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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(19)電力会社に依存しない生活は可能か?-2

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 原子力論考(18)、にて、「自分で考えるトレーニング」のひとつの意味も込めてこういう「問い」を立てました。

 Q3:電力会社から電力を購入せずに生活することは可能か?
    <制約条件>
    投入コスト:年間20万円まで
    瞬間最大電力:100V30Aを確保可能であること
    1日あたり平均電力量:20kWh/日 を1週間継続可能なこと
    停電許容率:1年間につき24時間まで
    連続4日間の雨天に対応可能なこと

 その後、ちょうど電力料金のお知らせが来たので見てみたところ、8月の我が家の使用電力量は約580kWhでした。20kWh/日というのはそう外れていないようです。
 ただし私の場合は高性能パソコンを3台使って家で仕事をしている日が多いためこんな数字になりますが、一般家庭では条件が違うので300kWhぐらいなのではないでしょうか(カンで言ってます)。

 さてそれではここから、実際に「買電ゼロ」でこれをまかなうことができるかどうかを考えてみることにします。

■抽象度を上げたり下げたりして考える

 まずはこの図を見てみましょう。



 「抽象モデル」の欄はその名の通り抽象化して書いてあります。つまりは「発電」してそれを「消費」するしくみの改革案を考えようとしているわけですから、最も単純化すると「発電→消費」と書けるわけです。そして、「発電する」の具体的な方法として、太陽光その他の案がいろいろと考えられることになります。

 こんな「抽象モデル」を書くのは「自分で考える」ために役に立ちます。というのは、抽象モデルがあるとそれを使って

    発電に使える方法、他にないかな・・・?

 と発想や記憶を刺激できるので、抽象モデルと具体案を行ったり来たりするうちに「しまった、これに気がつかなかった!」という考慮漏れ、「見落とし」が減らせるからです。

 抽象モデルなんて聞くと難しそうに見えますが、「発電→消費」なんてアホみたいなシンプルなところから始めればいいので、気楽に「書いて」しまいましょう。「書く」ことが大事で、脳内で考えているだけだと忘れます。


■数字にしやすいところから試算してみる

 ある程度抽象モデルと具体案を出せたら、数字にしやすいところから試算してみます。
 たとえばここですね。

    瞬間最大電力:100V30Aを確保可能であること

 太陽光発電でこれを達成することは可能でしょうか?
 こんなふうに一点だけでも数字を出し、「具体案」の候補の中からそれに合うものと合わないものを振り分けていくと、その振り分け作業をしている間に、問題の理解がより進みます。数字が出てくるものは「OK/NG」が明確に出るので調べやすく、その意味でも考えやすいわけです。

 さてそこで主要な太陽光発電装置の性能を調べてみましょう。
 ということでメーカーサイトを見に行きます。

 例→ シャープの太陽光発電システムの構成解説ページ
 

 こういうところを見ると「太陽電池モジュール」「パワーコンディショナ」「屋内分電盤」といった用語が出ています。

    パワーコンディショナってなんだろう・・・?

 数字にしやすいところを手がかりにしてちょっとでも具体的なものを調べに行くと、こういうふうに「知らない用語」が次々出てくるもので、出てきたらその都度どこかにメモしておきます。結局のところ人間、考えるのには「知識」が必要なので、知らない用語は遅かれ早かれ調べなければいけないからです。

 さて、パワーコンディショナが何かは気になりますが、それは後回しにして製品を調べてみましょう。そうすると、最も高性能なもので

    公称最大出力:170W
    モジュール変換効率:14.7%

 であることがわかります。ここでも「モジュール変換効率って何だろう・・?」と気になりますが、まずは電力のほうをチェックしましょう。
 170Wというのは電気工学の知識によると電圧 100Vで1.7A(アンペア)の電流を流したときに消費される電力に該当します。
 ということは、Q3の制約条件である「瞬間最大電力100Vで30A」から考えると、

    30A / 1.7A = 約18

 ですので約18分の1。全然足りません。そこで、これを18個、少し余裕を見て20個使うことにしましょう。屋根の上に設置できるでしょうか?
 そこで今度は外形寸法を見ます。すると 1165×990ミリとわかります。約1.2㎡あると見ていいでしょう。これを20個敷き詰めるためには24㎡は必要です。これは6メートル×4メートルの広さ。六畳間の広さが約10㎡なので15畳分ぐらいになります。マンションのベランダや壁では無理ですが一戸建てならなんとかいけるかもしれない、というところでしょうか。(あくまでも、ここまでの数字だけの話なら、です。実際は他にも考えなければいけないことが多くあります)

 さて、ここまでのところを振り返ってみますと、だいたいこんな流れで考察を進めてきました。



 制約条件つきで問いを立てて、条件のうちの1つの数字に注目してそれを手がかりに調べていくうちにいろいろなことが分かり、「マンションでは無理」という結論も出たわけです。
 実際、「1つの数字を手がかりにしてそれをクリアできる方法を探していく」のは、「自分で考える」ための便利な方法です。正直言って面倒くさいわけですが、でも分からないことを考えるのだから面倒くさいのは当たり前で、これを避けて通っていると結局「誰かが考えたことに従う」しかなくなってしまいます。

 面倒ですが、地道に1つずつやる習慣をつけましょう。これをやらない限り、「前例を打破して創造的な仕事をする」ことなんてできません。

 それに、数字というのは面倒なようでいて、「OK/NG」がハッキリ出やすいのでかえって考えやすい面があります。少なくとも大幅に基準に達しないものはその時点で切り捨てられるので、どんどん「考えなければならない範囲を狭くする」のに役立つからです。数字を毛嫌いせずに確認する姿勢を持ちたいですね。


■分からないことは次の「考える」手がかりになる

 さて、そうして数字をたどっているうちに、たいてい、また分からないことが出てきます。「パワーコンディショナーって何?」「公称最大出力って何?」「変換効率って何?」というあたりがそれですね。こういう、「分からないところ」はそれがまた次の考察の手がかりになることが多いので見逃せません。


■大きな社会問題という「問い」を立てるときも結局は同じこと

 この記事は「電力会社から電気を買わずに生活することは可能か?」という問いのもとで前回から書いてきました。こういう「問い」はしょせん一世帯の生活を考える程度のもので、社会的な影響は大してありません。

 しかし、現在私たちは社会的に大きな「問い」を突きつけられています。

   「原子力発電を続けるべきか減らすべきか」

 という問いです。これに答えを出すときにも、やることは基本的に同じです。制約条件つきの問いを立てて、その数字をクリアできる方法をひとつひとつ探すわけです。それが、「自分で考える」ということです。

 「面倒くさい」ですね。本当に。でも、これをやらないと、詐欺まがいの政策に騙されます
 詐欺まがいというのは表現がきついですが、「原発がなくても電力は足りる」と主張しているどこかのジャーナリストの話など、きちんと検証すれば机上の空論でしかありません。でも、机上の空論でしかないそんな議論でも「説得力がある」と思う人がいるようです。いったいなぜなのでしょうか?

 (続く)

 (なお、念のために補足しておきますと、公称最大出力170Wの太陽電池パネル20枚では、今回設定した制約条件には遠く及びません。その理由もまた別途)


■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
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