原子力論考(54)「原発のウソ」の印象操作論法1:都合が良い数字のみ使う
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先日、あるトンデモ本を買いました。
"図解 原発のウソ: 小出 裕章"
http://www.amazon.co.jp/DP /4594065708
ハッキリ言ってトンデモ本なのですが、トンデモはトンデモなりに「どういうミスリーディング情報が世の中に出回っているか」を知る上で役に立ちます。いちいちツッコミを入れているときりがないですが、まあ、地道にやることにしましょう。
少なくとも1つ役に立つのは、「典型的な印象操作の手口が分かる」ことです。印象操作テクニックを使って人の意思決定をミスリードしたい人にも、それに惑わされたくない人にも役に立つことでしょう。もちろん私は後者のために書きます。
というわけで「原発のウソ」に見る印象操作論法その1です。
同書p.42、「微量で人を死に至らせる恐ろしい放射性物質」というページでこのように書かれています。
アレクサンドル・リトビネンコ毒殺事件そのものは今回はどうでもいい話ですが、興味ある方は→リトビネンコ毒殺事件(ただしwikiソースにつき信頼性保証無し)
さて、ここで小出氏は
ポロニウム210は100万分の1gにも満たない量で人を殺すことが出来る
と書いています。ここで小出氏が使っているのは、
「都合が良い極端な数字のみを使った印象操作」
という論法です。
とりあえず下記の図を見ていただきましょう。
100万分の1gは確かに微量です。たとえば猛毒で有名なシアン化カリウム(いわゆる青酸カリ)は経口摂取時の半数致死量が0.2gぐらいですから、5桁ぐらい違います。
しかし、放射性物質を考えるときに重要な「量」は、本来「シーベルト」あるいはその算出のベースになる「ベクレル」であって、質量(グラム)ではありません。
ところがそのベクレルとシーベルトを小出氏はここで書いていません。書くと、以下のようになります。(ベクレルの算出には 質量数と半減期から計算するベクレルと質量の計算・換算 、 シーベルトへの換算係数は 職業人のための重要放射性核種に関する内部被曝線量係数(ATOMICA) 記載のPo-210 経口摂取 e(50) を使用)
ポロニウム210というのは半減期138日、ウランの100億倍というきわめて強い放射能を持つ物質で、1μgでもベクレル換算すると1. 7億ベクレルになります。
この数字を、小出氏は出したくなかったのでしょう。現在、食品の残留放射能基準は100Bq/kgです。1.7億ベクレルとは桁が違いすぎて、「放射能コワイ!」という印象を薄くしてしまう恐れがあるからです。
同じ理由で、シーベルトの数字も出さなかったものと思われます。100万分の1gのポロニウム210を経口摂取と仮定してシーベルトに換算すると、約40Svになります。確かに、「そりゃ、死ぬわ・・・」という数字ですが、実際のところは今の福島原発の敷地内で1年中野宿したとしても、これより何桁も低い数字にしかならないエリアがほとんどです。
というわけで、放射性物質の「量」を考えるときに本来使われる「ベクレル」と「シーベルト」を使ってしまうと「一生かかってもそんなに食えませんが」という印象を与えてしまうためわざと使わず、「コワイ」という印象を与えるために都合のいい「グラム」単位の数字のみを出したものと思われます。
こういう印象操作は、「反原発運動の活動家」の常套手段ですので、数字が書かれているところには注意してください。書かれていない数字のほうに真実がある場合が多いですから。
なお、「特殊な装置がないと計測できないほどのわずかな量で人を殺すことが出来る」というのも印象操作が入っています。
実は、一般の人が思う印象とは逆に、
なぜかというと、「放射線を出す」という性質そのものが「計測しやすい」理由なんですね。
「放射線を出す」というのは、たとえていうなら「俺はここにいるぞここにいるぞここにいるぞ」と大声で叫んでいるようなものなので、セシウムだろうがヨウ素だろうが、マイクとアンプさえ用意してやれば測定できるからです。その「マイクとアンプ」にあたるのが放射線測定器で、今では空間線量の簡易計測器なら数千円で買えます。数千円で買える装置で測れるものを「特殊な装置がないと計測できない」とは通常言わないでしょう。(まあ、食品の検査には使えませんが)
以上、「原発のウソ」の印象操作論法その1「都合が良い数字のみ使う」 でした。
参考:チェリー・ピッキング(→wikiリンク)
チェリー・ピッキング(英語:cherry picking)とは、数多くの事例の中から自らの論証に有利な事例のみをならべたてることで、普遍的な真理や政治的な妥当性を導こうとする論理上の誤謬、あるいは詭弁術。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
"図解 原発のウソ: 小出 裕章"
http://www.amazon.co.jp/DP /4594065708
