AIの危険性についての3つの視点
「AIは危険である」との声が盛んに聞かれるようになった。しかし、そんな声の中には、曖昧で明確な論拠を持たないものもある。漠然と、雰囲気で危険を叫んでも、それでは、これを解決する手段が見いだせない。そこで、「何をもって危険と言えるのか」について、独断と偏見を交えて、AIの危険性を次のように整理してみた。
- 社会格差拡大の危険性
- AIの予測できない振る舞いについての危険性
- 人間と同様の社会的関係性の喪失による危険性
社会格差拡大の危険性
昨日のブログで指摘したが、直ちに直面する危険性は、「AIをうまく使いこなし、仕事の生産性や価値を高め、これができない人たちの仕事を奪う。」ことだ。これは、意図して危険性を生みだしているのではない。自分の仕事への使命感、向上心、創意工夫というような、自助努力の結果であり、AIを使わない、使えない人たちの仕事を不要にしてしまうことで、彼らの仕事を奪ってしまう可能性がある。
また、企業が他社との差別化や競争力を強化するためにAIを積極的に活用して、業務の生産性を著しく高め、あるいは、これまでのビジネスの常識を破壊するほどの魅力を提供することで、他者を圧倒し、既存の市場を破壊して、多の企業の仕事を奪う可能性である。これは、既にビッグテックによるプレイヤーの置き換え(Digital Disruption)というカタチで、現実のものとなっている。
ただ、一般的には、これを「AIの危険性」として、捉えられることは少なく、競争社会における基本的な原理として、捉えられている。しかし、いまのAIの急速な進化は、これを使いこなせる、使いこなせないことでの格差をさらに短期間のうちに拡大させることになるだろう。そうなれば、この変化のスピードに対処できず、落ちこぼれてしまう人/企業が、急速に拡大し、社会的、経済的な格差を拡大し、社会不安をもたらすことは想像に難くない。
AIの予測できない振る舞いについての危険性
いま注目されているLLM(大規模言語モデル)は、学習データを言語に依存している。従って、言語を駆使できる能力、すなわち、プロンプトエンジニアリングの能力により、結果が制約される。また、そのリスクもある程度は予見可能であろうことは、昨日のブログでも指摘した。
しかし、GPT-4やLaMDA2などのマルチモーダル・モデルや、その先のAGI(汎用人工知能)となると、人間はどこまでこれを制御できるのだろうか。あるいは、一体何が起きるのかを予見することは極めて困難になるだろう。
既存の常識を覆すような新しいテクノロジーの登場は、歴史をふり返れば、幾度もあった。しかし、これまでは、試行錯誤を繰り返しながら、時間をかけて折り合いを付けてきた。しかし、AIの進化は、これまでになく急速であり、劇的である。折り合いを付けようにも、その時間的な余裕がない。ディープラーニングの父とも言われるジェフリー・ヒントンが、この危険性を指摘している。
シンギュラリティと言う言葉がある。2005年に、レイ・カーツワイルが提唱した概念だ。本来は、物理学の「特異点」のことで、「通常のルールや基準が通用しない地点」を意味している。たとえば、宇宙空間に存在するブラックホールの中心は、無限大の重力になっていて、一般的な物理法則が通用しない地点であり、何が起きるか分からない「特異点」になる。カーツワイルは、この言葉を借用し、「技術進化が進んだ先に訪れる、今までの社会とは常識が一変する転換点」を意味する言葉として使っている。
AIの進化がシンギュラリティをもたらすかどうかはともかくとして、少なくとも現時点で「何が起きるか分からない」ことは確かであり、これもまた、大きなリスクと言えるだろう。
人間と同様の社会的関係性の喪失による危険性
いまのAIと人間との決定的違いは、身体性だ。身体に無数に配置されている感覚器、身体を動かすための筋肉、身体機能の調整や機能の発現を促す内分泌系などからのフィードバックもまた、人間の知性の一部となっている。
人間は、この身体を使って、外部環境や他者との関係を持ち、知性に影響を及ぼし、社会において社会集団を形成して、相互作用に基づいて持続的にかつ安定的な行動様式を築いている。これが、「社会的関係性」だ。
AIは、人間同様の「社会的関係性」を持つことはできない。だとすると、私たちが常識とする社会規範や道徳感を持つことはできないと考えるべきだろう。
AIが人間と同様の「社会的関係性」を持たないままに進化したとき、AIはサイバー空間の中で、独自の「社会的関係性」を築くことも考えられる。果たして、人間の知性との間で、どのような軋轢が生まれるだろうか。ここは、まだまだ「未知の領域」である。
未知であると言うことは、対処しようがない。従って。これもまたリスクといえるのではないか。
私は、AIの専門家ではないので、このような整理を学術的、体系的に裏付ける根拠はない。そんな素人であっても、闇雲に「危険性」を論じ、漠然とした不安感を持つことは、気持ちが悪い。そんなわけで、取りあえず、自己流の整理を試みてみた。ご批判を頂ければありがたい。
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目次
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- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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