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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(21)電力会社に依存しない生活は可能か?-4

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 前回までで、太陽光発電のみで制約条件をクリアするのは難しそうだ、ということがわかりました。

  Q3:電力会社から電力を購入せずに生活することは可能か?
      <制約条件>
      投入コスト:年間20万円まで
      最大電力:100V30Aを確保可能であること
      1日あたり平均電力量:20kWh/日 を1週間継続可能なこと
      停電許容率:1年間につき24時間まで
      連続4日間の雨天に対応可能なこと

 何か打開策はないのでしょうか?
 ここで、問題を抽象化してみます。



 「発電」→「蓄電」→「消費」という流れのそれぞれにおいて、

     発電できるのは日中のみ (太陽光の場合)
     消費は一日中続き、夜間に最大
     このギャップを埋めるために大規模な蓄電が必要になる
     そのために大きなお金がかかる


 という問題点があるわけですね。
 そこで、何か打開策、解決策はないか? と考えるときは、「問題点」として挙げたもののひとつひとつについて、解決策の候補を列挙してみるのがコツです。実現の可能性は後で詳しく見るので「列挙する」段階では気にしなくてかまいません。非現実的な案であっても閃いたものは書いてしまいましょう。

 こういう、「問題点→解決策」の組み合わせを考えるときは、適度な抽象化をすると発想や記憶を刺激する効果があります。
 具体的にはどういうことかというと、

    問題点:発電できるのは日中のみ
    解決策:風力発電も使う


 これだと「解決策」が具体的すぎますね。

    問題点:発電できるのは日中のみ
    解決策:日中以外でも発電できるようにする


 こうすると、抽象度が高くなりました。抽象度が高いものを書くと、

    解決策:日中以外でも発電できるようにする
    ・・うん、具体的には何があるんだろう?


 と、そこから「具体」を探る発想ができます。「風力発電」というような具体的なものをいきなり出してしまうと、そこで発想が止まりやすいのですが、いったん抽象度を上げておくと、そこから「具体」にブレークダウンすることで、「可能な案をモレなく洗い出す」ことがしやすくなるわけです。
 「自分で考えることができる」ようにするためには、こういう「抽象と具体の切り替え」を意識的にやってみましょう。

 それから、そもそもの出発点として「ベース・メカニズム」を抽象化しておくのも非常に大事です。

 「ベース・メカニズム」というのは文字通り、問題の根底にある基本的なしくみ、という意味で、電力問題の場合は「発電→蓄電→消費」がその「ベース・メカニズム」になります。
 「ベース・メカニズム」は「問題」を考える上で出発点になる大事な部分で、事実としてどういうしくみで世の中が動いているのか、をここでしっかり押さえておかないと、必要な「問題点」を挙げられませんから、ちぐはぐな考えをしてしまうことになります。

 実際、もしこの話が「家庭の中で電力を完結させる方法を考える」というものではなくて、「日本国内の電力システムの将来像を考える」というような話だったら、「ベース・メカニズム」の中に「送配電網」を入れる必要が出てきます。「問題点」というのは、現実の「メカニズム」の上に出てくるものなので、メカニズムなしで考えていても、問題点をモレなく洗い出すのは難しいのです。


■で、ウチの電力どうするの?

 さて、こんなことをごちゃごちゃ言っていても問題は解決しません。我が家の電力、どうしましょうか?

 解決策1:電力消費量を減らす
 これが出来ればそりゃあ良いことですが、電力消費量を4割減らしても蓄電池コストだけで100万以上、おそらくは200万以上にはなります。実際には電力消費=仕事の生産性に直結している場合も多く、そのまま収入減を招くような決定をするのは現実的ではありませんね。(ちなみに私は自宅で仕事をしているので、電力消費を4割も減らすわけにはいきません)

 解決策2:新しい蓄電技術の開発
 蓄電池コストが劇的に下がるような技術開発が出来ればいいですが、これは自力では無理で、どこかの会社が作ってくれるのを待つしかなく、おそらくできるとしても10年単位の時間がかかります。すぐには使えません。

 解決策3:必要な時に発電できるようにする
 というわけで残るのはここだけです。太陽光だけでは発電と消費の時間差が出てしまい、「大量に溜められない」という電気の性質上、大規模な蓄電池が不可欠になるので、これを解消するためには「必要な時に発電できるようにする」というしくみが欠かせません。
 ちなみにこの用途には風力発電は使えません。「風」も太陽光と同じで、いつも吹いてくれるわけじゃないからです。もともと風力発電は小型のものは極めて効率が悪いですし、地面に近いところでは風の力も弱い上に風向が変化しやすく、日本では夏は風が弱いのでエアコン需要が一番大きいときにあまり役に立たない傾向があり、などなど弱点がありすぎて、個々の住宅用に小型風力発電を導入するのは「無理」です。

■結局は化石燃料発電が必要になる

 となると、「必要な時に発電できるようにする」ためには、やはり化石燃料に頼らざるを得ませんね。太陽光が使えるときは太陽光を使い、それができないときはガス、ガソリンまたはディーゼルエンジンで発電機を回して電力を供給させるのが一番現実的でしょう。
 これなら現在市販されている製品でも対応可能です。たとえばガソリンエンジン式の発電機で家庭の電気をまかなえるぐらいの出力可能な製品は20万円程度で市販されています。連続運転可能時間が10時間しかないとか、騒音がうるさいとか、ガソリンの給油作業は面倒くさい上に危険だとか、燃料費がかかるとか、そういった欠点に目をつぶれば(つぶっていいのか(笑)?)、一応現実的と言えそうです(・・・んなわきゃねーだろというツッコミの大合唱は聞こえないふり(笑))。


■個人の趣味でやるなら止めませんが

 ・・・が、しかし、一部の個人が趣味でこういう道楽に手を出すのは可能でも、国レベルの大きな動きにすることはできない、してはいけない理由があります。したがってこのような方法は、「どうしても国も電力会社もまったく信用できない」かつ「お金はある」という人が個人の趣味でやる種類のもので、政策議論として真剣に考える価値はありません。

 それはいったいどういうことなのか? 個人の趣味なら良くても国レベルの政策にしてはいけないのはどうしてか? という話を次回書きます。

 (続く)


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