「掛け算」のメンタルモデルができるまで
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前号までで、「かけ算の教え方」の一例を書きました。
そこで、鉛筆をタテヨコに並べて長方形を作ったチャートが便利ですよという話をして、じゃあ次はそれを「わり算」に展開する話を書こうか、・・・・と思ったところでその前に書いておくべきことがあるのに気がつきました。
というわけで、「かけ算」のメンタルモデルがどう形成されていくかをまとめておきます。
(メンタルモデルの用語については改めて説明しません。リンク先はwikipediaです。あまり分かりやすくありませんが)
まずは下記のチャートをご覧ください。
↑このチャートは、「かけ算」に関する理解がどう形成されていくかを簡略化してまとめたものです。
左半分の「構造可視化モデル」というのは、見てのとおり「A×B=C」という構造を子供が見てわかる形で図(イメージ)にしたものです。(*1 赤枠青枠の書き方について文末に追記あり)
さらに、このイメージを元にして、子供が獲得していくべき認知がR1からR5まであります。
R1は、「こんな構造を持つ事象があるんだ」 という認知。この段階では、「A×B」といった「かけ算」への意識は不要です。こういうカタチがあるんだな、となんとなく思ってくれればいい。
その認知ができると、ABCの関係を意識できるようになります。次のステップR2では、違う状況でもAとBの数字が変わってなければCも変わらず同じになる、CはAとBから求めることができる、という認知を得てくれればいい。そこで使うのが「かけ算」であるという認知はまだ必要ありません。
さて、次のR3が「かけ算」の認知で、AとBからCを求める計算を「かけ算」ということ、A×Bで表すこと、などを知る必要があります。
そしてR4でかけ算の交換法則、R5で九九の必要性、とそれぞれ認知が進展していって欲しいわけです。
おおまかに言ってR1→R5の順番に、それぞれの認知項目には依存性があります。R2はR1に依存し、R3はR2に依存しています。が、厳密なものではなく、たとえばR4とR5の認知が逆順になることは十分ありえます。
しかし、R1→R3の範囲はほぼこの順以外ありえません。
あらためて書くと、
R1をぼんやりと認知すると
R2でその細部(ABC)に目が向けられるようになり、
R3で計算オペレーションを学べるようになります。
問題はここから先。
人が何かを学習する場合、R1・R2の認知があいまいなままでR3のみ覚えてしまう、という落とし穴にハマる場合が少なくないんですね。というのは、R1やR2は抽象度が高いしあくまでも本人の脳内理解の問題なので、外からその認知が出来ているかどうかをチェックすることが難しいのに対して、R3は「計算」という外部から観察可能な具体的なオペレーションです。極端な話、R3については
言われたとおりやりなさい!
とやり方を指示して子供をロボットのように動かし反復動作をさせる、という指導がある程度成り立ってしまうわけですよ。この方法はR1、2については無理です。そのため、中には
R1、R2の認知強化の手立てを打たないまま、
R3以降のオペレーションだけ指導する先生
が存在します。こういう先生に習うと、計算問題は出来ても文章題では壊滅的成績になってしまう子供が続出します。
実は、理想的なのはR1~R3の認知が次のような形で進むことです。
R1、R2については最初のうちは「あれ? ひょっとしてそう・・なのかな?」程度でいいんです。乏しい理解のままでもいいのでとにかくR3にたどり着いて、具体的なオペレーションを繰り返し練習します。
すると、その経験がR1・R2へフィードバックされて理解が進み、
「あ、そうか、そういうことだったんだ!!」
と、第5段階になってやっとR1やR2の意味をはっきり自覚できる。まあこんな流れになるのが普通です。
ただ、これが成り立つためには、
R3を始める前に、R1・2に少しだけでも触れさせておく
R3の反復練習が、R1・2にフィードバックされるように手を打つ
必要があります。それがないと、R3だけ肥大して、何度も書きますが
計算問題は出来ても文章題で討ち死にする子供
が続出しますので。
さてそれではR1・2をどうやって教えたら良いのか、とういことですが、ここで難題が1つあります。それは、特にR1については
言葉で説明するのが難しく、抽象度が高い
ということです。
R1:世の中には、こんな構造を持つ事象がある
の「こんな」の部分を言葉で説明するのが難しいんですね。(そのため、それを省略してR3ばっかりやらせる先生が後を絶ちません)
だから、「構造可視化モデル」が大事になります。
「こんな構造」を「見て取れる」、可視化したチャートです。
「かけ算」がテーマの場合は、既に書いたとおり、長方形といくつかの空欄があればいい。
実は「わり算」の場合も同じモデルでいけます(ここも当然の話)。
こういった、「言葉で説明しなくても、構造的特徴が見てわかる」チャートを使い、それを出発点にしてR1→R5の認知の旅を始めるようにすれば、教えるほうも学ぶほうも非常に楽になります。
「かけ算」を子供に教えるときに最初に必要なのは、こういう長方形の構造可視化モデルであって、「かける数」「かけられる数」のような概念ではありません。
「かけ算には順序がある」という主張は、完全に間違っています。
(*1 12/25 追記) 「構造可視化モデル」欄の、長方形型に要素を並べたものを算数教育界では「アレイ図」と呼びます。そしてこのアレイ図を使う場合、今回の例示の赤枠、青枠部分のような囲い方をすると「誤解を招く可能性が高い」と言われているそうです。
代案は「タテに4つずつ区切る図と、ヨコに3つずつ区切る図を別に提示する」というもの。確かにそのほうが誤解されにくいでしょう。
