ITの観点からDXの「あるべき姿」を探る
DXとは、デジタル技術を駆使して、企業のビジネスモデルや組織文化、ひいては社会全体を根本から変革し、デジタル社会に適応することです。単に業務を効率化したり、コストを削減したりするだけでなく、顧客に新たな価値を提供し、社会に貢献できる企業へと進化することを目指します。そのためには、従来のアナログ時代の発想から脱却し、デジタル技術の可能性を最大限に引き出す必要があります。
そんなDXをITの観点から捉え直すと、2つの「あるべき姿」が見えてきます。
- リアルタイム・フィードバック・ループの完成
- ビジネスをITの制約から解放すること
これらの重要性と実現方法を具体的に見ていくことで、DX推進の道筋を示すとともに、変化の時代におけるITプロフェッショナルの役割についても考えます。
リアルタイム・フィードバック・ループの完成
グローバル化や技術革新の加速により、現代社会はVUCAと呼ばれる、予測不可能で不確実な状況に直面しています。企業は、市場や顧客のニーズ、競合の動向、社会情勢の変化など、様々な要因に瞬時に対応し、競争力を維持していくことが求められます。
このような環境下で重要となるのが、「リアルタイム・フィードバック・ループ」です。これは、顧客や市場からのフィードバックをリアルタイムに収集し、分析、意思決定、実行、そしてその結果を再びフィードバックするというサイクルを高速に回すことを指します。このループを構築することで、企業は変化に機敏に対応し、常に最適な意思決定を行うことができるようになります。
リアルタイム・フィードバック・ループを実現する上で、ITは重要な役割を担います。ERPシステムを基盤として、IoT、AI、データサイエンス、クラウドといった最新技術を統合することで、大量のデータをリアルタイムに収集・分析し、迅速な意思決定を支援することが可能となります。
例えば、IoTセンサーを活用することで、工場の稼働状況や製品の在庫状況などのデータをリアルタイムに把握することができます。AIを活用すれば、顧客の購買履歴や行動パターンを分析し、パーソナライズされたサービスを提供することができます。また、クラウドを活用することで、必要な時に必要なだけITリソースを調達し、柔軟にビジネスを展開することができます。
このように、ITはリアルタイム・フィードバック・ループを構築するための基盤となり、企業の競争力強化に大きく貢献します。
ビジネスをITの制約から解放する
多くの企業、特に長年事業を営んできた企業は、過去のしがらみに縛られ、レガシーシステムを抱えているケースが少なくありません。これらのシステムは、老朽化やブラックボックス化が進み、柔軟性や拡張性に欠けるため、新たなビジネスモデルやサービスの展開を阻害する要因となります。経済産業省が2018年に発表した「DXレポート:2025年の崖」で警告するように、レガシーシステムは企業の成長を阻む大きなリスクと言えるでしょう。
DXを推進するためには、レガシーシステムから脱却し、「アダプティブなアーキテクチャ」へと転換する必要があります。アダプティブなアーキテクチャとは、変化に柔軟に対応できる、柔軟性と拡張性に優れたITシステムのことです。具体的には、以下の手法を導入することで、実現することができます。
- マイクロサービス・アーキテクチャー: システムを独立性の高い小さなサービス単位に分割することで、個別に開発・運用・改修を可能にします。これにより、システム全体の柔軟性と拡張性を高めることができます。
- アジャイル開発/DevOps: 短いサイクルで開発・リリースを繰り返すことで、変化への対応スピードを高めます。また、開発チームと運用チームが連携することで、開発から運用までのプロセスを効率化し、迅速なサービス提供を可能にします。
- クラウド活用: インフラを自社で保有するのではなく、クラウドサービスを利用することで、必要な時に必要なだけITリソースを調達することができます。これにより、初期投資を抑え、変化への対応力を高めることができます。
これらの手法を組み合わせることで、ビジネスはITの制約から解放され、変化に迅速に対応できるようになります。
変化の時代におけるITプロフェッショナルの姿
DXを推進する上で、ITプロフェッショナルの役割はますます重要です。ITプロフェッショナルは、単なる技術者ではなく、ビジネスの変革を牽引する存在として、以下の能力が求められます。
- DXの真の理解: DXの本質を理解し、その重要性を経営層や現場に伝えることができます。
- ビジネス視点: ビジネスの課題やニーズを理解し、ITを活用してどのように解決できるかを提案できます。
- コミュニケーション能力: 関係部署と連携し、プロジェクトを推進していくためのコミュニケーション能力。
- 最新技術の習得: AI、IoT、クラウドなど、常に最新技術を学び、ビジネスに適用できる能力。
- 問題解決能力: 複雑な問題を分析し、最適な解決策を導き出す能力。
ITプロフェッショナルは、これらの能力を駆使することで、DXを成功に導き、企業の成長に貢献することができます。もちろん、これらを全て完璧にこなせるスーパーマンになることなど、容易なことではありません。だからこそ、そんな「あるべき姿」を理想に掲げ、日々の研鑽を怠らないようにしたいものです。
次のアクションへ
DXは、一朝一夕に実現できるものではありません。長期的な視点に立ち、計画的に推進していく必要があります。まずは、自社の現状を把握し、DX推進のロードマップを作成することが重要です。
その上で、レガシーシステムの刷新、アジャイル開発/DevOpsの導入、クラウドの活用など、具体的な施策を検討し、IT人材の育成にも力を入れる必要があります。
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