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ケーススタディ:シアーズとメイシーズ百貨店のモバイル戦略に関するまとめ

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2012年は、モバイルビデオを含んだ広い意味でのモバイル戦略が、ソーシャル以上のインパクトを与えるのではないかと考えている。ソーシャルもコマースも、モバイルへの対応をなくして成功を得るのは難しいと考えられるからだ。

ソーシャルメディアに関する米国の最新情報が手に入ることで人気があるSimply Zestyの1月22日(米国時間)付けのブログに興味深いタイトルの記事が掲載されている。要約すると、3年前にスタートしたSimply Zestyが、もしもいま会社をスタートするとしたら、100%モバイルにフォーカスするだろうという内容で、モバイルの可能性について述べている。

⇒ Why The Next Breed Of Agencies Should Be 100% Mobile Plays

モバイルが2012年にブレイクするだろうという数字をベースにしたレポートは数多く報告されているので、今回はモバイル戦略を実行して成功を得た具体的なケーススタディを2つ紹介したい。


【1】 シアーズとメイシーズについて

米国を代表する小売業のシアーズとメイシーズについては、日本人でも名前くらいは知っているのではないだろうか。どちらも米国を代表するリアルな店舗を構える小売事業者だが、その歴史や業態にはかなりの違いがある。

お互い歴史のある米国を代表する小売事業者でありながら、現在の業態や客層にはかなりの差があり、比較対象としてはかなり面白いのではないかと考えた。

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では、シアーズとメイシーズそれぞれのモバイル戦略の共通点と違いはどこにあるのだろうか。2社が実際に実行した具体的な戦略を分析することで、それが明らかになるはずだ。尚、ここでモバイルという言葉を使う時は、スマートフォンやタブレットを含んだ広い意味の総称であることを断わっておく。


【2】 シアーズのモバイル戦略


■ モバイル専用サイトとアプリの両方を提供

シアーズでは、スマートフォンを所有している顧客の10人中7人が、スマートフォンを買い物やブラウジングに利用しており、モバイルは売上を増やすための重要な戦略の1つになっているという。そのために、シアーズはモバイル専用サイトとアプリの両方を提供し、どちらからも商品の注文・購入ができるようにしている。

⇒ シアーズのショッピングサイト 

  ※ スマートフォンでアクセスするとモバイル専用サイトが立ち上がる。

  ※ アプリは無料でアプリ購入サイトでダウンロードできる。

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シアーズは、モバイルを、消費者が買い物をするための便利なツールとして提供しているだけではない。消費者がモバイルを使って、どこにいても、いつでも買い物ができる環境を提供する意外に、QRコードから探している情報がすぐに見つけられる機能も提供している。これによって、シアーズを利用する顧客にとって、アプリは必要な情報をいち早く入手するための貴重なツールにもなっている。

また、シアーズはソーシャルへの対応も進めており、いち早くアプリをローンチしている。シアーズによれば、アプリは顧客とのエンゲージメントに効果があるという。そして、モバイルはソーシャルメディア、顧客、ブランドの3つを統合するために必要だとのことだ。

 ※ アプリの活用方法

   ① 商品の注文と購入ができる

   ② 最新の情報が収集できる

   ③ ソーシャルで情報の共有とエンゲージメントができる


■ リアルな店舗でモバイルを活用

シアーズのモバイル戦略の特徴は、ウェブだけではなく、リアルな店舗にまで展開している点だ。

シアーズによれば、消費者というのは、ウェブと店舗の両方で最高のサービスを望んでおり、顧客を満足させるためには、常にウェブと店舗の両方に新しい戦略を打ち出す必要があるという。どちらか1つだけでは、十分な結果が得られないということだ。シアーズの言葉を借りれば、モバイルはウェブと店舗の両方にお客を連れて来る接着剤としての役割を果たすという。

その言葉を証明するかのように、シアーズは、ウェブと店舗を融合させた面白いサービスをいくつか展開している。

① モバイルから商品の受け渡し方法が選べる

シアーズは、モバイル専用サイトとアプリの両方から商品を注文・購入できるようにしているが、その際、購入した商品を自宅に届けてもらうか店舗まで取りに行くかを選べるようにしている。

また、店舗で商品を購入した場合でも、シアーズは約700以上の店舗に指定の駐車場を完備しており、希望すれば商品を駐車場まで届けてくれる。また、もしも消費者が店舗での受け取りを選んだ場合は、商品を受け取ることができる指定の商品受け取りセンターも用意している。

この商品の受け取り方法を選べるというサービスは非常にユニークだ。オンラインショッピングと聞くと、反射的に自宅への配送を思い浮かべてしまうが、店舗がある小売事業者の場合は、店舗での受け渡しを選択する消費者がいたとしても確かに不思議ではない。店舗で商品を受け取ることで、店舗のスタッフと交流したいと考える消費者はたくさんいるに違いない。

② 450店舗にiPadとiPod Tuchを導入

シアーズは、ウェブと店舗を融合させるために、450の店舗にiPadとiPod Touchを導入している。このiPadとiPod Touchは顧客が自由に使うことができて、店舗内の情報、商品の在庫、商品の詳細情報などをタイムリーに得ることができるという

これらの情報の中には、数多くの商品レビューや、商品を説明しているプロダクトビデオなどの有用なコンテンツが数多く含まれており、消費者は店舗にいながらWiFiを経由してウェブの情報にアクセスできるようになっている。

