著作権法の非親告罪化と捜査の実情
著作権制度のあり方を議論する文化審議会著作権分科会法制問題小委員会において、著作権法の非親告罪化がテーマにあがっていましたが、基本的には親告罪を維持する方向で意見集約がなされたようです。著作権法の非親告罪化とは、現在の著作権法において、刑事裁判を行うためには、著作権者の告訴が必要となっている(親告罪)のに対し、著作権者の告訴を必要としない制度にすることを指します。
この問題へは、些細な侵害についても著作権法違反で摘発されてしまうのではないかとか、誰もが警察に告発をするようになってある種の「監視社会」化するのではないかなど、規制の強化を危惧するさまざまな意見が表明される一方で、告訴をしても警察に受理してもらうのは難しく、非親告罪化されれば警察が捜査する機会はむしろ減るという見方も提示されました。
ACCSが調査などを通じて捜査協力を行っている刑事事件は、毎年30件ほどあります。もちろん、会員会社である著作権者が行った告訴に対して、警察はきちんと受理して捜査しています。かつてはコンピュータプログラムの著作権に対する捜査機関の理解不足からか、告訴をなかなか受けてくれないという時代もありましたが、今となっては過去の話です。現在の事件は、警察が著作権侵害を探知することによって始まる場合も多くあります。各都道府県警レベルで、独自のサイバーパトロール部隊を整備して、インターネット上などでの違法行為を調査しているのです。
このような経験から、非親告罪化されれば警察の捜査機会が減るというのは誤解であると私は思います。私から見れば、日本の警察は著作権侵害に対してきちんと対応していて、この点は高く評価しています。世界の中でも優秀だと思っています。
むしろ、罰則が3年から5年、10年と短期間に上がった中、非親告罪化によって、極端に言えば監視国家になるかのような懸念があることは、分からなくもありません。
しかし、著作物を利用するある行為が著作権侵害に当たるかどうかは、原則的には著作権者からのライセンス(許諾)があるかどうかに依ります。つまり、同様の複製行為でも、一方は許諾がある正規の行為、もう一方は無許諾なので違法行為、ということが起こり得ます。そのため、著作権者でない限り、その利用行為が侵害かどうかの判断はできません。そして、侵害行為のすべてが刑罰に値するものでもありません。一刻も早く侵害が止まれば良しとして、行為者への警告通知だけで対処している著作権者もいます。
だからこそ、著作権侵害行為は、親告罪として著作権者の告訴に委ねられているのだと理解しています。実際、サイバーパトロールで著作権侵害が発見された場合でも、警察は著作権者に、許諾の有無を尋ね、告訴の意思を確認します。その上で、著作権者が、事件の悪質性の観点などから告訴するかどうかを判断しています。
つまり、著作権をはじめとする知的財産権の捜査については、権利の内容・帰属・ライセンスの有無などを、権利者に確認しつつ進めているのが現状なのです。そういう意味では、非親告罪化されても著作権者の協力は不可欠である点は変わらず、監視国家になってしまうという危惧を持つほど単純なものでもないと思っています。