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プロジェクトミューズ バイリンガルプロジェクトは辛いよ ~その11~ 契約書はor what?

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欧米のメーカーからソフトやハードを購入する際、日本市場は間接販売となっていて、間に販社が入る場合が大半です。販社は商社だったりSI(エスアイヤー)だったりです。
このような購買構造だと、顧客対応(一次サポート)は販社の責任で、二次サポート以上(問題解析、バグFixの作成)がメーカー対応という責任分担になります。

ところが今回は法務も絡んだ問題にまで発展してしまったケースです。

問題を要約すると、メーカーのM&Aに伴いCAの認定書が更新できなくなるためクライアントソフトの改修が必要になったというケースです。この問題はCA認定書更新の半年ほど前に発覚したので、サービスに支障を出してしまうことなく未然に手を打つことができたという成功事例なのですが、その舞台裏にはいくつかの失敗談もあったのです。

問題が発覚した時点で、販社としては状況把握、問題解析、パッチ配布の準備をしたのです。そこまでは良かったのですが、問題の性格やソフトの中身をよく調べた結果、メーカーは、単純なパッチを出すのではなく、ソフトをもう少し大幅に改修した方が良いという結論に至ったのです。買収した会社のソフトですから、元々の開発者の意見よりも、買った会社の意見が優先されたのかも知れません。改修版クライアントソフトのインストールが必要ということになりました。

顧客(エンドユーザー)の法人企業は、当然の如く手厚い対応を求めました。そこで販社はその期待に応えるべくヘルプデスクを開設したり、インストール手順書を作成したりしたのです。それには通常想定している以上の経費がかかってしまいました。
その経費はメーカーに請求できるのか、というのが今回のテーマです。

欧米企業が用意する保守契約書には、(1)不具合の改修(Fixの提供)はメーカーの責任、(2)Fixのエンドユーザーへの配布・提供・インストールは販社の責任、(3)メーカーに損害賠償責任が発生した場合でもメーカーに支払われたライセンス料を上限とする、が典型的な契約条件としてかかれています。(2)は明記されていないこともありますが、(1)を明文化することで(2)は派生的に理解できるようになっています。

私は弁護士でも法律家でもないので、法的なサジェスチョンをすることはできませんが、契約書を交わしたり解釈したりする時、どのような点に注意すべきかをコメントしたいと思います。

まず損害賠償の定義。実害は損害賠償の対象となりますが、実害を未然に防ぐためにかけたコストは必ずしも「損害」とはみなされません。むしろ「損害」扱いにはならないことの方が多いと言っても過言ではないでしょう。逸失機会や逸失利益が損害賠償の対象となるかは、契約文言に直接係ってきますので特に注意が必要です。

次の「バグ」の定義。狭義の定義では、「プログラムコードにミスがあり、システムの動作に支障が生じる」ということになるのでしょうが、広義の定義は「原因や理由の如何に係わらず、システムの動作に支障が生じる」です。
ハードとソフトの互換性の問題でも、ファームウエアの問題でも、CAの問題でも、システムが仕様通りに動作しなくなれば、それはバグ(不具合)とみなされるというのが広義の解釈です。

今回、法務が関与し、契約書の精査が行われたのも、今回の問題が(狭義の)バグではなく、M&Aに伴う管理上の過失なのでメーカー側に全責任があると主張する日本側販社とFixをリリースしサービス断を未然に防いだのでメーカーとしての責任はまっとうしている、損害賠償責任は無いと主張するメーカーとの間で意見が割れてしまったのです。

このような場合、まず法務部が現場の業務を十分に理解していることが重要です。欧米ですとエンジニアの資格を持った人が弁護士になるケースも少なくないですし、法務部は現場に十分なヒアリングを行い、業務を理解した上で契約文言を精査するのが通例です。
日本は残念ながら法務と事業部がそれほど密接な関係を持っていないことが多いので、法務が契約書を作文する場合でも業務プロセスというフレームワークを把握しておらず契約書の文言だけが一人歩きしてしまっている場合も少なくありません。

もう一つ、契約書で大事なことは、もし役務などの合意事項が遂行されなかった時にどうするかということを明記しておくということです。どうも日本企業が作成する契約書はこの部分が弱点となっています。

  • 納品が遅れた場合は遅延損金をかけるのか。
  • 納品を前倒しにできた場合はボーナスが出るのか。(そのボーナスを使うことで人員を増強したり、超過勤務したりすることで、納品の前倒しを実現するため。)
  • 意見の対立や紛争が発生した場合には訴訟を認めるのか、調停にするのか。調停費用はどちらが負担するのか。

など、万が一の場合のことを取り決めておくのが契約書の役割でもあります。そのような状況が発生している時は、両社の友好関係は崩れてしまっているでしょうから、建設的な協議は期待できません。だからこそ、まだハッピーな関係にあるうちに万が一のことを考えておくのです。このような条項を発動しなくて済めばそれに越したことはないわけで、念のための備えです。

だからこそ、Or what? (もしそうでない場合はどうするのか?)を念頭において契約書文言は作成しなければいけないのです。

経緯を明確にして、責任の所在を明らかにしなければ、賠償金額の交渉は開始できないと「本質」や「原則」に拘る日本と、問題のケリさえつけば原因や経緯は二の次(どうでも良い)とするアメリカの姿勢のギャップも、なかなか現場レベルでの交渉が進まない原因の一つでもあります。お互い、この姿勢というか方針を変えない限り、交渉は硬直状態になってしまいます。(でもどちらにとってもこの方針は「当たり前」であり、それ以外の方針は考えられないため、交渉決裂になることが多いのですが。

絶対に全額補償してもらうと頑張る法務の意見が優先されるのか、業界の常識を優先させるのか、両社ともに譲歩して折半で和解するのか、調停まで行って追加コストが発生するのか、成り行きが気になります。



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