シアーズによれば、この店舗へのiPadとiPod Tuchの導入は、店舗と顧客、顧客同士のコミュニケーションの活性化と、カスタマサービスの向上に効果があるということだ。

店舗にiPadとiPod Tuchを導入して顧客に自由に触らせるというサービスは、今後間違いなく増えてくるだろう。ウェブにある情報は、店舗では知ることができない詳細な情報(特にビデオ)が多く、見たいという買い物客は多いはずだ。納得して買い物を楽しんでもらうためにも、店舗でウェブの情報にアクセスできるサービスは価値があると思われる。


■ まとめ

① モバイル専用サイトとアプリを提供し、直接買い物ができるようにしている

② 顧客にとって、モバイルは買い物と情報収集に欠かせない存在になっている

③ モバイルは、ウェブと店舗を融合させる接着剤の役割を果たしている

  ※ iPadとiPod Touchの店舗への導入


【3】 メイシーズのモバイル戦略


■ 戦略実行の投資をモバイルに大きくシフト

メイシーズによれば、2011年のモバイルによる売上は、前年度よりも70%増えたということだ。また、モバイルは、広告、マーケティング、販売の3つの目的を達成するために重要だという。2011年の実績から、メイシーズは今まで以上にモバイルへの投資を増やすとしており、現在は効果的なモバイル戦略を模索するための、テスト期間として捉えているということだ。

メイシーズも、シアーズ同様非常に使いやすいモバイル専用サイトを消費者に提供している。スマートフォンでウェブサイトのURLにアクセスすれば、自動的にモバイル専用サイトが立ち上がるしくみだ。

⇒ メイシーズのショッピングサイト 

  ※ スマートフォンでアクセスするとモバイル専用サイトが立ち上がる。

  ※ アプリは現時点では用意されていないようだ。

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メイシーズにとって、モバイルは重要な戦略の一部になっており、もしもモバイルに対応していなかったら、数多くの顧客を失っていた上に、数多くの消費者とのエンゲージメントも実現しなかっただろうとしている。また、モバイルは、メイシーズが現在重要視している戦略の根幹をなしているという。

メイシーズが特に力を入れているのが、モバイルを使ったショートメッセージサービス(以後SMSとする)だ。メイシーズによれば、SMSの顧客リストがこの6ヶ月間で2倍に増えたとのことで、近いうちにこのリストを3倍または4倍にすることを目標にしているという。消費者は、SMSを通してセールなどの様々な情報を受け取ることができるため、エンゲージメントに高い効果があるとのことだ。

メイシーズは、現在このSMSの会員を増やすことに力を注いでいるらしく、将来的にはクーポンなどの情報を送りたいと考えているらしい。


■ モバイルの再ローンチ

メイシーズは、2011年11月に、消費者にもっとユーザフレンドリーなサービスを提供したいという理由で、モバイル専用サイトを再ローンチした。メイシーズによれば、このモバイル専用サイトは自社で開発したものらしい。この再ローンチによって、メイシーズのモバイル専用サイトは、消費者が簡単に買い物ができる使い勝手の良いサービスに生まれ変わったという。

また、メイシーズは、2001年の春にモバイルと店舗を融合させたユニークなキャンペーンをローンチしている。顧客にQRコードを印刷したバックステージ・パス(通行証)を配り、QRコードから最新の春物ファッションの情報にアクセスできるようにしたり、お気に入りのデザイナーのビデオを視聴できるようにしたのである。

※ジェシカ・シンプソン、トミーヒルフィガー、ボビー・ブラウンなどのデザイナー

このキャンペーンでは、ボビー・ブランの、スモーキーアイのメイクアップチュートリアルビデオのQRコードが最も数多くダウンロードされたらしい。そして、このバックステージ・パスは、買い物客がSMSとQRコードから簡単に取得できるようになっていて、ここでもSMSとQRコードが活用されている。

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⇒ メイシーズのバックステージ・パスの使い方を説明したビデオ


また、メイシーズは、消費者が店内に入ったと同時にポイントがたまるキックバックのサービスも2年前に導入しており、モバイルと店舗を融合させたキャンペーンにはかなり力を入れているのがわかる。


■ まとめ

① モバイル専用サイトを提供し、直接買い物ができるようにしている

② モバイルとSMSを使った顧客とのエンゲージメントに力を入れている

③ モバイルと店舗を融合させたキャンペーンに力を入れている

  ※ バックステージ・パス、キックバック


【4】 今回のまとめ

シアーズとメイシーズに共通している特徴は、両社ともウェブと店舗の融合を重要視しており、そのためにモバイルを活用している点だ。このウェブと店舗の融合は、オンライン専業の小売事業者では見られない特徴であるため、調査していて非常に興味深かった。

モバイルは間違いなくブレイクする。特に店舗を構えている小売事業者にはマストだ。店舗にiPadやiPod Tuchを導入して店舗内からウェブの情報にアクセスさせたり、QRコードとバックステージ・パスを組み合わせたキャンペーンなどは、買い物客の利便性を考えた非常に面白いサービスだといえる。

モバイルはもともと日本が得意だった分野だ。日本でもモバイルを使った面白いサービスやキャンペーンが登場するのを期待したい。

⇒ シアーズ戦略の情報ソース:

  Sears keynote: 2012 will be mobile’s tipping point
  

⇒ メイシーズ戦略の情報ソース

  Macy’s mobile spend up 70pc: FirstLook keynote
  

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