AI駆動アジャイル開発
生成AIやAIエージェントの技術革新とシステム開発を支援するツール群の充実によりAI駆動開発は、もはやシステム開発の前提になりつつあります。「AI駆動アジャイル開発」は、このAI駆動開発をアジャイル開発に適応した開発の考え方であり、手法です。これを定義すれば、次のようになるでしょう。
アジャイル開発プロセスの各フェーズにおいて生成AIやAIエージェントを積極的に活用し、実装、テスト、進捗管理、さらには市場・ユーザーデータの解析やシナリオシミュレーションまで自動化・高度化する手法
これにより、従来の人間中心の意思決定や実装プロセスに比べ、より迅速で柔軟にサービスを実現できます。
従来のやり方と比較しつつ、整理してみます。
従来型とAI駆動型のアジャイル開発の比較
従来型アジャイル開発は、次のように行われていました。
- 実装・テスト・デバッグ: 人間エンジニアが手作業で進めるため、フィードバックサイクルは数日から数週間単位。
- 意思決定: 市場調査、ユーザーインタビュー、ステークホルダーとの議論を通じた直感や経験に基づく判断が中心。
- 成果物の検証: プロトタイピングやモックアップは手作業で作成され、試行錯誤を伴う。
AI駆動型アジャイル開発になると、次のような効果が期待できます。
- 自動化と高速化: AIエージェントがコード生成、テスト、デバッグ、さらにはシステムの最適化を自律的に実施。これにより、実装サイクルが飛躍的に短縮され、頻繁なリリースが可能に。
- データ駆動のリアルタイム対応: 市場やユーザーの動向、各種ログ、パフォーマンス指標などをリアルタイムで解析し、製品の改善や機能追加に反映。
- 「見える現物」の自動生成: AIエージェントはプロダクト・オーナーとの対話を通じ、要求やアイデアをデジタルモックアップとして自動生成。これにより、抽象的なコンセプトが視覚的に具体化され、関係者全体での理解・フィードバックが容易になる。
役割ごとの変化と求められるスキル
アジャイル開発は、プロダクト・オーナー、スクラムマスター、開発チームによって構成されますが、次のように、その役割が変わります。
プロダクト・オーナー
プロダクト・オーナーは、製品ビジョンの策定、要求の優先順位付け、バックログ管理、ステークホルダーとの調整など、何を作るかを決定する中心的な役割を果たしますが、AI駆動によって、次のように変わります。
- データドリブンな意思決定:AIエージェントがリアルタイムに市場データやユーザー行動、競合情報を解析し、数値的なインサイトや複数のシナリオを提示します。これにより、従来の直感や経験だけではなく、客観的なデータに基づいて製品の方向性を決定できるようになります。
- デジタルモックアップによる「見える現物」の提供:プロダクト・オーナーとAIエージェントの対話を通じ、要求やアイデアが自動的にデジタルモックアップとして具現化されます。これにより、抽象的なコンセプトが具体的な形で提示され、関係者間で迅速かつ正確なフィードバックが得られ、仕様の調整や改善が即時に行えます。
- 戦略的判断と柔軟なピボット:提示されたデータ、シナリオ、デジタルモックアップを基に、プロダクト・オーナーは長期的なビジョンやブランド戦略を維持しつつ、環境の変化に合わせた柔軟なピボット(方向転換)を迅速に行うことが求められます。
このような、変化に対処するには、以下のような新たなスキルを身につけなくてはなりません。
- AIと連携した具体的かつ定量的な要求仕様の策定(プロンプトエンジニアリングの知識など)
- リアルタイムのデータ解析結果を読み解き、意思決定に反映する能力
- デジタルモックアップを活用したフィードバックループの管理
スクラムマスター
スクラムマスターは、チームの自己組織化支援、プロセスのファシリテーション、障害の除去、各種ミーティングの運営を担いますが、AI駆動によって、次のように変わります。
- 自律的プロセスの監視・管理:AIエージェントによるタスク実行や進捗管理、リアルタイムのログ解析結果を監視し、プロセス全体が計画通りに動いているか、または改善が必要な箇所を自動的に検出・提案します。
- データドリブンな改善とガバナンス:解析データに基づいてプロセスの改善を迅速に実施し、AIが自律的に行った判断の透明性や倫理的側面のチェックも行います。
このような、変化に対処するには、以下のような新たなスキルを身につけなくてはなりません。
- AIツールやダッシュボードを用いたリアルタイムのプロセス監視・管理能力
- データ解析に基づく迅速な意思決定とプロセス改善の知識
- AI倫理やガバナンスに関する理解
開発チーム(AIエージェント)とその運用担当者
開発チームは、人間エンジニアがプログラミング、テスト、デバッグ、コードレビューなどを担当しますが、AI駆動によって、次のように変わります。
- 自律的な実装と最適化:AIエージェントがプロダクト・オーナーの具体的な指示(定量化された仕様やデジタルモックアップに基づく要求)を受け、コード生成、テスト、デバッグ、リファクタリングなどの実装作業を自律的に実施します。
- 市場やユーザーの変化への即応:リアルタイムで解析された市場・ユーザーデータを反映し、必要な機能の追加や修正を自動的に検討・実行することで、製品の競争力が維持されます。
このような、変化に対処するには、以下のような新たなスキルを身につけなくてはなりません。
- AIエージェントの設定やチューニング、プロンプト設計の知識
- AIが生成した成果物の品質管理や監査能力
- 複数のAIツールを統合し最適なワークフローを設計・運用するスキル
SIerの競争力とエンジニアの市場価値の変化
上記は、開発チームが人間のエンジニアに代わって複数のAIエージェントによって、構成されるケースを想定しています。その前段として、人間のエンジニアがAI駆動開発を使うことになります。この場合でも、次のような変革が進むと予想されます。
- 自動化と効率化: 要件定義、コード生成、テスト、デバッグ、進捗管理など、反復的な作業がAIにより大幅に自動化され、開発サイクルが短縮される。
- データ駆動型の意思決定: AIが豊富なデータ解析を通じて、プロセス改善やリスク管理を支援し、より精度の高い判断が可能となる。
- 役割の進化と新スキルの習得: プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームそれぞれがAIツールと協働する新たなスキルセットを求められるようになり、役割そのものも進化する。
- 人間とAIの協働: 最終的には、人間の創造性や戦略性と、AIの自動化・分析能力が融合する形で、より柔軟かつ迅速な開発プロセスが実現される。
これによって、プロジェクトの透明性と迅速なフィードバックループを強化し、変化の激しい市場環境への適応力を高めるとともに、イノベーションを促進する可能性を秘めています。
ここに解説したように、AI駆動アジャイル開発は、AI技術による自動化とリアルタイムデータ解析、そして「見える現物」を伴う具体的なフィードバックループを通じて、製品開発のスピード、柔軟性、そして市場適応力を大幅に向上させることができるようになり、これに対応できるかできないかによって、SIerの競争力、あるいは、エンジニアの市場価値には、大きな格差が生じることを理解しておく必要があります。
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