アメリカの著作権ルールを海外の著作物にまで押しつけるのは不当か?
われながら、何度も同じ話題を続けるのはどうかとも思いますが、ブック検索の和解について日本文芸家協会が抗議声明を出したとの報道がありました→声明文(PDF)。もっと早くに出ていてもおかしくないと思うようなものですが、この声明文にはいくらか疑問があります。
まず、
日本の著作権者が和解案に困惑していることが明白であるにも拘わらずGoogle Japan Inc.(以下日本グーグル社)には責任ある相談窓口も設けられていないことをみても、米グーグル社の姿勢にはいささかの誠意も認められない。
とあるのですが、そもそも、今回の和解通知書が米グーグル社名義で出されていることからも、日本グーグル社は関係ないのではないでしょうか。また、この和解はグーグル社が単独で決めたことではありません。そのため和解専用のサイトが用意されており、和解管理を委託されたコンサルタント会社によって、電子メールや電話(無料)での問い合わせを受け付けています。質問によっては、回答までに(とても)時間がかかるのですが、これまで日本から約140件の問い合わせを受け付けているそうです。日本文芸家協会は、「誠意がない」などという前に、この問い合わせ窓口に連絡してみているのでしょうか。
また、
確かに、同和解案は、米国の法律、訴訟手続上は適法、有効なものであるかもしれない。しかし、米グーグル社の提供するネットワークサービスの巨大さ、全世界に広がる利用者の膨大な数、世界中のどこからでも利用できる利便性等の特殊性に鑑みれば、同和解の結果が、米国内のみならず、全世界の著作権制度、訴訟制度をそれぞれ異にする国々の著作権者をも、米国の法律・手続により一方的に拘束することとなり、極めて不当なものである。
とも書かれています。しかし、ある国の著作権ルールが海外の著作物の利用を拘束するのはベルヌ条約で決められていることです。ベルヌ条約の第五条(2)には、
(2) (1)の権利の享有及び行使には、いかなる方式の履行をも要しない。その享有及び行使は、著作物の本国における保護の存在にかかわらない。したがつて、保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。
と書かれています。つまり、著作権保護の方法は、各国の法令で決めることができるのです。実際、レンタルCD(レンタルレコード)は海外にはない日本独自の制度ですが、もちろん合法です。合法化された当初、当然ながら海外からの反発はあったようですが、それは「レンタルするな」といっても禁止できないからです(後年、こうした声に応えて1年間の禁止期間を設けています)。また、不正アップロードされたコンテンツのダウンロードも、日本は私的複製が明文化されているので合法とされていますが、これは日本の著作物も海外の著作物も同じです。だからこそ、米国による年次改革要望書で違法化してほしいという要望が来ているわけです。
これに限らないのですが、著作権については権利者の代表とされる方々のご意見に、しばしば論理的な欠陥が見られ、説得力を感じないことが少なくありません。この和解についても、直観として不安や憤りを感じるという点は理解するのですが、心情に訴えてみたところで相手もビジネスですから易々と受け入れられるものではないでしょう。世の中は知的財産を専門にされている方もいらっしゃるわけですから、必要ならばそうした方々の支援を仰ぎつつ、理路整然とした内容で抗議すべきように思います。
なお、最後の段落では、
私たちは、今回の米グーグル社の和解案提示をめぐる諸問題について和解案の原告であるアメリカの作家団体代表と話し合い、情報交換する場を持ちたいと願っていることを表明する。
と書かれています。実際に、和解管理者と電子メールでやりとりしましたが、彼らは必要ならばいつでも通訳を連れて、こうした組織に会いに来ると言っていました。まったく無意味な声明とは言いませんが、こうした経緯を考えると日本文芸家協会が当事者に連絡を取ろうとしているようには見えません。まずは当事者への連絡を試みるべきだと思います。(もちろん、このエントリも、ですね)
※追記。
今回の和解は米国限定のものですが、「Google ブック検索のこれから」によれば、「この和解契約がもたらすメリットを世界中のユーザーに広めたいと考えています。」とあります。版権レジストリは、米国だけを想定しているわけではありません。和解への対応は著者の判断にゆだねるという大手出版社もあるようですが、この和解契約が日本にやってきたときにも、同じ姿勢で対応されるのでしょうか。いや、もちろん、自らの意思で積極的に和解に応じるという著者の意思を否定するものではありません。