日本人は顎、ラテン系は舌
私が指導を務めるコール・リバティストという合唱団の練習日記です。
発声稽古の中で、先生より母音には「アエイ系」と「アオウ系」がある、というお話がありました。
歌を歌う日本人にとっての〔エ〕や〔イ〕は最も歌いにくい母音とされています。
しかし、ヨーロッパの曲では、曲のクライマックスで最高音に使われる母音の多くは実は〔エ〕や〔イ〕なのです。
その理由として、日本語は顎の上下で母音を発音しますが、ラテン語系は舌のコントロールで母音を発音するという違いがあげられます。
それでは実際鏡の前で試して見ましょう。
ゆっくり「アーエーイー」と発音してみてください。
「イ」に近づくほど顎が上がっていき、口びるが横に引き伸ばされていきます。
これは口の中の容積が狭くなっている証拠です。
ホールや教会に行くと、声が良く響きます。
これは天井が高く設計されているからです。
声楽は身体が楽器。
口の中はこのドームに例えられます。
それでは次に、〔エ〕の発音のまま「ドレミファソラシド・・・」と音を上げていってください。
音が高くなればなるほど苦しくなりますね?
それでは次に〔オ〕と〔ア〕の中間くらいの曖昧な母音の発音で同じように音を上げていってみてください。
どうですか?
さっきつまったところが出しやすく感じたのではないでしょうか?
後の方が日本人にとって口の中の容積を広くとりやすいのです。
ラテン系の言葉で最もオペラの曲がたくさんあるイタリア語の場合、〔エ〕〔イ〕と舌を上に上げながら、発音していくので、口の容積は広くなり、より有利に豊かに響きます。
それでは、その最も良い模範となるルチアーノ・パバロッティの「誰も寝てはならぬ」を聴いてみることにしましょう。
〔イ〕や〔エ〕の口の動きに注目してみてください。
さっき鏡で見た〔エ〕や〔イ〕と違って、しっかり口が開いているのがわかりますね。
特に最後の、「Vincero !」(私は勝つのだ!)の〔e〕では爆発的な高いシが歌われます。
一般的に合唱曲での高音は、女声が高いラ、男声では高いソくらいです。頻繁ではありませんが、女声が高いシ、男声が高いラくらいまでのものもありますが、この音域は出すだけでも大変です。パバロッテイのすごさが分かりますね。
しかしこのパバロッティにして、高音域を芸術的に出すようにするまで、何年もかかったというのを聞くと、あらためて歌の奥深さを思い知らされます。