モバイルの顧客満足度が今後のイーコマースサイトになぜ重要なのか
2012年は、昨年以上にモバイルが注目を集めることになりそうだ。米国の2012年のトレンド予測でも、モバイルは必ず顔を出している。スマートフォンとタブレットを中心に、モバイルの勢いはここ当分衰えそうもない。
これはオンライン小売り事業者のイーコマースサイトでも同じである。米国のリサーチ会社ForeSeeが公開したレポート「MOBILE SATISFACTION: APPLE AND AMAZON EXCEL FORESEE MOBILE RESEARCH(U.S. HOLIDAY 2011)」によれば、モバイル対応で高い顧客満足度を買い物客に与えられないイーコマースサイトは、今後勝ち残ることができないとのこと。モバイルは、オンライン小売事業者の成否を左右する存在になろうとしている。
※ ForeSeeの「MOBILE SATISFACTION:APPLE AND AMAZON EXCEL FORESEE MOBILE RESEARCH(U.S. HOLIDAY 2011)」は以下からダウンロード可能。
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⇒ MOBILE SATISFACTION:APPLE AND AMAZON EXCEL FORESEE MOBILE RESEARCH(U.S. HOLIDAY 2011)
1. サマリー
① アップルとアマゾンが他に大差をつけて1位と2位に輝く
100ポイント満点中アップルが85ポイントで第1位、アマゾンが第2位。3位以降は大差がついて、デルが78ポイントで第3位。
② 買い物客はモバイルサイトやアプリよりもウェブサイトに満足度が高い
小売り事業者のイーコマースサイトは、モバイルよりもウェブサイトに高い顧客満足度を得やすい。平均顧客満足度評価ポイントで、ウェブサイトの平均は79ポイントでモバイルサイトの平均は76ポイント。
③ 買い物客はウェブサイトの閲覧に以前よりもモバイルを利用している
オンラインで買い物をする人の38%が、モバイルを利用して小売り事業者のウェブサイトにアクセスしている。昨年から33%とかなりのアップ。さらに、25%が将来モバイルを利用して小売り事業者のウェブサイトにアクセスするだろうと答えている。
④ 消費者は、買い物する際に必要な様々な手続きにモバイルを使用している
オンラインで買い物をする人の34%が、商品を調べるのにモバイルを使用している。さらに、15%はモバイルから直接商品を購入、昨年から11%アップ。
⑤ モバイルコマースは競合製品を比較する機会を与えるとともに促進する
オンラインで買い物をする人の5人に1人が、店で買い物をしている最中に価格や商品の比較にモバイルを使っている。
⑥ 買い物客は競合する小売り事業者のウェブサイトの閲覧にモバイルを利用している
リアルな店舗にいる間、オンラインで買い物をする人の3人に1人以上(36%)が店舗のウェブサイトやアプリのアクセスにモバイルを使用している。さらに、4人に1人近く(24%)が競合店のウェブサイトやモバイルサイトのアクセスにモバイルを使用している。
⑦ モバイルサイトやアプリの利用で得られる良い買い物体験は、決定的なクロスチャネル効果を生む
モバイルの利用で高い満足度を感じた買い物客の54%は、似たような商品の購入に次回も同じ小売り事業者のウェブサイトを利用しがちである。そして、小売り事業者のモバイルサイトで再び購入する確率が2倍も高い。
2. イーコマースサイトのモバイル対応顧客満足度評価
下の表は、イーコマースサイトのモバイル対応顧客満足度評価で70ポイント以上を獲得したオンライン小売り事業者のイーコマースサイトTOP16のランキングである。右にはウェブ(PC)対応の顧客満足度評価ポイントも表示し、簡単に比較できるようになっている。このモバイルとウェブの両方の評価ポイントを比べてみて、非常に興味深い事実がわかった。ウェブ対応よりもモバイル対応の顧客満足度評価ポイントが高いイーコマースサイトは、アップルのアップルストアドットコム1つだけで、他は全てモバイル対応の顧客満足度評価ポイントがウェブを下回っていた。
この数字だけを見れば、買い物客のイーコマースサイトへの顧客満足度は、モバイルよりもウェブが高い。また、イーコマースサイトを運営するオンライン小売り事業者にとっては、ウェブよりもモバイル対応が顧客満足度を得るのが難しいと考えられる。
ランキング上位は、第1位が85ポイントのアップル、第2位が84ポイントのアマゾンだった。また、ウェブの顧客満足度評価では、アップルが83ポイントで2位、アマゾンが88ポイントで1位となり、両者はモバイルとウェブの両方で80ポイント以上を獲得している。3位にはデルが入っているが、2位のアマゾンとは6ポイントも差が開いている。特に目立つのが、ウェブの顧客満足度評価で15もあった80ポイント以上を獲得したイーコマースサイトが、モバイルではたった2つしかないこと。いかにアップルとアマゾンが、突出した高い顧客満足度を買い物客に与えているかがわかる。
上のキャプチャー画面は、アップルストアとアマゾンのPCとスマートフォンアプリの画面である。アップルもアマゾンも、PCとタブレットからのアクセスにはPC用の画面を出力し、スマートフォンからのアクセスにはアプリを提供している。唯一の違いは、アマゾンがスマートフォンからのアクセスにアプリとモバイル用サイトのどちらかを選べるようにしているくらいのものだ。
