オルタナティブ・ブログ > 開米のリアリスト思考室 >

「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

「掛け算には順序がある」・・・なんて、ご冗談でしょう?(3)

»
 前号の続きです。

 というわけで、「鉛筆を単に長方形状にタテヨコに並べて掛け算を表現した図」を改良したのがこちら↓。


 

 これを使って、こんな質問をしていきます(なお、小学生にはA~Dのアルファベットを適宜別な記号に変えて話します)。
 (12/25 追記 この図の書き方では誤解される可能性があることを、次号の追記欄に書きました)

★  ★  ★  ★  ★  ★  ★   

【状況理解セッション】
1.はい、今から3人に鉛筆を4本ずつ配りま~す。全部で何本必要か、考えたいんだけれど、
2.質問1:まずAの欄です。人は、何人いますか? (ここが「3人」の部分)
3.質問2:Bの欄には鉛筆はいくつありますか?
4.質問3:Cの欄には鉛筆はいくつありますか? (この数字が「3倍」にあたるところ)
5.質問4:じゃ、Dの欄、全部で鉛筆は何本ありますか? (1個ずつ数えて答を出してもかまわない) ・・・そう、12本ね。

【掛け算説明セッション】
6.3人に4本ずつ鉛筆を配ったら、12本になりました。
  (Bを指差しながら)4本を、
  (Cを指差しながら)3倍すると、
  (Dを指差しながら)12本です。
 わかる?
7.これを、こんなふうに式に書きます。
  4 × 3 = 12
  4本を3倍すると、12になるの。「3倍する」を「×3」と書くのね。わかる?

【交換法則セッション】
8.じゃ次は下の方から見ましょうね。さっきは4本を3倍するって言ったけど、
  (Cを指差しながら)ここ、3本だよね? だから
  (Bを指差しながら)3本を4倍する・・・って考えてもいいと思う?
  そう、いいんです。答え同じでしょ? どっちから数えても12本だよね?
  3本を4倍しても、4本を3倍しても、答は同じ。
  だから、掛け算は 4×3 でも 3×4 でも、どっちで書いてもいいのね

【抽象化して、面積の概念へつながる下地をつくる】
9.つまりね、掛け算というのは、「タテ」の数と「ヨコ」の数から「全体の数」を見つける計算です。わかりますか~?

   「タテの数」×「ヨコの数」=「全体の数」


 
 なの。いいかな? いい?

10.じゃ、こうしたらどうなる? (ここで図を90度横倒しにする)

 
 さっきはタテだったのがヨコになって、
 さっきはヨコだったのがタテになっちゃったね?
 どう? 全体の数、違う? 同じ? 同じだよね?
 つまり! タテヨコ入れ替えても答は同じです!

   「タテの数」×「ヨコの数」=「全体の数」
        ↓ 入れ替え
   「ヨコの数」×「タテの数」=「全体の数」

 わかるよね? 掛け算をするときは、×印の前と後ろを入れ替えても答は変わりません


★  ★  ★  ★  ★  ★  ★   


 ・・・・以上。ざっとこんな感じです。
 ここまで、「かける数・かけられる数」のような抽象概念はまったく使っていないことに注意してください。
 「タテ」「ヨコ」程度の「見ればわかる直観的な概念」だけで、掛け算というのは十分説明できるんです。

 実は、こうやって「タテ×ヨコ」の長方形で掛け算を説明しておくと、後々、

    「面積」を教えやすくなり、
    「実数の掛け算」も教えやすくなり、
    「割り算」も教えやすくなる

 というメリットもあります。
 それは当たり前の話で、

この 「タテ×ヨコ=面積」 こそ、
自然界の法則のひとつとしての「掛け算」という演算の性質を
一番シンプルに表している
 からです。だから、そのままいろいろなところに直観的な応用が効くわけです。

 これに比べると、「単位をサンドイッチするように式を作る」なんてのは小手先の受験テクニックのようなもので、自然の法則の理解にはほとんど役に立ちません。

 ものごとの性質を最もシンプルに表す形でメンタルモデルを構造化しておくと、関連するあらゆる概念が教えやすくなります。だから、教育をするなら

    一番の柱になるメンタルモデルは何か?

 を探して、それをうまく表現することに心血を注がなければいけないんですよね。

                (・・・・もしかしたら続くかもしれない)
 
Comment(7)