ハッキリ言ってトンデモ本なのですが、トンデモはトンデモなりに「どういうミスリーディング情報が世の中に出回っているか」を知る上で役に立ちます。いちいちツッコミを入れているときりがないですが、まあ、地道にやることにしましょう。
少なくとも1つ役に立つのは、「典型的な印象操作の手口が分かる」ことです。印象操作テクニックを使って人の意思決定をミスリードしたい人にも、それに惑わされたくない人にも役に立つことでしょう。もちろん私は後者のために書きます。
というわけで「原発のウソ」に見る印象操作論法その1です。
同書p.42、「微量で人を死に至らせる恐ろしい放射性物質」というページでこのように書かれています。
「(放射性物質は)特殊な装置がないと計測できないほどのわずかな量で、十分に人を殺すことができます。(中略)毒として使われたのは、ポロニウム210という放射性物質です。用いられた量は100万分の1gにも満たない量で、味など感じることはなかったでしょう」
アレクサンドル・リトビネンコ毒殺事件そのものは今回はどうでもいい話ですが、興味ある方は→リトビネンコ毒殺事件(ただしwikiソースにつき信頼性保証無し)
さて、ここで小出氏は
ポロニウム210は100万分の1gにも満たない量で人を殺すことが出来る
と書いています。ここで小出氏が使っているのは、
「都合が良い極端な数字のみを使った印象操作」
という論法です。
とりあえず下記の図を見ていただきましょう。
100万分の1gは確かに微量です。たとえば猛毒で有名なシアン化カリウム(いわゆる青酸カリ)は経口摂取時の半数致死量が0.2gぐらいですから、5桁ぐらい違います。
しかし、放射性物質を考えるときに重要な「量」は、本来「シーベルト」あるいはその算出のベースになる「ベクレル」であって、質量(グラム)ではありません。
ところがそのベクレルとシーベルトを小出氏はここで書いていません。書くと、以下のようになります。(ベクレルの算出には 質量数と半減期から計算するベクレルと質量の計算・換算 、 シーベルトへの換算係数は 職業人のための重要放射性核種に関する内部被曝線量係数(ATOMICA) 記載のPo-210 経口摂取 e(50) を使用)
ポロニウム210というのは半減期138日、ウランの100億倍というきわめて強い放射能を持つ物質で、1μgでもベクレル換算すると1. 7億ベクレルになります。
この数字を、小出氏は出したくなかったのでしょう。現在、食品の残留放射能基準は100Bq/kgです。1.7億ベクレルとは桁が違いすぎて、「放射能コワイ!」という印象を薄くしてしまう恐れがあるからです。
同じ理由で、シーベルトの数字も出さなかったものと思われます。100万分の1gのポロニウム210を経口摂取と仮定してシーベルトに換算すると、約40Svになります。確かに、「そりゃ、死ぬわ・・・」という数字ですが、実際のところは今の福島原発の敷地内で1年中野宿したとしても、これより何桁も低い数字にしかならないエリアがほとんどです。
というわけで、放射性物質の「量」を考えるときに本来使われる「ベクレル」と「シーベルト」を使ってしまうと「一生かかってもそんなに食えませんが」という印象を与えてしまうためわざと使わず、「コワイ」という印象を与えるために都合のいい「グラム」単位の数字のみを出したものと思われます。
こういう印象操作は、「反原発運動の活動家」の常套手段ですので、数字が書かれているところには注意してください。書かれていない数字のほうに真実がある場合が多いですから。
なお、「特殊な装置がないと計測できないほどのわずかな量で人を殺すことが出来る」というのも印象操作が入っています。
実は、一般の人が思う印象とは逆に、
放射性物質というのは、人体に害を与える可能性のある物質の中ではです。
最も計測しやすい物質
なぜかというと、「放射線を出す」という性質そのものが「計測しやすい」理由なんですね。
「放射線を出す」というのは、たとえていうなら「俺はここにいるぞここにいるぞここにいるぞ」と大声で叫んでいるようなものなので、セシウムだろうがヨウ素だろうが、マイクとアンプさえ用意してやれば測定できるからです。その「マイクとアンプ」にあたるのが放射線測定器で、今では空間線量の簡易計測器なら数千円で買えます。数千円で買える装置で測れるものを「特殊な装置がないと計測できない」とは通常言わないでしょう。(まあ、食品の検査には使えませんが)
以上、「原発のウソ」の印象操作論法その1「都合が良い数字のみ使う」 でした。
参考:チェリー・ピッキング(→wikiリンク)
チェリー・ピッキング(英語:cherry picking)とは、数多くの事例の中から自らの論証に有利な事例のみをならべたてることで、普遍的な真理や政治的な妥当性を導こうとする論理上の誤謬、あるいは詭弁術。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
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