LLM(大規模言語モデル)が仕事を奪うことができない理由
「プロンプトエンジニアリングの教科書(日本語版)」が、リリースされました。ChatGPTなどのLLM(大規模言語モデル)をベースとした生成AIの機能をうまく引き出すための指示文/呪文(プロンプト)を学ぶことができます。
このようなものが出てくることからもわかるのですが、「LLMを使いこなすには、言語力(プロンプトエンジニアリング力)が必要だ」ということになります。LLMは膨大な言語データを学習データとして使って作られているわけですから、これは当然のことです。
そう考えると、「言語力を駆使できなければ、LLMの性能を引き出せない」ということになります。さらにこの考えをすすめれば、「言語力を駆使して、LLMを使いこなせる人間は最強(笑)!」ということになるのでしょう。
つまり、「AIによって、仕事が奪われる」のではなく、「言語力を駆使できる人間によって仕事が奪われる」という理屈が成り立ちます。
AIは意志を持ちません。何が正しいか、何をしたいかを決められるのは、人間の持つ常識や価値観、夢や理想、好奇心や好き嫌いであり、これがあるからこそ、人間は意志を示すことができます。この意志をAIに正しく伝える手段が、プロンプトと言うことになります。
この理屈を、先の理屈に組み入れれば、次のようになります。
「明確な意志を持ち、これを正しく言語化できる人間は、LLMという強力な武器を使って、仕事の生産性や価値を高め、これができない人たちの仕事を奪う。」
LLMが勝手に仕事を奪うことはありません。言語を駆使できる人間もまた、だれかの仕事を奪おうなどとは考えないでしょう。
自分の仕事の成果を追求し、何をしたいのかの明確な意志を持ち、これを言葉で伝えられる人は、LLMを使って、さらに高い成果を目指すでしょう。結果として、そういうことができない、あるいはしない人たちの仕事を奪うことになるわけです。
仕事を奪うだけではありません。この能力を使えば、巧みに人をだますこともできるはずです。あるいは、悪意あるプログラムコードを生成し、こっそりとシステムに組み込むことも巧みにできるようになるでしょう。しかし、これはLLMが勝手にやるのではなく、「明確な意志」と「言語を駆使できる能力」を持つ「人間」が実行し、脅威を生みだすわけです。
ただ、いまは、LLMの学習データは言語に限られています。つまり人間が提供する言語なくして機能しませんし、言語によってコントロール/制御できる(under control)ことを意味します。
このことは、LLMであれば、リスクはある程度予見できるということであり、また人間のコントロール下に置かれ、人間の能力の拡張に留まります。例えば、包丁が料理にとって重宝な道具あると同時に、人を殺す便利な道具にもなり得ると同じ話で、使う人次第であり、そのリスクもある程度コントロールできるということです。
最新のGPT-4は、言語だけはない様々な形式のデータ(画像や定型形式のデータなど)を学習モデルに使ったマルチモーダル・モデルです。このような技術がさらに発展して、音声やセンサーデータ、その他の多様なデータを学習データに取り込むことができるようになると、AGI(汎用人工知能)へと発展する可能性があります。そうなると、果たして、人間のコントロールは、効くのでしょうか。あるいは、どうやってコントロールすればいいのでしょうか。
もしコントロールできない状態/制御不能(out of control)になったとき、AIに支配される(かどうかは分かりませんが)というような、予測できない危険が生じるのかも知れません。
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