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ポストSIビジネス:新規事業を「新結合」で考える

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ポストSIビジネスを考える上で、新しいテクノロジーは必ずしも前提ではない。昨日紹介した新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)のNsxpressIIのように、文書管理のクラウド・サービスと入力や原本管理と言った人的作業を組み合わせた「システムを使うサービス」もひとつの選択肢になるだろう。

また、ITインフラも、全ての企業がパブリックに移行することは考えにくい。それは、理論上の合理性からではなく、社内規約やコンプライアンス上の不安と言った理由もあり、自社の専用システムを物理的・地理的に特定できるところに置きたいというニーズは当面残るだろう。ただ、その構築や運用、資産として保有するということは極力避けたいわけで、インフラ設備、その構築と運用をフルアウトソーシングするニーズも高まるだろう。

また、日常の業務はパブリック・クラウドで稼働させるが、バックアップやアーカイブを物理的・地理的に特定でき、すぐに行ける場所に置いておきたいというニーズも、増えるだろう。交通至便な場所にある地方データセンターのビジネス・チャンスはこんなところにあるかも知れない。

こんなケースもある。「JINS PC」をご存知の方は多いと思うが、発売から2年で、販売累計本数300万本を突破したパソコン用メガネだ。このビジネスの成功は、市場を再定義したことにある。

これまで、メガネの需要は、「目の悪い人」に限られていた。この常識を打ち破り、「目の健康な人」、すなわち「PCを使う全ての人」に、市場を定義し直した。必ずしも、最先端のテクノロジーが使われているわけではない。しかし、既存のノウハウやテクノロジーをうまく使い、新たに定義しなおしたメガネ市場でのビジネスを考えたことが、この成功の理由だ。

また、ソニーがかつて、「ラジオは家に居間に置いて使うもの」から、「屋外へ持ち出して使うもの」へと、ラジオ市場を定義し直したことが、トランジスター・ラジオの成功につながりソニー発展の礎を築いた。

Sony_TR52_Radio.jpg

このようにテクノロジー・イノベーションではなく、市場を新たに再定義し、ニーズに応えるというビジネス・イノベーションのアプローチは、新規事業を考える上で、参考になるだろう。

「イノベーション」という言葉は、我が国では「技術革新」と訳されるが、本来の意味をたどれば、「新結合」という言葉にたどり着く。20世紀前半に活躍した経済学者シュンペーターの言葉だが、彼は、産業革命を支えたイノベーションのひとつである「鉄道」を例えに、この意味について語っている。

「馬車を何台つなげても汽車にはならない」。

つまり、「鉄道」がもたらしたイノベーションとは、馬車の馬力をより強力な蒸気機関に置き換え多数の貨車や客車をつなぐという「新結合」がもたらしたものだという解釈だ。

鉄道が生まれる以前に、既に蒸気機関は発明されていた。これに旧来からある馬車の "テクノロジー"を組み合わせたことで、汽車が生まれ鉄道というビジネスが生まれた。"新しい技術"=イノベーションではないと彼は言っている。

往々にして、私たちは、イノベーションを「"新しい技術"による革新」と捉えがちだ。しかし、本来の意味に立ち返れば、"新しい技術"そのものが不可欠なのではなく、「"新しい技術"も含め、既存の技術や仕事のやり方などの様々な要素を、これまでとは違う視点で捉え、新しい組合せにより変革を実現すること」と捉えるべきだろう。

ITビジネスに置き換えて考えれば、「これまでの仕事のやり方を、より強力なITという蒸気機関に置き換えて、業務やビジネスの課題を解決するためのテクノロジーと業務プロセスの「新結合」を実現すること」が、イノベーションと言うことになる。

先に紹介したソニーのトランジスター・ラジオは小型で持ち運べることはできたが、音質は悪く居間においてある真空管ラジオのほうが遥かに性能には優れていた。しかし、トランジスターという新しいテクノロジーを昔からあるラジオのテクノロジーと「新結合」させることによって、ビーチや野外で楽しむラジオ、車載ラジオといった新たな市場を開いたことが成功につながった。これは、あたらしいテクノロジーそのものの存在だけでは成り立たなかっただろう。従来からの常識と新たな「何か」を「新結合」したからこそ生まれたイノベーションだ。新規事業をこのような視点で考えてみてはどうだろう。新しい技術を追いかけるだけではなく、足下を見据えながら新しいテクノロジーにも目を向けるという現実的な視点だ。

ただ、「ポストSIビジネス:新規事業がうまくいかない理由と3つの対策」でも申し上げたが、本業を背負ったボランティア活動で新規事業などうまくゆくはずはない。しっかりとした覚悟と行動が必要であることは言うまでもない。

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