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生成AIがSIビジネスの崩壊を加速する/2 新たなステージに向けたシナリオ

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「本来は、売上や利益の拡大などの事業目的を達成するためにITシステムを作るわけですが、ITシステムを作ることが自己目的化してしまい、「ITシステムを作る」ための自動装置の歯車としてしか、生きることができなくなってしまったのが、多くのSI事業者やITベンダーの現実ではないのでしょうか。」

昨日のブログで述べたことですが、AIの進化と普及は、この根本的な問題を「あるべき姿」に戻そうとする力を生みだしていると、捉えることができます。それは次のような表現になるでしょう。

事業目的を達成するための手段である「ITシステムの構築」負担をなくす

「なくす」という表現は、言い過ぎだと言う人もいるかも知れません。確かに現時点では、その通りだと思います。しかし、「あるべき姿」とは、目指すべき理想のゴールであり、それに向かって、世の中が大きく向かっていくことは確かだと言えます。

ITシステムの構築」負担が大きいからこそ、ITベンダー/SI事業者には仕事の需要があるわけです。それが直ちになくなることはないとしても、その方向に向けて、世の中が向かうことを前提に、対策を進めてゆくべきは当然と言えるでしょう。

さて、このようなAI活用のツール類が、米国発で登場する理由についても、明確にしておきましょう。それは、いま起きていることの本質を理解する上で、役に立つからです。

雇用の流動性に大きな制約を抱える日本では、必要とする工数が大きく変動するシステムの開発段階によって、ITエンジニアの雇用や解雇を柔軟に行えません。そこで、その変動分をITベンダー/SI事業者に預け、段階に応じた必要な工数を提供してもらう慣行が機能しています。そのため、ITエンジニアの7割がITベンダーに所属する状況が生まれました。

一方、米国では、雇用の流動性が高く、プロジェクト単位、あるいは、システムの開発段階に応じて、その時に必要な工数を雇用し、仕事がなくなれば解雇することができることから、結果として、内製化比率が高まり、ITエンジニアの7割がユーザー企業に所属するという状況になります。これは、ITエンジニアの生産性が、システムに関わるコストに直接影響を与えることを意味します。

当然、ユーザー企業は、コストを下げるために、開発生産性を大幅に向上させる手段を求めます。そんなニーズに応えようと、クラウドや生成AIによるサービスが、米国発で普及するわけです。

我が国では、開発を担っているのは、ITベンダー/SI事業者です。生産性の向上は、自分たちの収益を悪化させることになりますから、なかなか積極的にはなれません。また、ユーザー企業も彼らに丸投げしているので、システム開発の実践スキルはなく、彼らに頼らざるを得えません。そのため、このようなツールの導入についての主導権を持つことができず、「開発生産性を大幅に向上させる」ことへの需要は抑制され、これらツールの普及が進まないという状況が、生じているわけです。

しかし、ITが事業競争力の源泉として意識される時代となり、遅まきながら日本のユーザー企業も、開発生産性の向上に本腰を入れ始めました。それが、内製化というトレンドを動かしているわけです。

IT前提の事業開発や業務変革をすすめるためには、システム開発のあり方を、以下の3つの観点で根本的に見直す必要があります。

  • 俊敏性の獲得:ベンダーに頼らず自分たちで即決・即断できる
  • 先進技術の活用:ベンダーは需要の大きい枯れた技術に偏っている
  • 専門性スキルの高度化:圧倒的な業務の知見とITを融合させやすい

開発生産性の向上に消極的で、しかも先進テクノロジーのノウハウに乏しいITベンダー/SI事業者に期待することができません。結果として、自分たちでなんとかしなくてはならず、内製化への動きが加速するわけです。しかし、そのためのITエンジニアを採用、育成することは容易なことではありません。

このような状況で登場してきた生成AIを組み入れたツールは、そんなユーザー企業にとっては、渡りに船です。これらツールに加え、アジャイル開発やクラウドサービスもまた、開発生産性を大幅に向上させることができます。内製化の動きは、これらを前提に、ますます加速するでしょう。

むしろ業務現場を理解し、あるいは、現場の近くにいるユーザー企業だからこそ、「何をしたいか=issue」を的確に表現できるので、生成AI組み込みの開発支援ツールは、外注以上の効果を引き出すことになるはずです。

また、開発生産性が高いこと、また自分たちで意思決定できることは、要件を明確に定義しなくても、ユーザーニーズを先取りしたシステムを高速に作り、改善を高頻度で繰り返すことができます。将来が予測できず、変化が速い時代にあっては、この俊敏さは、必須となります。

この状況に、ITベンダー/SI事業者は、どのように対処すればいいのでしょうか。これを整理したのが、次のチャートです。

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ステージ1は、移行期における状況です。外注に依存しているユーザー企業は、容易に外注を辞めることはできません。しかし、元請には、コスト削減の圧力はかかり続けます。また、開発テーマも増え続けます。この両者を取り込んで、ユーザーの期待に応えようとすると、元請の事業者は、下請けへの工数を減らすしかありません。そのためのツールとして、AI開発ツールは使われるようになるでしょう。結果として、SES(工数提供サービス)の仕事の減少は、避けられません。

しかし、大きな課題があります。それは、元請に「プログラムを書けるエンジニアがいない」という現実です。そうなると、これまで下請けに甘んじていた事業者は、その経験値を活かし、積極的にAIツールを使って開発生産性を高めれば、低コスト、高品質、高速開発をウリにして、直接ユーザー企業を顧客に取り込むチャンスとなるかも知れません。

昨日のブログでも述べたとおり、これらツールを使えば、開発の生産性は高まりますが、あくまで「支援者」の役割であり、使いこなすには、「プログラムを書ける」ことが前提です。この前提を満たすことができない元請は、ユーザー企業の期待に応えられず、チャンスを逃してしまうことも考えられるわけです。ここに、下請けが元請になれる下剋上のチャンスがあるかも知れません。

しかし、これは初期段階であり、次のステージ2では、ユーザー企業の内製化の拡大を前提に、根本的な事業の変革が求められるでしょう。これを要約すると、「工数から技術力を売る仕事への転換」と「独自のデジタルサービスの展開」ということになります。

これについては、明日解説したいと思います。

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ISBN 978-4-297-13054-1

目次

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  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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