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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

図解よりも構造化が大事なのです

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 こんにちは。文書化能力向上コンサルタントの開米瑞浩です。

 今回は原子力論考ではなく、本業の話です。

 私は図解の先生と呼ばれることもあります。が、しかし、こう言っちゃなんですが「図解」そのものには別に意味なんぞ無いんです。大事なのは構造化です。

 現実の世界にはさまざまな「構造」があります。その構造を見抜くことが出来れば、それを図に表すことで理解が進むので「図解」が役に立ちます。しかし「構造化」をせずに単に絵に描いてみました、だけの図解はあまり役に立ちません。

 じゃあ構造って何よ? という話になりますが、私がよく探す構造は次の3種類。



 「順序」、「対比・並列」、「階層」です。
 こういう単純な構造は、単純なだけに分野を問わずいろいろな世界に現れます。
 この程度の単純な構造を明確にするだけで、モヤモヤしていた問題があっという間に明確になることがよくあるのですよ。

 そこで試しにこういう情報を構造化してみましょう。

【山岳信仰】
山岳信仰(さんがくしんこう)とは、山を神聖視し崇拝の対象とする信仰。自然崇拝の一種で、狩猟民族などの山岳と関係の深い民族が山岳地とそれに付帯する自然環境に対して抱く畏敬の念、雄大さや厳しい自然環境に圧倒され恐れ敬う感情などから発展した宗教形態であると思われる。山岳地に霊的な力があると信じ、自らの生活を律するために山の持つ圧倒感を利用する形態が見出される。

出典:Wikipedia日本語版「山岳信仰」の項、最終更新 2010年11月7日 (日) 13:35 UTC

注:Wikipedia は信頼の置ける情報ソースとしては使えませんが、引用しやすいためあくまでも「情報を読み取り整理する練習問題用の文章」として利用しています。本書の情報をもとに何らかの現実的な問題に関して判断を下すことは避けてください。


 こういう人文系の、しかもスピリチュアルな話題をわざわざ構造化しようと考える人も少ないようですが、実はできます。

 ひとまず原文を箇条書きにするとこうなります。

【山岳信仰(さんがくしんこう)とは】
  宗教形態: 自然崇拝の一種
  信仰対象: 山を神聖視し崇拝の対象とする
  信仰集団: 狩猟民族などの山岳と関係の深い民族
  信仰の源泉に関する推測:
      1.    山岳地とそれに付帯する自然環境に対して抱く畏敬の念
      2.    雄大さや厳しい自然環境に圧倒され恐れ敬う感情など
  具体的な信仰内容:
      1.    山岳地に霊的な力があると信じる
      2.    自らの生活を律するために山の持つ圧倒感を利用する

 このぐらいでもいいんですが、引き続きもう一工夫してみます。

 宗教の話ですので「信仰対象」と「信仰集団」というラベルを使っていますが、「信仰対象」のほうに関して、下記A・B・Cの3項の関係を考えてみますと

A 山岳地+付帯する自然環境
B 雄大さ、厳しさ
C 霊力、神聖さ

 Aは単なる「物質」です。いかに巨大だろうとその実体はケイ素と酸素と炭素、水素、鉄、アルミニウムその他の元素を主成分とする物質のカタマリですね。

 そこにBの「雄大さ、厳しさ」を感じ取るのは人間の心です。ただし、「雄大さ、厳しさ」だけなら別に信仰にはなりません。都会の住人が観光に行って「すっごい、大自然、ステキ!」と言っているだけのときでも「雄大さ、厳しさ」は感じていることでしょう。

 それが宗教に転化する、ということは、単なる雄大さではなく、Cの「霊力、神聖さ」という認識に進んでいるということです。したがってこんな関係を書けます。



 山岳地の「雄大さ、厳しさ」が信仰集団の「心」を圧倒することで、畏敬の念を呼び起こし、そこに霊力を感じるようになる、という構図ですね。

 さて、次はこの2項目。

D 狩猟民族などの山岳と関係の深い民族
E 自らの生活を律するために山の持つ圧倒感を利用する

 これはざっくばらんに言うと、「山岳・狩猟生活において社会的行動を統制するために山を信仰対象とする信仰心を利用する」という構造です。
 こんなふうに書いてみると、「信仰対象」と「信仰集団」は、同一の構造ではないにしてもちょっと似てますね。下段はモノの世界、上段はスピリチュアルな世界、中段はその両者の中間要素、という構造です。



【「構造化」の観点での注釈】
 こうしてみると、冒頭で書いた「順序」や「対比・並列」の構造になっていることがおわかりでしょうか。
 「霊的属性」から「実体」へと、精神世界がだんだん物質世界へと変わっていく「順序」が成立し(これはべつにどっちが偉いというような順序ではありませんが)、かつ、「信仰対象」と「信仰集団」の間で「対比」的な関係が成立しています。
 また、たとえば「信仰心」「社会的行動」「山岳・狩猟生活」の3つをまとめて「信仰集団」というラベルをつけるのは「階層」構造になっています。

 というわけで、「順序」「対比・並列」「階層」というのはこんな分野でも成り立つのでした。

【同じ「構造」が違う場所にも現れることがある】
 このような構造は別に山岳信仰に限らず成り立ちます。海洋民族の場合は「海」という実体の「雄大さ、厳しさ」に「霊力」を認め、その信仰心でもって社会的行動を統制します。
 農耕民族の場合はこれが「太陽」や「天」になります。

 したがって、このような構造が分かっていると、別な宗教について調べよう、という場合も、この構造の各部がどうなっているか、という観点で調査できて、理解が早くなるわけです。

 なお、キリスト教や仏教系の宗教では、信仰対象の「実体」が無いようにも見えますが、宗教学を論じたいわけでもありませんので、その解釈はここでは追求しないことにします。

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