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相続税を100%にするということ

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維新の会、遺産全額徴収も検討 「国家元首は天皇」明記」(47NEWS)などで報じられている通り、橋下徹大阪市長が率いる大阪維新の会は「不動産を含む遺産の全額徴収を検討している」そうです。維新の会の計画が、日常的な住居を含むのか、農家にとっての仕事場である農地を含むのか、あるいは例外とするのかはわかりませんが、ここでは相続税を100%にするということについて考えてみます。

相続税を100%にしろという意見は、とくに目新しい意見というわけではありません。「この世で確かなものなどない。死と税金を除いては」(ベンジャミン・フランクリン)という名言にもあるとおり、誰もが税金を負担しなければなりません。そして、誰しも税金は自分以外からこそ徴収してほしいと思うものです。“持たざる者”にしてみれば、“持つ者”にできる限り税金を負担してもらえれば、自らの負担を減らせると思うのも当然です。かつて土地バブルが起きていた頃には、自宅の評価額が高騰して相続税を支払えないために手放さざるを得なくなった人々がいました。当人は「相続税が重い」と感じるでしょうが、一方で「相続するような土地家屋がない人と同じになるだけ」という冷めた意見もありました。

■贈与税との関係

私が「相続も贈与も税率は同じ」ということを知ったのは「大誘拐」という映画でしたが、相続税を100%にする場合、もっとも気になるのは贈与税をどうするのかということです。相続税強化を公言されている小飼弾氏が、私の疑問ツイートに対してコメントされたことがあります。

生前贈与だらけになるべき。今は金が老に淀んでいるのだから< @mohno 相続税100%って人は、贈与税も100%課税せよというのかな? でなきゃ生前贈与だらけになりそうだけど(突然死んだ人は負け組)< @dankogai http://ht.ly/5000c
https://twitter.com/#!/dankogai/status/72137841529978880 より)

氏のブログを読んでも、相続税を100%にする代わりに贈与税を軽減する(なくす?)という主張のようです。

Comics39_lo相続税を100%にしても贈与税をなくしてしまったら、まさに生前贈与ばかりになるでしょう。そもそも、そのような抜け道にならないように贈与税が設けられているのです。贈与税は相続税法に規定されているのもそのためです。相続税と贈与税の差を乖離させておく限り、生前贈与の蔓延を防ぐことはできません。不慮の事故など急死の場合ですら、死亡届を遅らせて生前に贈与する形を取る(少なくとも生前に準備をしておく)といったことも増えるでしょう。

こんな抜け道を用意していたら、相続税による徴収増など望めません。相続税を100%にすべきと言いつつ、贈与税を軽減する(なくす)べきと言っている人は、むしろ税負担を軽減させたいと思っているように見えます。そうでなければ、社会の動きを考慮できていない(つまり考えが足りない)ということです。維新の会は、どこまで“考えて”いるでしょうか。

もちろん、相続税も贈与税も100%にせよ、という主張はありえます。実際、相続税100%という制度を抜け道なく実現しようとすると私有財産を制限した社会主義的な国家になるでしょう。そして、そのような社会が望ましいという人々がいることまでは否定しません。ただし、私は、まったく同意しません。

■資産の海外移転

少し前に見たテレビ番組で知りましたが、アメリカで多額の投資を条件として外国人に永住権を提供するという自治体があるそうです。自治体としては投資が進むことで地元での雇用が増え、外国人にとっては(自由の国)アメリカに永住できるという“Win-Win”の関係が成立するためです。番組では中国の富豪家族が移住するようすが紹介されていました。

日本は海外への移住を規制しているわけではないので、とくに大資産家について、そのような形で資産(を持つ人)の海外移転が進む可能性はあります。大阪だけ率先して相続税を100%にした場合に、それでも大阪にいる資産家が大阪に残ってくれるかどうかを考えてみるとよいでしょう。

どこかの“識者”が語るだけであれば「社会的に受け入れられるはずがない突拍子もない主張をして目立とうとしているだけ」かもしれないと思うところです。しかし、「君が代」問題にしても、維新の会が相続税100%を本気で考えているのではないかと思うと、やや気になるところです。

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