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影響を与える観測

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電子を“見る”ためには、“光”(光子)をあてる必要があります。しかし、光子をあてることで電子の軌道が変化してしまいます。このように観察すること自体が対象物に影響を与えてしまう場合は、純粋に「客観的な観察」はできないことになります。もっとも、より大きなレベルでは光子が与える影響は極めて小さいので、ほぼ客観的に観察できます。

前回のエントリでは、「不幸の予想は外れても予言者にとってのリスクが小さい」と書きましたが、不幸を予想すること自体がその不幸の可能性を高めてしまうこともあります。たとえば、知名度が高い人が「あの銀行が危ない」と発言すると、実際には健全な経営であっても取り付け騒ぎが起きて危ない状態になることがあります。wikipedia の「取り付け騒ぎ」の項目には、日本での事例が紹介されていますが、予想を公表したことが対象に影響して予想を成立させてしまうということもありえます。

以前見たテレビでは、メールマガジンで企業の株価の上昇や下落予想をメールで伝えるというサービスを提供している人が「株の神様」と呼ばれていました。メルマガ購読者へのインタビューで「本当にメールで伝えられた通りになるから、凄い」と称賛されていたのです。しかし、ある程度の会員数を持つようなら、日頃の取引量が少ない企業について「株価が上がる」「株価が下がる」と伝えることで、その会員が株を買ったり売ったりする力が働くのも当然です。これは純粋に予想を当てているとは言えません。

Winny 開発者逮捕の際、しばしば「これで開発者が萎縮する」と伝えられることがありました。私は「技術は中立だから技術者は責任を負わなくてもよい」とか「表現の自由があるから発言者は責任を負わなくてもよい」という意見には与しませんが、それでも Winny のように著作権侵害を容易にするツールの開発が萎縮される程度であって、一般的な技術利用に影響を与えることはないだろうと考えていました。これで P2P そのものにリスクを感じてしまうような開発者は、どうせたいした力量を持ち合わせていないでしょうから、大勢に影響があるとは思っていませんでした。

しかし、利用者からすれば「Winny も P2P も一緒くた」であり、利用者側で P2P 技術が使われているツールを避ける傾向が見られたという話はあるようです。開発者からすれば使われないものを作るのは無駄ですから、その意味で「開発者が P2P 技術を避ける」という結果を招いたことは事実として存在することかもしれません。しかし、これは「逮捕」によって萎縮したのではなく、P2P という技術の中立性が伝えられず、「開発者が萎縮する(ような技術)だと誤って伝えられてしまったこと」によるものです。

福島原子力発電所の事故について、どんな統計を持ち出したところで「影響がない」と断言はできません。しかし、原爆が投下された広島・長崎や世田谷の民家にあった夜光塗料の缶のことを思うと、有意の影響があるのかは疑問だと思っています。一方、“影響(と言われるもの)が観測される可能性”はあってもおかしくないとも思います。もともと避難生活を余儀なくされて、日々不安を抱えているわけです。その上、危ない、危ないと伝わってくるのですから、心労で体調が悪くなっても不思議はありません。

冷温化が発表されたとはいえ、事故が起きれば長期にわたる対応に迫られることがはっきりしたのですから、費用対効果などに関係なく脱原発を目指してもよいとは思います。石油資源が続く限りは、せいぜい発電コストが高くなったり温室効果ガスの排出が増える程度で、「絶対に替えがきかない」ものではありません。ただし、因果関係を特定することは、本来慎重な調査が必要なもので相関関係だけで因果関係を明言することはできないことは理解しておくべきだと思います。

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