まずは実践して感じる
私は、最新のITトレンドやビジネス戦略について、人に伝えることを生業にしています。ITソリューション塾は、そんな私のやっていることを凝縮したパッケージです。そこには、私だけではなく、この想いを共有してくれるトップレベルの実践者にも講師を務めて頂き、実務や実践におけるノウハウや勘所を伝えてもらっています。
「分かりやすく本質を伝える」
講義を行う上でのモットーです。そのためには、ものごとから枝と幹を切り分けて、「幹」がなにか、つまり本質が何かを説明し、それがどのように枝になるのかを説明しようと心がけています。
本質が分かれば、それを自分たちの仕事に当てはめて考えれば、自分たちは何を目指せばいいのか、つまり、自分たちの「あるべき姿」を描きやすくなります。その「あるべき姿」が決まれば、自分たちにふさわしい、具体的なHow Toつまり手段を見つけることが容易になるわけです。
手段だけでは、それをすることが目的化してしまうリスクが高く、やり方の巧拙が過度に意識されてしまいます。結果として、目指すべき「あるべき姿」を見失うことにもなりかねません。だからこそ、「枝葉」を徹底してそぎ落として、「幹」すなわち、「本質」を素っ裸にすることで、「あるべき姿」とそこに至る「手段」を分けて考えられるように心がけています。
しかし、私ができることは、ここまでです。その実践は、この話を聞いた本人に委ねられています。
ひとつ、残念な話しを紹介しましょう。ある地方IT企業の団体で話をさせて頂いたことがあります。その話しを聞いた人たちから、次のようなコメントを頂きました。
「とても分かりやすい話で、腹落ちしました。私も実践したいと思います。」
翌年、ある講演で、前年に話しを聞いて頂いた方にお目にかかりました。その後の進展を伺ったところ、「なかなかできなくて」というお話でした。そんな体験を幾度となくしています。
話しを分かったとしても、多くの人はここで留まってしまいます。分かったことを成果に結びつけたければ、とにかくやってみて感じること、つまり「体験による実感」です。
ITソリューション塾の講師にアジャイル開発やDevOpsの実践者がいます。並の実践者ではありません。多くの企業で事業の立ち上げを成功させ、世界的な人材育成プログラムや資格認定制度の制定にも関わり、世界中で読まれる書籍の著者でもあります。
「やってみなければわかりません。」
彼は、そう言って次のようなたとえ話をしてくれます。
「芋虫が見る世界と蝶が見る世界はまるで違うはずです。蝶が芋虫に、自分の見ていること、感じていることを説明してもきっと伝わりません。蝶になって、はじめて、蝶の語る真実が、体験を通じて、実感として分かります。アジャイル開発やDevOpsを、本当の意味で理解するにはそれしかありません。」
このような話しの後には、次のような質問を頂くことがあります。
「うちの会社の幹部は、頭が固くて、いままでのやり方を変えることが、なかなかできません。どうすれば、彼らを変えられるのでしょうか。」
このようなご質問に対しては、次のように答えるしかありません。
「まずは、あなたができることから、始めてください」
だれかに許しを得なければ何もできないのであれば、もうそれは、人間の居場所ではありません。そんな会社はとっとと辞めてしまった方が、自分の人生にとって健全です。しかし、決してそんなことはないはずです。自分だけで、あるいは、自分の組織で、できることがあるはずです。自らできることを実践し、その成果を見せればいいのです。
批判もあるし、しばらくは人事評価も下がるかも知れません。しかし、正しいとであれば、成果が伴います。そして、共感者も次第に増えていきます。その数が一定の閾値を超えたとき、組織全体が動き始めます。「彼らを変える」最も現実的で有効の手段はこれしかありません。
ある企業で、社長も含む経営幹部の会議があり、DXについての話をしたことがあります。先方の会議室に伺って、話をしたのですが、受付で持ち込むPCの機種とシリアル番号のチェックを求められました。
実は、この会社には以前にも伺ったことがあり、その時は終業前で受付がまだ不在でした。そこで守衛室を経由して入館したのですが、その時はPCのチェックはありませんでした。
何のためのPCチェックなのでしょうか。しかも、まったく徹底されていません。チェックし、記録に残した情報は、どのように管理され、使われているのでしょうか。
この建物は、もともとはデータセンターだったようです。いまはオフィスとして使われています。データセンターの当時は、PCを外部から持ち込むという行為が特別だった時代で、このようなルールが必要だったのかも知れません。しかし、もはや意味をなくした過去のルールが、見直されることなく、疑問にも持たれず、そのまま続いてきたのでしょう。
そんな「御社での実体験」を経営幹部の前で話したら、苦笑いされました。変革とは、このような「もはや意味のないことを洗い出して辞めること」から始める必要がありますと伝えました。
デジタルが当たり前の時代になって、意味のないこと、不便と感じること、おかしいと感じることを辞めることから始めなくてはなりません。そうやって、いまの時代にふさわしい仕事のやり方を追求することです。その手段として、デジタルを使えば、「はやく、やすく、うまく」できます。ましてやお客様のDXに貢献しますなどと言っているのなら、まずは、そんな自分たちの取り組みから始めるべきでしょう。その実感とノウハウこそが、お客様が一番求めていることではないのかと、伝えました。
それから半年ほど経って、再びその会社を訪れたとき、このルールはそのままでした。
DXとは何かを教えて欲しい、AIをビジネスに活かすには、どうすればいいのか、そのやり方を教えて欲しいとのご依頼が少なくありません。私にとっては、それが仕事なので、できるだけ分かりやすく、そして、それぞれの仕事の現実を踏まえて、身近に感じてもらえるように話をしています。しかし、そんな話から、少しでも気付きがあれば、「実践して体験する」ことから始めるべきでしょう。
まずは実践して感じる
考えるのはその後でいいのです。何かを始めよう、成し遂げようとするのなら、これしかないように思います。
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