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鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

電子書籍にどの機能を取り込むのかの判断が難しい

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 佐々木さんが、村上 龍氏のiPad専用電子書籍の「歌うクジラ」について、ビジネス視線のエントリーを挙げている。私は使い勝手のあたりをちょっと考えてみた。

 iPadが出て最初に購入したのは、京極夏彦氏の電子書籍アプリ「死ねばいいのに」だった。これ、いち早く出したということでかなり画期的だと思ったのだけれど、使っているうちに電子書籍のできとしてはまだ模索中なんだなぁと感じる部分もいくつかある。

 まず気になったのが、ページ送り。AppleのiBooksで実現しているような紙をめくるようなアニメーション効果は一切採用していない。めくりたい方向に指を滑らせれば、ページがその方向に流れるタイプ。縦位置の1ページ表示で読んでいる時にはまああまり気にならないのだが、横位置の2ページ表示だとそのままの状態でそれが横に流れていくのが、なんとも本を読んでいるのだぞというのには違和感が。まあ、めくるよりはスピーディーにページが移動できるので、その点はいいのだけれど本を読んでいる感には欠けるのだ。

 もう1つ気になるのが拡大、縮小。ピンチで大きさを変えられるのだけれど、画面全体が拡大、縮小されてしまう。ページの一部だけ大きくなってもあまり意味がないような。別途文字単位で大きさが変えられ、それに応じてページの送りが自動的に変更される機能もあるので、小説ならそちらの機能だけで十分だろう。

 面白い機能としては、縦書き横書きを自由に選択できるところ。どちらでもルビにもきっちり対応している。その他にも感想を送ったり映像を見られたりと、このあたりは電子書籍ならではの機能で面白いところだ。

 で、後発の村上龍氏の「歌うクジラ」。こちらは、どちらかというとかなり割り切った感じがするものだ。ページめくりはこだわりの紙のめくりと同じアニメーションを採用している。じつは、これ、プログラミングで実現しようとするとかなり面倒な部分でもある。ページめくりには手間をかけているのだけれど、そのぶん「死ねばいいのに」で実現しているような機能の実現を、すっぱり切り捨てているようだ。

 まず割り切っているのが、横にしたときの2ページ表示機能がないこと。さらに、文章も横書き固定でルビすらない。音や音楽にはこだわりは見せたけれど、従来の本らしさの再現のところには、ページめくり以外あまりこだわりを見せなかったようだ。横書きで2ページ表示にも対応しないというのは、小説だと思うとかなりチャレンジしたように思えてくる。

 とはいえ、電子書籍はなにも紙と同じにする必要はない。電子書籍なりの機能豊富な完形というのは定義できるかもしれないが、実際のところ機能のどれを取り入れれば読者が喜ぶのか、その判断は難しい。縦書きやルビにこだわりたいところでもあるけれど、それを実現する手間とコストが読者に受け入れられるだろうか。あるいは、音楽や映像などのこれまで紙にはなかった付加価値を、どう受け入れてくれるのだろうか。このあたり、さまざまなタイプの電子書籍アプリが世に出てこないと、なかなか判断が難しそうだ。

 個人的にはページめくりはあったほうがいいかなと思っている。あとは、文字検索機能としおりあたりが最低限の機能か。さらに挿絵は是非欲しい。その挿絵がちょっと動いたりするとさらに嬉しいかな(作るのは大変だけれど)。

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