それ以外のモバイル対応の機能は、アップルもアマゾンもほとんど変わらない。では、アップルとアマゾンだけが、なぜ飛びぬけた顧客満足度を獲得できたのだろうか。答えは実際に使ってみればすぐにわかるのだが、アップルとアマゾンのスマートフォン用アプリは、他のショッピングサイトに比べて使いやすいからである。PC用のショッピングサイトで買い物をするのとほぼ同じ操作性を、同じようにアプリでも実現している。
アップルとアマゾンのスマートフォン用アプリは、探している商品、商品の特徴・機能、カスタマレビューが非常に探しやすくできており、アプリを使って買い物をしてもストレスを全く感じない。PCと変わらないショッピング体験をアプリでも体験できるのが、高い顧客満足度につながっていると考えられる。
スマートフォン用アプリの操作性が顧客満足度に大きな影響を与えているのは、今回の調査結果でも明らかである。もう一度最初に紹介した表「モバイル対応における顧客満足度の高いイーコマースサイトTOP16」を見てもらいたいのだが、モバイルとウェブとで顧客満足度にかなりの開きがあるイーコマースサイトが2つある。ギャップの大きい第1位がエイボンで8ポイント差、第2位がウォールマートで7ポイント差もある。
ギャップの大きさは、ウェブでできているサービスがモバイルではできていないからだ。実際にスマートフォンでエイボンとウォールマートのイーコマースサイトにアクセスしてみればわかるのだが、どちらもスマートフォン用のアプリを提供していない。ウォールマートはまだモバイル専用サイトを用意いているので良いとしても、エイボンはモバイル専用サイトさえ用意しておらず、PC用のウェブサイトにアクセスしてショッピングをしなければならない。実際に利用してみるとわかるが、PCと同じ操作性は非常に不便である。
3. モバイルへの高い顧客満足度がもたらす効果
■ モバイルへの高い顧客満足度は高いリピート率をもたらす
モバイルの利用者の利便性を考えていないイーコマースサイトは顧客満足度が低くなる。では、モバイル対応の顧客満足度がなぜ重要なのだろうか。それは、下の表「顧客満足度の高いイーコマースサイトが将来の購入に及ぼす影響度合」を見れば一目瞭然である。「将来もモバイルで購入したい」「将来は他の方法(ウェブ、店など)で購入したい」の2つの質問の回答率を集計したところ、モバイルの顧客満足度が高いイーコマースサイトは、「将来もモバイルで購入したい」「将来は他の方法(ウェブ、店など)で購入したい」のどちらにも影響度合が高い。モバイルへの顧客満足度が高いイーコマースサイトは、あらゆる面でリピート率が高い。
■ オンラインで買い物をする人はモバイルの利用に抵抗が少ない
オンラインで買い物をする人の38%が、小売り事業者のイーコマースサイト、モバイル専用サイト、アプリへのアクセスにモバイルを使っている。また、同じく25%の人が将来使いたいと回答している。以上の結果から、オンラインで買い物をする人はモバイルの利用に抵抗が少ないことがわかる
■ オンラインで買い物をする人のモバイルの利用方法は多様
2011年のホリデーシーズン期間中に、モバイルを利用してイーコマースサイトで商品を購入した買い物客は15%だった。ウェブサイトで商品を調べるのにモバイルを利用した買い物客が34%、リアルな店舗で買い物の最中に商品や価格を比較するのにモバイルを利用した買い物客が19%と、オンラインで買い物をする人のモバイルの利用方法は多様である。
■ モバイル利用者のモバイル専用サイトとアプリの利用方法は多様
モバイル利用者のモバイル専用サイトとアプリの利用方法も多様だ。最も多いのが、購入を検討している商品の価格を見るで47%、次が違う商品との比較で34%だった。モバイル利用者が、商品の調査にオンライン小売り事業者が開発したモバイル専用サイトとアプリを利用しているのがよくわかる。
4. まとめ:モバイルを制するオンライン小売り事業者がイーコマースを制する
オンライン小売り事業者にとって、今後モバイルはますます重要になる。モバイル対応で高い顧客満足度を得られないイーコマースサイトに成長の余地は残されていない。
最後に、今後のモバイルの可能性を示唆するイーベイのエピソードを紹介する。イーベイは、今回のランキングで77ポイントを獲得して4位グループに入っている。しかし、それ以上に注目したいのは、「将来もモバイルで購入したい」でアップルに並ぶ80ポイントを獲得していること。
つい最近イーベイは、2012年の予測として、モバイルの売上金額が80億ドル、モバイルの決済金額が70億ドルになると予測している。さらにイーベイによれば、2011年はモバイルの売上金額が50億ドルで決済金額は40億ドルだったという。また、モバイルの決済は、ペイパルの利用が予想よりもかなり多かったらしい。
イーベイは、モバイルの売上と決済が急速に伸びている要因を、消費者が、いつでも好きな時に好きな場所で利用できるモバイルの利便性から離れられなくなっているからだと分析している。また、モバイルとペイパルを購入・決済の方法に選択するユーザが今後も増え続けるだろうと予測している。
米国の大手オンライン小売り事業者のほとんどがショッピング用のアプリを提供しているが、買い物客の利便性を考えればモバイル専用サイトも提供しておくべきだろう。イーベイの数字が示すように、モバイルを制するオンライン小売り事業者がイーコマースを制する時代が間違いなく到来しつつある。今からでも遅くないし、むしろ今こそ対応するべき時なのかもしれない。