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鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

溝の口の古い病院だった建物がテクノロジーと組み合わされ気持ちの良いシェアオフィス、コワーキングスペース「nokutica」になった

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外出した際に、シェアオフィスやコワーキングスペースを良く利用する。以前に比べればカフェなどでも電源やネットワークの確保は難しくなくなったが、コワーキングスペースなら確実に席が確保でき、人の出入りも管理されているので少しセキュリティ面での安心感もある。

床面積がさほど大きくない少々古い都会のビルは、最近需要が下がっていることもあってか、賃貸オフィススペースがシェアオフィスやコワーキングスペースに転換される例が増えている。賃貸物件は宣伝やマーケティング活動を頑張れば、売り上げが伸びるものではない。待ちのビジネススタイルなので、市場全体の需要が下がっているとビジネスは難しい。待っている間はコストなので、積極的に業態を替えスペース活用による新たな需要を喚起しているのだろう。

溝の口に拘った街の魅力を上げる取り組み

コワーキングスペースがあるのは、都会の中心部ばかりではない。コロナ禍でリモートワークが当たり前となら前から、都心から少し離れた乗換駅などの周辺にも、コワーキングスペースやシェアオフィスが作られている。自宅ではリモートワークがやり難い際に、満員電車に乗ることなく近くのコワーキングスペースを利用できるのは便利だ。

東急田園都市線溝の口駅近くに、シェアオフィス、レンタルオフィスの「nokutica」がある。これは築90年の建物をリノベーションしたちょっと変わったスペースだ。201712月にnokuticaをオープンした当初、溝の口には他のコワーキングスペースはなかった。その後は徐々に増えピーク時に8ヶ所ほどになるが、今は減り4ヶ所に落ち着いている。そのうちの2つとなるnokuticaとシェア型複合施設のOneを展開しているのが、溝の口で長く不動産事業を中心に展開しているNASSETだ。

NASSETでは、事業方針として溝の口とその周辺に住み続けたい人を増やすことを考えている。「街の魅力を上げ人が集いやすく、子どもを育てやすくしたい」と言うのは、株式会社エヌアセット 取締役 事業企画部 部長の山下直毅氏だ。田園都市線沿線には二子玉川やたまプラーザなどのおしゃれな街もあるが、それらと勝負するのではなく人々が集い最終的には老後に至っても住みやすい街にしていきたいと言う。

不動産物件の価値は、物件そのものの良さもあるが、街の魅力とも切っても切れない関係にある。そのためNASSETは、溝口という地元に拘り、さまざまなビジネスを展開している。その対象としているのは、溝の口が位置する高津区くらいまでだ。

ビジネスの中心は不動産物件の売り買い、貸し借りの流通と、建物のメンテナンスや入居者対応などの管理。外国人向けの賃貸などにも力を入れており、賃貸仲介業務は4カ国後に対応。そのためのスタッフも用意している。さらに、コロナ禍以降に需要の高いオンラインでの部屋探しサービスなどにも積極的に取り組む。

管理のビジネスでは、物件のリノベーション、宅配ボックスやシェアサイクルの設置など最近のユーザーニーズに対応する提案を行っている。他にも企業主導型保育園の「こころワクワク保育園」や地域との関わりを持つ取り組みとして「エヌアセット野菜市」、地域の人たちとのゴミ拾い活動である「グリーンバード溝の口」など多様な活動もある。

壊すのではなくリノベーションして新たな利用を

他物件オーナーの相談にも対応しており、ビジネスの枠にとらわれない柔軟な提案、対応も行っている。その対応の中で、かつて病院、診療所を運営していた古い物件に出会い、それをリノベーションをして実現されたのがnokuticaだった。

nokuticaの建物はかなり古く、近所では「少し怪しい空き家」として認識されていた。とはいえ病院だったこともあってか、建物の作りはかなりしっかりしていた。敷地も十分にあったので、取り壊して新しい建物を建てる提案もできた。オーナーは将来的に建て替えるような活用も視野に入っていたが、それは少し先の代替わりなどのタイミングでと考えていた。

