新型コロナ: アメリカの状況など、訂正とアップデート
※支援リンク追加→「新型コロナウイルス感染症に関する専門家有志の会」
(本記事とは無関係です)
※2020/4/2追記。「新型コロナ: お詫びとお願い」という記事を書きました。(こちらにもリンクを追加します)
前回の内容で、アメリカの感染者数と検査数についての指摘は間違っていました。申し訳ありません。その訂正を含め、アメリカの状況を中心にアップデートします。
■政治的な話
訂正を後回しにして書くようなことか迷うのですが、まずトランプ大統領について記しておきます。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」について、CDCは日本の対応を批判していないと書きました(批判していた米メディアはあった)。しかし、トランプ大統領は「日本の対応が悪い」と批判していました。これについて、麻生財務大臣が苦言を呈している興味深い動画があります。
→2020年3月19日「財政金融委員会(第五回)」※16:59以降
また、最近、トランプ大統領は煽るように「"中国"ウイルス」と呼んでいます。感染症の名称として地名を付けるな、と言われているにもかかわらず、です。
後述しますが、アメリカの状況はよくありません。先に書いた通り、トランプ大統領がコストカットといってCDCからNSCからパンデミックチームを解雇(※)したために対応が遅れたせいだとしたら、民主党からの攻撃材料になりえます。最近、民主党議員によって検査の無料化が実現したようですが、無保険者の感染が問題視される中、オバマケアの見直しに積極的だったことは危機管理意識を疑問視されても不思議はありません。CDC幹部が「(パンデミックは)起きるかどうかの問題でなく、いつ起きるかの問題だ」と警告していた2月下旬に、トランプ大統領は「米国では(感染は)制御下にある」と楽観的なツイートをしていたくらいです。
状況が悪化した今、これまでの責任を他国に転嫁するため、CDCと連絡を取ってダイヤモンド・プリンセスに対応していた日本や、発生源と言われる中国を、ことさら悪者にしているように見えます。
はたして大統領選の行方はどうなるでしょう。
※2020/3/22追記。
トランプ大統領が、このツイートをRTしていましたので、以下に紹介して、本文を修正します。
1) Trump did not cut funding for the CDC. It has increased since he took office.
2) Trump did get rid of the NSC Pandemic unit.
3) Trump did not call the China Virus a hoax.
4) Trump did not silence scientists, China did.(私訳)
1) トランプはCDCの予算を削減していません。就任後に増えました。
2) トランプが解雇したのはNSC(国家安全保障会議)のパンデミック部門です。
3) トランプは"中国ウイルス"をでっちあげとは呼んでいません。
4) トランプは科学者を黙らせていません、中国と違って。
■アメリカにおける検査数と感染者数
さて、本題です。前回は計算のもとになる数字も計算も間違っていました。まずは英語を読めとのコメントをいただきましたが、日本語で書いてあっても読み間違えたかもしれません。お恥ずかしい限りです。
さて、CDCは検査情報の収集が遅く、数日前のものしかサイトに反映されていません。ここ数日で検査や感染者が急増していますが、CDCのサイトでは数日前のものしか検査数がわかりません。そもそもCDCが検査情報を公開するようになったのは、1週間くらい前からのようで、しびれを切らした有志により https://covidtracking.com/ というサイトが作られています。こちらから、日々の陽性(positive)/陰性(negative)/保留(pending)/死亡(deaths)の情報が得られます。
この情報から日ごとの増加分と陽性率を計算すると、次のようになります。(保留を除外し、陽性+陰性を検査数としています)
日付 | 陽性数 | 検査数 | 陽性率 |
3月5日 | 176 | 1,129 | 15.59% |
3月6日 | 47 | 665 | 7.07% |
3月7日 | 118 | 356 | 33.15% |
3月8日 | 76 | 602 | 12.62% |
3月9日 | 167 | 1,199 | 13.93% |
3月10日 | 194 | 634 | 30.60% |
3月11日 | 275 | 2,446 | 11.24% |
3月12日 | 262 | 2,233 | 11.73% |