そこで、鉛筆をタテヨコに並べて長方形を作ったチャートが便利ですよという話をして、じゃあ次はそれを「わり算」に展開する話を書こうか、・・・・と思ったところでその前に書いておくべきことがあるのに気がつきました。
というわけで、「かけ算」のメンタルモデルがどう形成されていくかをまとめておきます。
(メンタルモデルの用語については改めて説明しません。リンク先はwikipediaです。あまり分かりやすくありませんが)
まずは下記のチャートをご覧ください。
↑このチャートは、「かけ算」に関する理解がどう形成されていくかを簡略化してまとめたものです。
左半分の「構造可視化モデル」というのは、見てのとおり「A×B=C」という構造を子供が見てわかる形で図(イメージ)にしたものです。(*1 赤枠青枠の書き方について文末に追記あり)
さらに、このイメージを元にして、子供が獲得していくべき認知がR1からR5まであります。
R1は、「こんな構造を持つ事象があるんだ」 という認知。この段階では、「A×B」といった「かけ算」への意識は不要です。こういうカタチがあるんだな、となんとなく思ってくれればいい。
その認知ができると、ABCの関係を意識できるようになります。次のステップR2では、違う状況でもAとBの数字が変わってなければCも変わらず同じになる、CはAとBから求めることができる、という認知を得てくれればいい。そこで使うのが「かけ算」であるという認知はまだ必要ありません。
さて、次のR3が「かけ算」の認知で、AとBからCを求める計算を「かけ算」ということ、A×Bで表すこと、などを知る必要があります。
そしてR4でかけ算の交換法則、R5で九九の必要性、とそれぞれ認知が進展していって欲しいわけです。
おおまかに言ってR1→R5の順番に、それぞれの認知項目には依存性があります。R2はR1に依存し、R3はR2に依存しています。が、厳密なものではなく、たとえばR4とR5の認知が逆順になることは十分ありえます。
しかし、R1→R3の範囲はほぼこの順以外ありえません。
あらためて書くと、
R1をぼんやりと認知すると
R2でその細部(ABC)に目が向けられるようになり、
R3で計算オペレーションを学べるようになります。
問題はここから先。
人が何かを学習する場合、R1・R2の認知があいまいなままでR3のみ覚えてしまう、という落とし穴にハマる場合が少なくないんですね。というのは、R1やR2は抽象度が高いしあくまでも本人の脳内理解の問題なので、外からその認知が出来ているかどうかをチェックすることが難しいのに対して、R3は「計算」という外部から観察可能な具体的なオペレーションです。極端な話、R3については
言われたとおりやりなさい!
とやり方を指示して子供をロボットのように動かし反復動作をさせる、という指導がある程度成り立ってしまうわけですよ。この方法はR1、2については無理です。そのため、中には
R1、R2の認知強化の手立てを打たないまま、
R3以降のオペレーションだけ指導する先生
が存在します。こういう先生に習うと、計算問題は出来ても文章題では壊滅的成績になってしまう子供が続出します。
実は、理想的なのはR1~R3の認知が次のような形で進むことです。
R1、R2については最初のうちは「あれ? ひょっとしてそう・・なのかな?」程度でいいんです。乏しい理解のままでもいいのでとにかくR3にたどり着いて、具体的なオペレーションを繰り返し練習します。
すると、その経験がR1・R2へフィードバックされて理解が進み、
「あ、そうか、そういうことだったんだ!!」
と、第5段階になってやっとR1やR2の意味をはっきり自覚できる。まあこんな流れになるのが普通です。
ただ、これが成り立つためには、
R3を始める前に、R1・2に少しだけでも触れさせておく
R3の反復練習が、R1・2にフィードバックされるように手を打つ
必要があります。それがないと、R3だけ肥大して、何度も書きますが
計算問題は出来ても文章題で討ち死にする子供
が続出しますので。
さてそれではR1・2をどうやって教えたら良いのか、とういことですが、ここで難題が1つあります。それは、特にR1については
言葉で説明するのが難しく、抽象度が高い
ということです。
R1:世の中には、こんな構造を持つ事象がある
の「こんな」の部分を言葉で説明するのが難しいんですね。(そのため、それを省略してR3ばっかりやらせる先生が後を絶ちません)
だから、「構造可視化モデル」が大事になります。
「こんな構造」を「見て取れる」、可視化したチャートです。
「かけ算」がテーマの場合は、既に書いたとおり、長方形といくつかの空欄があればいい。
実は「わり算」の場合も同じモデルでいけます(ここも当然の話)。
こういった、「言葉で説明しなくても、構造的特徴が見てわかる」チャートを使い、それを出発点にしてR1→R5の認知の旅を始めるようにすれば、教えるほうも学ぶほうも非常に楽になります。
「かけ算」を子供に教えるときに最初に必要なのは、こういう長方形の構造可視化モデルであって、「かける数」「かけられる数」のような概念ではありません。
「かけ算には順序がある」という主張は、完全に間違っています。
(*1 12/25 追記) 「構造可視化モデル」欄の、長方形型に要素を並べたものを算数教育界では「アレイ図」と呼びます。そしてこのアレイ図を使う場合、今回の例示の赤枠、青枠部分のような囲い方をすると「誤解を招く可能性が高い」と言われているそうです。
代案は「タテに4つずつ区切る図と、ヨコに3つずつ区切る図を別に提示する」というもの。確かにそのほうが誤解されにくいでしょう。
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