そこで次の活用方法が決まるまでの間、これを有効に利用できるようにしたい。そこでNASSETでは10年間これを借り、新たな運用をする提案をした。取り壊すのではなくリノベーションして「新たな街のランドマークにしたいと考えました」と山下氏。当初は流行りのシェアハウスも検討したが、そのためには設備を揃えかなり手を入れる必要があった。大きな変更を加えることなく実現でき、幅広い人が利用できるシェアオフィスにすることとしたのだ。

シェアオフィスにしようとした考えた際に、「まず珈琲スタンドはマストでした」とも言う。人が集まり安心して過ごせる空間には珈琲と言う要素が欠かせないと考え、珈琲スタンドの誘致が決まってからテナントの計画、構築を始めたのだ。

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そのためのリノベーションに当たり、重視したのは古くても使えるものはなるべく活かすこと。その上で新しいデジタルテクノロジーなども導入して、安心で便利な空間作りをしている。対象はもともとしっかりした建物で、従来の雰囲気を保ちながら耐震性にも配慮したリノベーションを行っている。実際にnokuticaをワーキングスペースとして利用したが、新しい近代的な建物にはないなんとも落ち着いた雰囲気は、なにか新しいアイデアを生み出せそうだと感じた。

古き良きものを新しいテクノロジーと組み合わせて継続的に活用できるようにする

古いものをなるべく残してリノベーションをし、使い勝手やデザインをより良いものにする。そのためには単純に造作をいじるだけでなく、新しいテクノロジーも活用した。その1つが電子鍵のソリューションであるAkerunだった。シェアオフィス、コワーキングスペースとして利用するので、さまざまな人が出入りすることとなる。

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専用のオフィススペースを利用する人もいれば、コワーキングスペースを利用する人もいる。もちろん管理するスタッフもいる。鍵が必要な人全てに物理鍵を配るような運用もあるが、利用できる時間などをきめ細かく管理するには電子鍵が必要で、さらにそれを細かく成業できる仕組みも必要だった。Akerunnokuticaの出入り口だけでなく、同じ溝の口にある本社の自動ドア、併設されるコワーキングスペースのOneにも採用されている。「プランが細分化していて、時間帯や曜日ごとに細かく権限を設定できる電子鍵のソリューションは、当時Akerunしかありませんでした」と山下氏は言う。

不動産の事業をしているので、NASSETでは物理鍵の管理の煩雑さは良く理解している。実際、4000室あまりの物件に対し1万本ほどの鍵を管理しており「時には間違えることもあります」とも言う。とはいえ、オーナーがいる賃貸物件の鍵などは電子鍵にすぐに置き換えられるものでもないのだ。一方、本社自社で運営するシェアオフィスならば、リモート管理できるAkerunのような仕組みがピッタリニーズに合ったと言うわけだ。

AkerunAPIを提供しており、それを用いてシェアオフィスの顧客管理も行っている。「アプリケーションを作り、それを使って今誰がチェックインしているかも見える化をしています。告知機能などもあり、利用者もここで情報発信できるようにもなっています」とも言う。この仕組みはコワーキングスペースの管理の仕組みとして依頼し構築し、決済の仕組みなども実現しており、既に40社ほどが利用するシステムにもなっている。

価値ある古い建物などを文化遺産的に「保存」する、「保護」するという考え方もある。そうではなく古くても良いものは「保全」しながら、新たな活用をしていく。これは最近流行りのサステナビリティの考え方にも合致する。その際にデザインなど見た目的な工夫をするだけでなく、新しい技術を取り込みより使いやすくして積極的に活用できるようにすることも重要だ。そうすることがNASSETで目指している「街の魅力を上げ人が集いやすく」することにもつながりそうだ。

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