3月13日 | 607 | 6,271 | 9.68% |
3月14日 | 528 | 4,017 | 13.14% |
3月15日 | 723 | 6,169 | 11.72% |
3月16日 | 846 | 14,402 | 5.87% |
3月17日 | 1,704 | 13,204 | 12.91% |
3月18日 | 2,008 | 20,629 | 9.73% |
3月19日 | 3,992 | 26,886 | 14.85% |
3月20日 | 5,315 | 34,343 | 15.48% |
検査数が大幅に増えているのはよいことかもしれませんし、日々の割合にムラがあるのはしかたないとはいえ、幅広く検査するほど陽性率は下がってもよさそうなところ、かえって高くなっているくらいです。(前回の間違った数値はさておき)累計でも17038/118147=12.6%というのは、けっこう高い数値です。
こちらの記事によれば、フランスでの検査は「重症のかぜ症状がある患者のみ」としているそうです。ourworldindataによれば、フランスの3/15時点の検査数は36747件です。そして、WHOによるこの日までの感染者数は4469人で、陽性率は12.2%です。
つまり、アメリカでの検査は重症者のみを調べているフランスよりも陽性の人に当たる確率が高いということです。ちなみに、日本の最新情報では981/18134=5.4%で、18人検査して1人の陽性者が見つかるという程度です。
実は、アメリカでは初期には検査数は多くありませんでしたが、それ以上に感染者が少なく、陽性率は低いものでした。しかし、これが「疑わしい人」を検査していたのではなく、「対価を払える人」を検査していたとしたらどうでしょう。もともと医療費が高額なことで知られている国です。
また、日本は中国以外の感染者が初期に発覚した国の一つですが、その時期は「春節の人気旅行先トップ」だと言われていました。実際、最初の感染者は中国からの旅行者を乗せていたバスの運転手でした。
しかし、この人気は短期の場合で、長期の人気旅行先トップはオーストラリア、次いでアメリカでした。トランプ大統領は早々と中国からの渡航を規制しましたが、そもそも中国とアメリカは交流も多く、それまでに入国していた感染者もいたことでしょう。初期に必要な検査が行き届かなかったことで、今になって大量の感染者が発覚しているとしか思えません。
今年、アメリカではインフルエンザが猛威を振るって多数の死者を出しているという報道もありました。それらが実は新型コロナが原因じゃないかと疑われ、名取宏氏が「考えにくい」とツイートしていたことがありました。しかし、実数はともかく新型コロナをインフルエンザと誤認していたケースがあることをCDCの所長が認めています(動画)。これは「相当数が新型コロナ」を肯定するものではありませんが、検査が行き届いていなかった証左にはなります。
「アメリカの新型ウイルス検査は失敗している」と認めている記事もありました。
■比較するなら感染者より死者数
先のコメントでも答えましたが、実は国ごとの感染者数を比較したり合算しても、あまり意味はないと思っています。機材の使い方、対象者のスクリーニング、そもそもの医療制度や検査体制など、国ごとにバラバラなためです。前述した重症者を中心に検査するフランスと、幅広く検査している韓国は、それぞれ百万人あたりの感染者数が193人と172人で、それほど大きな違いはありません。しかし、検査のアプローチが違えば、その実状も違うはずです。私は、各国の感染者数は増加ペースの目安くらいにしか考えていません。
まず、PCR検査には偽陰性/偽陽性があります。文春の記事を引用すると、「PCR検査の感度は高くて70%程度」、つまり30%以上は偽陰性になり、たとえ検査で陰性になったとしても安心できるということではありません。逆に、「仮に特異度が極めて高く99%だったとしても、100に1人は感染していないのに「陽性」と判定されてしまう」そうです。韓国では日本と同じ機材を使いつつ精度を犠牲にしているそうですから、もっと誤差が高くなっても不思議はありません。
韓国では、これまでに30万人の検査をしているそうですが、「少なくとも1%が偽陽性になる」と見積もっても3千人以上が「感染していないのに陽性と判定されている」ことになります。これが2%だったら6千人です。現在の韓国の感染者数は9千人弱ですが、偽陽性の人数は無視できるレベルではありません。しかし、だからこそ韓国では医療崩壊には至っていません。感染していない人は、そもそも無症状か、何か別の理由で具合が悪い程度でしょう。そうした人を隔離する施設さえあれば、医療リソースが大きく割かれることはないからです。
