エマージングテクノロジーとIT投資の関係
新しいテクノロジーは多くの人を魅了します。今から30年ほど前、Veeam Software エンタープライズ戦略担当 VPのデイブ・ラッセル氏がIBMでバックアップを手がけ始めた当初は、インターネットがビジネスにとっての新しいテクノロジーでした。今やあらゆるものがクラウドでつながり、クラウド・データ・マネジメントが必要な時代です。これからのテクノロジー投資はどうあるべきか。ラッセル氏ならびにヴィ―ム・ソフトウェア株式会社 執行役員社長の古舘 正清氏を取材しました。
テクノロジーの萌芽と投資回収までの道のり
テクノロジーの推移を表すものとして、Gartner社が毎年発表するハイプ・サイクルが有名です。新しいテクノロジーがアーリーアダプター(初期採用者)に支持されて期待値が高まり、やがて幻滅感に襲われるという理論です。あるテクノロジーへの理解が深まるにつれ、より現実的なアプリケーションが開発、展開されることで、ユーザーは各々その採用について現実的に判断できるようになるのです。
新しいテクノロジーを表現する上で、「革命的」や「画期的」といった言葉はすぐにインパクトを失います。また、新しいテクノロジー導入によってすぐに大きな効果が得られないと、過剰な期待は失望に変わります。エンジニアだけでなくユーザーさえも皮肉を言うようになるのです。
しかしながら、そもそも新しいテクノロジーは、往々にして最初は優れているとは言えないものです。なぜなら、ソリューションを設計し、実際に問題を解決するためのスキルが存在していないからです。Veeam、経営層調査「データプロテクションレポート 2021」によると、世界全体の30%、日本の24%がコロナ下の過去12ヶ月間にDXの取り組みが停止または減速したと回答しました。変革の妨げとなっている最大の原因は、まさに「新しい技術を導入するITスタッフのスキル不足」(世界全体の49%、日本の62%)でした。
一方で、早期段階で懐疑的な見方をされていたテクノロジーが、メジャーになった例は数多くあります。また、単に時代の先を行き過ぎていて、それに見合う補完的なテクノロジー、現実解が存在していないこともあります。これらの好例は、今やインターフェースからIoTに至るまでの用途で広く知られる「タッチ技術」でしょう。最初のタッチ技術を搭載したAndroidスマートフォン(Palm)やMicrosoftの個人向けタブレットは、ワイヤレスでインターネット接続できない、PCやラップトップと同期ができないといった欠点があり、必ずしも実用的ではありませんでした。無線技術やクラウドコンピューティングが成熟して初めて、今日のスマートフォンやタブレットが生まれたのです。
また、テクノロジーとしては機能していても、大規模な投資に値するほどの問題解決やインパクトにつながっていないものもあります。新しい技術に目的と意味を与える「キラーアプリ」や事例が欠けているのです。今や一般的な「QRコード」は、モバイル搭乗券や発券アプリケーションが現れるまでなかなか普及しなかったのがその例です。
このように新しいテクノロジーには、すぐに革新をもたらさずとも、長期的には大きな影響を与えるものがあります。こうした可能性に期待するには、根気が必要です。ソリューションベンダーとしては、どれくらいの早さ、範囲で、急激かつ持続的な変化をもたらすことができるか、お客様の期待を裏切らないようにしなければなりません。
コンテナの進化、Kubernetesバックアップに新たな可能性
以上のとおり、適切な補完によって広まるテクノロジーがあります。あるいは、テストを通して導入に成功するテクノロジーもあります。しかしこれらはいずれも、別の課題があります。それは、企業の IT 導入における投資、スキル、および文化です。新しいIT導入をビジネス戦略に組み込むためには、予算を確保する必要があります。そして説得力のある事例ができるまでには、何年もかかる可能性があるのです。さらに成功事例が確立した後には、規制、サイバーセキュリティ、データ保護などのさらなるマネジメント要件が絡んできます。常に変化し続ける環境を維持しなければならないのです。
例えば利用拡大が続く「コンテナ」は、仮想化環境の自然な発展形であり、IT管理者がアプリケーションをより柔軟に制御できると考えられています。しかしその実、コンテナは1年半ほど前には、Gartner社の「幻滅の谷」と呼ばれる段階に入っていました。これは、企業がハイプ(盛り上がり)に乗って導入し始めたものの、すぐには成果が得られずに失望してしまったことを示していました。
ところが2021年の今、コンテナはDevOps主導によるインフラとアプリケーションのモダナイゼーションに欠かせない要素となっています。そのコンテナのオーケストレーションプラットフォームとして主流なのがKubernetesです。マイクロサービスベースのアーキテクチャが企業システムの人気を博し、Kubernetesを使ったコンテナを利用する事例が確立されつつあります。
Kubernetesの導入は、オーケストレーション層の追加をもたらします。これにより、仮想、物理、クラウド、コンテナ化された環境を含めた単一のデータ保護プラットフォームが必要となります。こうしたトレンドに伴って、コンテナ環境でのデータのバックアップに新たな可能性が生まれています。なぜなら今日のビジネスの価値は、データそのものにあるからです。
世界がコロナと戦う今、データの管理と保護に失敗した場合の損失は以前に増して甚大です。新しいITサービスやアプリケーションがデータを守れなければ、それは事業継続の危機に直結するのです。このため、テクノロジー導入段階の可能な限り早い段階で、データを守る施策、完全なデータ環境を築くバックアップを開始しなければなりません。こうしたより高度なバックアップ、ひいてはクラウド・データ・マネジメントによる補完が支えとなり、コンテナは単なるITプロジェクトから、企業の投資収益率を達成する手段へと進歩するのです。
エッジコンピューティングはPoCから中核サービスへ
現在、Gartner社は「エッジコンピューティング」をハイプ・サイクルの中で期待値が高まっているピーク時に位置づけています。GAFAなどのハイパースケール企業が中心となり、拡大し続けるデータ量とワークロードをエッジで処理する開発が進んでいます。コロナによるリモートワークへの移行、DXが加速する企業においてエッジコンピューティングの需要が高まっているのです。
しかしITには、DX以外にもデータ保護、サイバーセキュリティ、コスト最適化、デジタルスキルなど様々な課題があります。そしてこれらはすべて、エッジコンピューティングを概念実証(PoC)からハイブリッドなインフラストラクチャの中核サービスに発展させる上で相互連携しています。
企業がエッジにデータを置くためには、必要なデータを特定し、バックアップし、保護することが前提となります。これには、バックアップ、データ、レプリケーションといった機能に加えて、新しい技術を受け入れるスキルと文化も必要となります。
企業は、データを危険にさらしたり、クラウドストレージのコストを暴走させたりすることなく、確実にテクノロジーを導入運用する必要があります。専門のパートナーと協力し、ステップを踏んでクラウド・データ・マネジメント戦略を定義することで、方向性と目標を可視化できます。これにより、エッジコンピューティングを導入した際の成功度を測って前進することができるのです。
今日の企業にとって、こうした様々な新しいテクロジーが、自社のビジネス目標のどこに位置づけられるかを把握することが肝要です。そして適切な投資や、必要なスキルの獲得、文化醸成に必要な予算を得ることは、事業継続のために不可欠です。クラウド・データ・マネジメントはこうした新しいテクノロジー導入とビジネスの成功を補完する、最も大切な概念および実践策と言えるでしょう。
新しいテクノロジー普及に必要なのは、企業の IT 導入投資、スキル、および文化(イメージ)Photo by ThisisEngineering RAEng on Unsplash