コンセプト・デザイン・ソリューション 新規ビジネスを立ち上げる3つの要件
「クラウドで新規事業を立ち上げようと取り組んでいます。」
話を訊くと、サービスの機能やこの金額なら使ってくれるだろうという話ばかりで、どういう価値をお客様に提供しようとしているのかがよく分かりません。同様のサービスと何が違うのか、差別化のポイントも曖昧です。フリーミアムできっかけを掴もうというのはいいのですが、無償で使う人たちを有償で使っていだくための動線も描かれていませんでした。
「年間数千万円のビジネスにしたい。」という意気込みは大いに結構なのですが、残念ながら、あまりにもお粗末なビジネス設計に、「これではムリですよ」と申し上げてしまいました。
新規事業の立ち上げに欠くことのできない概念が「デザイン」です。デザイン(design)の語源は、「計画を記号に表す」という意味のラテン語designareです。日本語では、「設計」という意味や「形態」や「意匠」と訳されますが、本来の意味はそれだけに留まりません。ある目的を達成するための行為をうまく行わせるための「計画」の意味もあります。「シナリオ」や「物語」といったニュアンスも含まれています。
アメリカの建築家のルイス・ヘンリー・サリヴァンは、「形態は機能に従う(Form Follows Function)」という言葉を残しています。「何かを実現するための機能を追求すれば、自然にその形は決まる」という意味です。
スティーブ・ジョブスもまた、「デザインとはどう見えるかではなく、どう機能するかである」という名言を残しています。アップルの洗練されたデザインは、美しさを追求したから生まれたわけではなく、目的を達成するために必要な機能を追求した結果として生まれたのだというのです。
「デザイン」という言葉がわかりにくければ、「基本設計」や「全体計画」と言い換えれば、少しわかりやすいかもしれません。
顧客価値を実現するためのコンセプト、それを実現するための物語であるデザイン、そのデザインを実現する手段がソリューションなのです。たとえば、Amazonの電子書籍サービスKindleに当てはめてみると次のようになります。
コンセプト(どのような顧客価値を実現するか)
「いかなる言語で書かれ、印刷された本であっても60秒で手元に届けること」(Amazon CEO ジェフ・ベゾスの言葉)
デザイン(どのような物語でコンセプトを実現するか)
中間流通を廃し、高額な印税、低料金での購入を実現するためECサービスと読書のためのデバイスを組み合わせたビジネスのシナリオ、体制づくり、エコシステムなど
ソリューション(デザインを実現するにはどのような手段を使うのか)
Amazon ECサービスの利用、電子書籍フォーマットBOBI(AZW)またはTopaz、eインクを使用した電子デバイスKindle
これをセットとして作ることが、ビジネス開発です。しかし、現実にはソリューションにのみ関心が向いてしまっているプロジェクトを見かけることも少なくありません。
「クラウドで事業を立ち上げる」
「ビッグデータで新規事業を実現する」
「モバイルビジネスを次の事業の柱にする」
こんな言葉をよく聞くのですが、
「なんのために、何に使うのか=コンセプトがはっきりしない」
「収益を上げるビジネスモデル、対象とするマーケットやユーザーのペルソナ、パートナーとの連携や体制、実現のためのマイルストーンの設定=デザインが描かれていない」
といったことが少なからずあります。それなのに、
「どんなテクノロジーがいいのか」
「他社はどんな製品を使っているのか」
「どれくらいの投資が必要なのか」
といったソリューションの検討だけが先行し、どのような顧客価値をもたらすのかと言った「コンセプト」や、そのコンセプトを実現するためのシナリオである「デザイン」が十分に議論されていないとすれば、うまくいくはずなどありません。
「クラウドで3年以内に10億円のビジネスを実現する」といった顧客価値の実現とは無関係のコンセプト(?)を打ち立て、そこに至る筋道や体制、市場などを組み合わせた成功の物語であるデザインを描かないままに、ソリューションだけを検討している。そんな現場にしばしば遭遇します。
数年前、中国の地方都市の郊外に巨大な住宅団地が続々と建設されたそうですがその多くが廃墟と化しているそうです。そこには、学校や病院、その他の公共施設をあわせて建設されることはありませんでした。その理由を建設業者に訊くと、そんなものを作っても買ってくれる人などいないからだそうです。そんなところに人は住みたいと思うでしょうか。
- 顧客価値=コンセプト
- 全体計画=デザイン
- 実現手段=ソリューション
手段であるひとつひとつのテクノロジー要素がどんなに優れていても、プロセスの断片が正しくても、コンセプトも曖昧でデザインがないビジネスはうまくゆきません。そして、「デザイン」は美しく無ければなりません。それは合理性の反映でもあります。そんな美しいデザインを描くことが新規事業のプロジェクト責任者の役割です。つまり「ビジネス・デザイナー」でなければならないことをしっかり意識しておく必要があります。
「クラウドで新規事業を立ち上げる」といったソリューションの宣言ではなく、「お客様に新たな価値、魅力的な価値を提供できる新規事業を立ち上げる」ためのコンセプトをまずは考えるべきです。ソリューションを使うことが目的ではないのです。そして、顧客価値を実現するためのデザインがないままに目的を達成できないことを自覚しなければなりません。
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