比較して意味があるのは死者の数です。(重症者数も意味がありますが、判明していない国があります) とくに日本では感染症法により、感染症の肺炎で亡くなった人は原因を特定しなければならないそうです。実際、亡くなってから新型コロナの感染が判明した人が数人確認されています。この方々は生前には新型コロナの診断を受けられなかったという批判はあるかもしれませんが、そもそも現時点では治療薬がありません。
なお、肺炎の検査にはPCRよりもCTの方が確実という話もあるようです。日本医師会総合政策研究機構の資料(PDF)にp.44によれば、人口100万人あたりのCT台数は2位以下を大きく引き離してトップです。(しかも、日本の医療費は現実的な金額です)
無症状の上に実は陰性といった"誤差"がない分、新型コロナによる死者数は、各国の現状を比較する目安になります。先のフランスと韓国では、フランスの死者が韓国より4倍も多くなっています。イタリアは、すでに中国の死者数を上回っていますし、スペインやイランも千人を超えています。ドイツは感染者が2万人を超えていますが、死者は73人ですから、まだ深刻ではなさそうです。検査体制の整っていなかったアメリカは、そもそも死者を追跡できていないおそれがあります。
なお、感染者数が多く死者数の少ないドイツについては検査数の情報が見当たらないのですが、Los Angeles Times の記事(3/10付)によれば、ドイツでは1週間で35000件を検査し、翌週は1日12000件を検査できるようになったそうです。("There were 35,000 coronavirus tests done in private practices last week with an unknown number also being carried out at hospitals, according to the KBV German Assn. of Physicians. The country has ramped up capacity and can now perform 12,000 tests per day.") そこそこ多数の検査がなされているようですが、その分偽陽性の人も多いと推察されます。
■科学は政治に勝てないのか
岩田健太郎氏の記事を読みましたが、勝てなかったから政府の意向にしたがってクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の全員検査なんてしたのではないでしょうか。オークランド港に入港したクルーズ船「グランド・プリンセス」について新たな情報がありました。検疫のため軍事施設に隔離されている乗客858人のうち、568人が検査を拒否したそうです。なぜなら「検査を受けなければ検疫期間を過ぎて解放されるけど、検査を受けて陽性の場合は陰性になるまでさらに長い間待たされるから」だそうです。これこそ「全員検査させる」(ペンス副大統領)という政治よりも、「無駄な検査をするな」(岩田健太郎氏)、「全員検査に医学的な意味はない」(和田耕治氏)という科学的見解が勝利した例でしょう。
ことさら検査、検査と煽る人たちは、科学に逆らっているようにしかみえませんし、日本の政治が科学よりも多数意見を重視しているのは残念なことです。
■私的展望
ハウステンボスやとしまえんなど、屋外を中心とした遊園地などが部分的に再開しているようです。どこも感染源にならないかビクビクしていることでしょう。イベント自粛要請の前にクラスターの原因となった大阪のライブハウスなどは、"被害者"であるはずなのに心ない中傷を受けているそうです。これがインフルエンザだったら、「どこかでもらってきたかな」くらいで済ませられるのですが、そうならないのが新型コロナです。新型コロナの感染が判明したとたん、消毒や封鎖したり、追跡検査がなされるような状況では、本格的な経済活動の復活はないでしょう。
その意味で、オリンピックを予定通り完全な形で開催するなど、空論のようにみえます。実際、メジャーリーグやヨーロッパのサッカーなど、大きなスポーツイベントが軒並み延期されています。とくにオリンピックの場合は、選手の選考をはじめ、放送権料、選手村、報道センター、ボランティアなどを考えると、「中止」以外に見直しができる気がしません。
それでも東京オリンピックが通常開催にこだわっているのは、放送権料などの収益が未来のオリンピック活動に必要だからです。公式サイトの資金の流れを見ると支出の10%が運営費であり、90%がオリンピック競技や選手のために使われていることがわかります。もちろん、そんな資金がなかった時代もあったわけで、しばらく予選会を各国で勝手にやらせるという選択肢はあるのかもしれませんが、IOCが自分の金儲けのために開催にこだわっている、というような叩き方は、あまり適切でないように思います。もっとも、秋にずらすならマラソンを東京に戻せよ、くらいは思いますけれどね。