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ポスト近代のITビジネスを支える3つの価値観:コンポーザブル・データドリブン・自律分散

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「不確実な時代」に対処する唯一の方法は、変化に俊敏に対応できる圧倒的なスピードです。それは、正確に未来を予測して計画を立て、PDCAを回すことが難しいからです。ならば、次のようなやり方を取るしかありません。

  • いまの変化を直ちに捉える
  • その時の最善を選択して実行する
  • その結果から学んで改善を高速に繰り返す

情報システムもまた、この価値観が求められていますが、全てを外注に頼っていては、それができません。そこで、自社内でシステムを開発、あるいは運用できる能力を持とうという企業が増えています。これが、「内製化」というムーブメントです。

コンピューターやITの歴史を俯瞰し、商用コンピューターが登場した1950年代を「前近代」と呼ぶことにしましょう。その時代は、ハードウェアとソフトウェアは一体の仕組みとして、製品ごとに個別設計され、それを使うためにはメーカーに頼らなければなりませんでした。

1964年にSystem/360が登場して、ハードウェアとソフトウエアの関係が標準化され分離して扱えるようになり、両者に関わる仕事を分業できる時代となりました。これを「近代」と呼ぶことにしましょう。

2000年代に入り、インターネットの普及とともに「不確実な時代」を人々は意識するようになりました。それによって、変化に俊敏に対応できる圧倒的なスピードが求められるようになり、ITに求められる要件も大きく変わりました。そんな時代を「ポスト近代」と呼ぶことにしましょう。

そんな「ポスト近代」を象徴する出来事が、2001年の「アジャイルソフトウエア開発宣言」です。仕様書や当初の計画に従って作ることよりも、現場と対話し計画の変更を積極的に受け入れながら、ビジネスの成果に貢献することを目指すというものです。

DevOpsもまたこの価値観を開発だけではなく運用にも拡げるもので、マイクロサービスやサーバーレス、コンテナなどもまたこの延長にあります。昨今のクラウド・サービスは、このような「ポスト近代」のテクノロジーやメソドロジーの利用を前提に、サービスの充実を図っています。

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「ポスト近代」の情報システムの底流にある価値観を整理するならば、「コンポーザブル」、「データドリブン」、「自律分散」となるでしょう。

コンポーザブル(composable)

「構成可能な」と言う意味で、複数の要素や部品などを結合して構成することで実装するシステムを意味します。つまり、できるだけプログラム・コードを書かずに、複数の機能で構成されたコンポーネント、あるいは、何らかの業務プロセスを提供するサービスをAPIで連係させ、ITサービスを実現するという考え方です。

このような考え方でシステムを作れば、それぞれの機能の品質は予め保証され、サービスの実現や変更は、迅速になります。

言うまでもありませんが、ユーザーが求めているのは、プログラムを納品してもらうことではありません。いち早くサービスを利用することです。その点からも理にかなっているし、そのためのテクノロジーやサービスも充実しつつあります。

PaaSSaaSAPIエコノミー、サーバーレス、マイクロサービス、コンテナなどは、まさに「コンポーザブル」という価値観に基づく、テクノロジーと言えるでしょう。

データドリブン

現場の事実をデータで捉え、そこから学んで、直ちに改善し、現場にフィードバックするという考え方です。経験や勘だけに頼るのではなく、データという事実に基づく高速な最適化と改善の繰り返しです。これができるようなれば、変化への俊敏な対応が実現します。

そのためには、ビジネス・プロセスを徹底してデジタル化し、あらゆるものごとやできごとからデータを得られるようにすることが必要です。ERPの進化や機械学習、モバイルやWebIoTなどは、そんな潮流の中にあります。また、そんなデータからのフィードバックをうけて、改善を高頻度で繰り返すためにアジャイル開発やDevOpsが必要となります。

自律分散

変化への俊敏な対応を実現するための前提となる組織の価値観あるいは行動様式です。圧倒的なスピードを実現するには、認知−>意志決定−>行動のタイムスパンを短くしなければなりません。そのためには、ビジネスの当事者である現場に、大幅に権限を委譲し、このタイムスパンを最短にしなくてはなりません。もちろんその前提として、常にオープンに情報共有され、誰もがそれにアクセスできる必要があります。

このような価値観が前提になければ、アジャイル開発やDevOpsは機能しません。メソドロジーやツールは、この価値観の体現にすぎないからです。当然ながら、先に挙げた様々なテクノロジーもまた、「自律分散」という組織風土を反映しているし、その前提がなければ、十分に機能することはありません。

「ポスト近代」の底流に流れる価値観が、「コンポーザブル」、「データドリブン」、「自律分散」であるとすれば、「近代」は、「個別丁寧」、「経験至上」、「組織統率」となるでしょう。

未だ多くのSI事業者は、「近代」の価値観で事業を行っています。これからを考えるのであれば、まずはこの価値観を「ポスト近代」に置き換える必要があります。表面的なテクノロジーのトレンドやバズワードに惑わされるのではなく、その底流にある流れを受け入れ、事業のあの方を考えるべきでしょう。

「ポスト近代」は、最近のことではありません。20年も前に始まっていますし、改善は繰り返しつつも知見はすでに十分に蓄積されています。

「近代」的価値観の視点から、いまの変化を読み解くことはできませんし、「ポスト近代」に沿った戦略も描けません。「近代」を一旦棚上げして、「ポスト近代」に目をむければ、自ずと何をすればいいのかが見えてくるのではないでしょうか。

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

12月9日(金)9:30〜 トライアルオープン

オープンを盛り上げてくれるいい対談となりました。録画を公開しましたので、よろしければ、ご覧下さい。

リモートワークやリゾートワーク、メタバース時代の働き方などについて、及川卓也さんと白川克さんと話をしました。とても学びの多い対談になりました。

録画を公開しています。よろしければ、ご覧下さい。

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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