「時代遅れ」の需要が一巡したとき、自分達に何が残されているか
「会社の資産が工場のラインや製品そのものといった「目に見える」ものではなく、主に直接目に見えない知的資産、例えば特定技術に関する知識やスキル、あるいは会社としての方法論やノウハウ、サービスや人的なネットワークです。この点はむしろ一般の企業よりも「厄介」です。なぜなら、そのような知的資産が「時代遅れ」になっていることに、目に見えるものに比べて気が付きにくいからです。(ITpro:『「クラウド化」は組織と人を変える』)」
いまSI事業者が直面している事態の本質を見事に言い当てている。さらに言えば、「時代遅れ」になっていることに目や耳をふさいでいるのではないかと、思うことさえある。
SI事業者は、開発需要が高まる中、人手が足りない状況が続いている。金融企業をお客様に持つあるSI事業者は、「ブラックホール」に人が吸い込まれてゆくようで、人がいくらいても足りないという。そんな中では、「時代遅れ」などどうでもいい話で、まずは目先のビジネスに目を向け、変革は先送りされる。いや、変革という言葉さえ、意識にはのぼらないほどに忙しいのかもしれない。
しかし、その需要の多くは「時代遅れ」の需要であり、ITの大きなパラダイムからは、一線を画した従来型の方法論やスキルを前提としていることを忘れてはいけない。クラウドやアジャイル、IoTや機械学習など、そういう言葉がどこにも見当たらない。しっかりと作られた要件定義書をWBSに分解し、その進捗率を達成することが、仕事となっている。そういう仕事が将来にわたって需要を支え続けるのだろうか。
「時代遅れ」の需要が一巡したとき、時代は今以上にすすんでいることに気付いても、キッチアップは、ますます大変になっているだろう。
だからこそ、経営者は、キャッシュフローが回るうちに、次に向けたビジネスのデザインに経営資源を投入すべきだ。あえて、「経営資源」と申し上げたのは、組織内の人材や価値観をそのままに、次に向けたビジネスは描けないからだ。新しい会社を作る、あるいは、他企業との提携を模索するなども含めた、本質的な価値体系の転換を図らなければ難しいからだ。
例えば、売上高1000億円、営業利益50億円の企業が、売上高100億円、営業利益50億円の企業になることは容易なことではないからだ。
今の事業がうまくいっている理由は、既存の事業需要に最適化された人材や価値観を作り上げてきたからに他ならない。しかし、収益構造が変わり、ビジネス・サイクルが変わり、顧客が変わるとき、既存の人材や仕事のやり方が、足かせになる。例え変化のスピードが速いとは言え、既存事業を瞬時に置き換えることは無理なわけで、そこでの一定期間の共存を図らなければならないとすれば、人材やスキル、価値体系が異なる独立した別組織を作り、そこに一定の経営資源を投下しなければ、新規事業への転換を実現することは難しいだろう。
同じ人材に、従来通りの事業責任を与えつつ、一方で新規事業開発プロジェクトをやらせても、それは既存の仕事にとってオーバーヘッドになるだけであり、気の重い放課後のクラブ活動であって、期待する結果を求めることはできない。
まずは「時代遅れ」であることに真摯に向き合うことではないのだろうか。そして、どこにむかうべきかを明らかにすることだろう。
「いま何ができるか」にこだわってはいけない。それは「時代遅れ」であることが多い。そうではなくて、「いま何をすべきか」を考え、今とのギャップをどう埋めるかの物語を描くことなのだろう。それが事業戦略となる。
こういうことを申し上げると、「簡単なことではない」と反論される方もいるだろう。しかし、「時代遅れ」の需要が一巡したとき、今のままの事業資産で、新しい需要に応えることの方が、もっと「簡単なことではない」と思うのだが、それは思い過ごしだろうか。
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