生成AIがSIビジネスの崩壊を加速する/完 ITシステムを作る」ための自動装置の歯車であることを辞める
本来は、売上や利益の拡大などの事業目的を達成するためにITシステムを作るわけですが、ITシステムを作ることが自己目的化してしまい、「ITシステムを作る」ための自動装置の歯車としてしか、生きることができなくなってしまったのが、多くのSI事業者やITベンダーの現実ではないのでしょうか。
先日のブログでこのように述べました。そんなことは分かっているが、いまさらこの現実を否定しても、生き残る術を失ってしまいます。だから、この現実を舞台の袖に隠して、自動装置の歯車としての能力を磨き、事業モデルを洗練させてきたわけです。
しかし、AIは、この現実を舞台の真ん中に引きずりだしてしまいました。そして、もうそんな歯車なんかいらないことを、ユーザー企業は、気付いたのです。
「ITシステムが必要なわけじゃない、欲しいのは、ITサービスだ。ITシステムを作らなくても、業務に必要なITサービスを、ITベンダーに頼まなくても、自分たちで、直ぐに手に入るなら、それで十分ではないか。」
「ITシステムは作ったら何年も同じものを使い続けなくちゃいけない。メンテナンスの手間もかけなくちゃいけない。でも、簡単に作れるのなら、いらなくなったら捨てて、必要になれば、新しく作り変えればいいじゃないか。」
専門でなければできなかったことを、AIが代わりにやってくれます。コストが安いだけではありません。ユーザーのやりたいことを先読みして提案してくれます。効率やセキュリティー、コンプライアンスや法律・規制についても確認し、必要な要件を満たしてくれます。そのための打ち合わせや手続きも必要ないし、見積もりをとる必要もありません。しかも、こうじゃないか、ああじゃないかと、きめ細かく世話を焼いてくれます。そんなパートーナーがいつもそばに寄り添って、仕事を手伝ってくれます。そんな時代になったのに、なぜ、こちらの思い通りにならないITベンダーやSI事業者を相手に駆け引きや手続きなどで苦労しなければならないのかとなるのは、ごく自然なことではないのでしょうか。
自分の実現したい目的の達成や課題の解決を、外部の人に頼ることなく、自分でできるのなら、それが一番良いわけです。しかし、これまでは、「ITの専門知識やスキルを持つ大勢の専門家を、組織力で集めないと目的の達成や課題が解決できない」という壁が立ち塞がっていました。自分でこれを賄うことが、できなかったから、ITベンダーやSI事業者には、存在意義があり、彼らに対して、適正な対価を支払うことには、合理性があったのです。
この壁が、AIによって取り払われてしまいました(正しくは、取り払われようとしています)。これまでと同じ理屈で、ビジネス合理性を見出すことは、できなくなりました。
「ITシステムを作る」ための自動装置の歯車という役割を捨てるしかありません。「ITシステム」を作らなくてはならないという、誰もが当然のこととして受け止めていたITベンダーやSI事業者の事業の大前提も、もはや意味のないと、公衆の面前で突きつけられたのです。
では、どうすればいいのでしょうか。
昨日のブログで、私なりの解決策を提示しました。改めて、その要点を述べれば、次の3点です。
- ユーザー企業のデジタル戦略の策定や業務変革を支援する
- 自分たちがデジタル・サービスの事業者となり新たな収益源を生みだす
- 圧倒的な技術力でユーザー企業の内製化を支援する
これは、会社を作り直すほどの大変革です。しかし、この現実に向きあうしか生き残る術はありません。
確かに、この現実に気づけていないユーザー企業も多いと思いますし、彼らがそう簡単に、いままでのITとの係わり方を放棄して、新しいやり方に移行できるとも思えません。それであるならば、これまでのやり方をそのままにITベンダーやSI事業者は、事業を続けていくこともできます。そして、緩やかに、静かに終焉を迎えることができるでしょう。それもまた、経営者としてのひとつの選択であるかと思います。
しかし、生き残り、これからも成長したいという選択をしたいのなら、お客様のDXや事業変革を叫ぶ前に、自分たちの足下に火がついていることに気がつくべきです。これを解決するために必死に取り組むべきです。その経験と実績に裏打ちされたノウハウこそが、これからの自分たちの売り物になるのだと思います。
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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー