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英語でコーヒータイム(42):Disruptive Technology 破壊的技術

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イノベーションと並んでIT業界では流行語となっているDisruptive Technology。日本語では「破壊的技術」と訳されていますが、この訳語がどうしても私にはしっくり来なくて悩んでいます。「破壊的」と日本語で聞いた瞬間に、非建設的なイメージを抱いてしまうからなのですが、今回はこの「破壊的」にチャレンジしてみたいと思います。

disruptiveとは本来どのようなニュアンスを持っている単語なのでしょう。

Disruptiveを辞書で引いてみると、①邪魔をする、②中断させる、③秩序を乱す、などが掲載されています。Disruptには、「それまでスムーズに流れていたもの、連綿と続いていた流れに棹をさす」というニュアンスがあります。横やりを入れるとか、阻害するという言い方もできます。破壊とは印象が違うでしょう?

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Disruptiveには「秩序を乱す」という意味もあり、これが実はdisruptive technology の本質に触れているのではないかと思います。それまでの「常識」、「標準」「定型」を覆すのがdisruptive technologyである要件です。

例えば白タクサービスのUber。発祥は、自分の空いた時間に自分の車を使ってハイヤーの代わりをするサービスで、消費者/ユーザ自身による共有経済(sharing economy)の一つとして登場しました。現在では、代替タクシー(taxi alternative)として商用サービスになっています。なぜUberが秩序を乱すビジネスモデルだったかと言いますと、まず運転手はそれを生業とするプロのドライバーではなく、一般の消費者だったからです(今ではタクシーの運転手がUberの運転手を兼ねていることもあるそうです。)しかも、目的地に着いた時点で金銭のやり取り(トランザクション)が発生しないというのもこれまでの常識を覆すコンセプトでした。あらかじめ、登録しておくクレジットカードに自動的にチャージされるしくみになっています。さらにUberのすごいところは、Uberの現在地が地図上で表示されるため、自分の周囲に何台のUberがいるのか、申し込みをした時、あと何分で迎えに来てくれるのか、もしくはどこまで来ているのかが確認できること、必要に応じてドライバーと電話やSMSで連絡が取りあえること、目的地に到着するまでの経路が地図上で表示されることなど様々な技術がマッシュアップされている点です。申し込む前におおよその料金見積もりを出す機能もありますし、領収書には、走行距離や停止時間等の料金内訳が明記されているのみならず、乗った時点から目的地までの経路が表示されるため、道に迷ったり意図的に遠回りした場合には苦情申告ができるようにもなっています。苦情処理のカスタマサービス品質はサービスにうるさい日本人でも感心するレベルです。

このように、それまでの常識を破るコンセプトを実現する技術こそがdisruptive technologyなのです。それを「破壊的技術」と呼ばれてしまうと、何か違うなぁという腑に落ちない感が残るというわけです。

破壊という日本語の英訳を考えてみると、break、crashに始まりdestroy、destructと多種多様あり、それぞれにニュアンスが異なりますが、disruptが筆頭にでてくることはないので、「破壊的技術」を英訳する際には注意が必要です。Disruptはどちらかというとdisturbに近い語感を感じます。Destroy、destruct、disrupt、disturb、disruptと似たような単語がいくつもあるので、つい混乱してしまう、なかなか使い分けがわからないという方もいるかも知れませんが、一つ一つの単語が持つニュアンス(語感)を掴むようにすると良いかもしれません。

1995年にDisruptive innovationを提唱したクレイトン・クリステンセンによるとDisruptive technologyにはinnovationが必要条件ではあるが、あらゆるinnovationがdisruptiveであるとは限らないと述べています。クレイトン曰く、disruptiveであるためには、既成市場や価値観を「破壊する」ことが条件となるからです。市場の常識が通用しなくなることがdisruptされたという意味なのですね。

そう考えると、disruptive technologyは破壊的技術というよりは「擾乱技術」とか「揺動技術」とでも訳したら良かったのではないかと考える次第です。

そしてこのブログを書いている私の背中で流れるラジオ番組では、イスラム教徒の米国入国禁止を提案した共和党代表大統領候補のトランプ氏のことをdisruptive person と表現している人がいました。

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