これからのビジネスパーソンに黄金の舌が必要な理由
先日、慌てて電話に出たとき、「永井でございます」と言うつもりが、
「永井でござ~ます」
と、かなり自然に言ってしまいました。
これってもしかしてあの「ザマス言葉」ではないだろうか、と驚きました。
まさか自分がザマス言葉をしゃべるようになろうとは。
「ザマス」と言ってしまったことが気になって仕方なく、電話中相手の話がほとんど耳に入りません。
受話器を置いた後、早速状況を詳しく検証してみました。
まず、全ての子音を取り除いて発音してみます。
「ございます」→「オーアーイーアーウー」
そのときの口の状態は、
「オ」から「ア」は口を開けるだけで舌は同じ位置。
「ア」から「イ」のとき、顎と舌が上に動きました。
「イ」から「ア」は顎と舌が下がります。
「ア」から「ウ」は口を閉じるだけで舌はそのまま。
それではさっき言えなかった「イ」の母音を省略してみます。
「アーオーアーウー」
顎は少し動きますが、舌は全く動かず、口腔内が大変楽でした。
スピードを上げても母音がついてきます。
「イ」の母音を言うときは顎と舌を上下しなくてはならず、負荷がかかっていることに気がつきました。
今回の電話、慌ててしまい、「ア」の母音から「イ」の母音を言うときに思わず舌の動きがついてこなかったようです。
「ザ」から「マ」であれば母音が同じで、舌が上下する必要がなく、より早い動きに対応できたため、意図するしないに関わらず「ザマス言葉」になってしまったのですね。
しかし、こんなに自然に山の手言葉が使えるようになるなんて意外でした。
舌や口の動きを上品に最小限で行う「ございます」が「ザマス言葉」の始りなのではないか、という今回の仮説検証結果でした。
これを考えると、現代の若者風のしゃべり方、昨日の記事でも書いた「トゥィカ先生」というのはもしかしたらカッコイイ発音なのかもしれない、という考えも浮かび上がります。
今後この発音が定着する可能性がないともいえません。
しかし、これらの発音は、歌や正式なスピーチでは使用すべきではありません。
なぜなら、表現に大いなる説得力を失うからです。
もし、スティーブ・ジョブスが舌足らずだったら、あの神通力はなかったと思います。
どんなに早くなっても、強弱がついても、安定した発音で発声することが必要です。
そのためには舌を徹底的に鍛え上げなければなりません。
その一つ、「生麦生米生卵」に音程をつけながら歌う、というトレーニングを行っていますが、特に「イ」の母音に行く「麦」でつまずくケースが多いのもうなずけます。
それでは、バリトン出身のテノール、マリオ・デル・モナコの歌で、ロッシーニ作曲、『セビリアの理髪師』より「私は町の何でも屋」を聴いてみることにしましょう。
「黄金のトランペット」といわれた低音から最高音迄輝きを失わない声。
どんなに超絶技巧の早口になっても響きの密度が濃いのです。
持って生まれた天才とはこの人のことを言うのでしょう。
こう見えて、いつも舞台に上がる前は「自分はもうだめだ・・・」と極度に緊張し震えているモナコを、奥様がドン!と背中を押して、勢いよく転がるように出ていたのだそう。
天才だからこその完璧主義なのかもしれませんが、こんな一面もちょっと身近に感じてしまいますね。