はソプラノの曲が多いのです。
逆に、アルトで活躍する方は歌曲の世界に入っていく方が多い傾向にあると思います。
それでは、好きな歌を好きな声域で歌うことはできるのでしょうか?
声楽家のレッスンに伴奏ピアニストとして行ったとき、芸大大学院生が来ていました。
声質はソプラノだったのですが、アルトの曲がどうしても歌いたくて、無理矢理アルトに転向したと言います。
「この子ね、ほんとアルトが好きなのよ」と先生はおっしゃいます。
好きこそものの上手なれ、でしょうか。一年もしたら、研究の成果が出始め、本当にアルトっぽい声になっていました。
3大テノールの一人プラシド・ドミンゴも、もともとはバリトンでしたが、厳しいトレーニングを積んでテノールに転向した人。
以前の記事でご紹介したマリオ・デル・モナコも同じです。
もともと向いていないと思われる声域でも努力によっては歌うことが出来るようになることがわかります。
それでは、プラシド・ドミンゴの歌で、プッチーニ作曲『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」を聴いてみることにしましょう。
こちらの記事でご紹介したパヴァロッティと比較すると、もう少し高音域を聴かせてほしいと思ってしまうのですが、ビジュアルの素晴らしさと、中音域の充実ぶり、抜群の歌唱力は本当にうっとりしてしまいます。
「ドミ様」のファンが世界中を追っかけするのも分かりますね。