テレビとオンラインビデオの未来に関する考察:テレビとオンラインビデオはこのまま共存し続けることができるのだろうか
ニールセンが、「State of the Media:Trends in TV Viewing - 2011 TV Upfronts」というタイトルの、アメリカ人を対象としたテレビとオンラインビデオの視聴時間に関する動向をまとめた非常に興味深いレポートを公開している。このレポートの数字を見る限りでは、テレビとオンラインビデオは共存することに成功しており、両者は蜜月関係にあると言っていいだろう。
しかし、この蜜月関係は2012年以降も永遠に続くものなのだろうか。レポートの数字を注意深く分析して行くと、そうは言い切れないことに気がつく。では、テレビとオンラインビデオの未来は一体どうなるのだろうか。
■ 2011年のテレビの視聴時間に関する調査結果
ニールセンのレポートによれば、アメリカ人のテレビの視聴時間は、減るどころか未だに上昇し続けているという。2010年時点の平均的なアメリカ人の1日あたりのテレビ視聴時間は4.95時間。これが2011年には5.11時間と、微増ではあるもののいまだに上昇している。そして、このテレビの視聴時間がいまだに増え続けているという事実にかなり驚かされた。なぜなら、オンラインビデオに押され、テレビの視聴時間はてっきり減少しているものと勝手に思い込んでいたからである。
<Point>
● 2011年のアメリカ人が1日にテレビを視聴する時間は平均5.11時間
※ 2010年の4.95時間から微増ではあるもの上昇
補足させてもらうと、ここでいうテレビの視聴時間とは、あくまでもテレビ局が放送する番組をリアルタイムで視聴することを指す。ハードディスクレコーダーやメディアになどに録画して後から視聴する場合は、次に取り上げるタイムシフトテレビに含まれるので注意してほしい。
次に年齢層別の視聴時間データを見てみたい。年齢層別のデータについては、ニールセンが1週間当たりの数字を公開している。まず、全視聴者の1週間の平均視聴時間は36時間17分となっている。そして、最もテレビの視聴時間の多い年齢層は65歳以上で、1週間に47時間33分もテレビを視聴しているという結果が出ている。
逆に、最もテレビの視聴時間が少ないのは12〜17歳の若年層で、1週間当たりのテレビ視聴時間は23時間41分と、65歳以上の視聴時間の約半分。年齢が高いほどテレビを視聴する時間が増え、年齢が低いほどテレビの視聴時間が少なくなるという、極端な結果が数字上では出ている。
<Point>
① 全視聴者の1週間当たりのテレビ平均視聴時間は36時間17分
② 最も視聴時間の多い年齢層は65歳以上で47時間を33分
③ 最も視聴時間の少ない年齢層は12〜17歳で23時間41分
■ 2011年のタイムシフトテレビの視聴時間に関する調査結果
前述した通り、タイムシフトテレビとは、リアルタイムではなく、ハードディスクレコーダーやDVDなどのメディアに録画し、後からテレビ番組を視聴する利用方法のことを言う。2010年4Q時点のアメリカ人のタイムシフトテレビを1週間に視聴する平均時間は2時間21分だった。
<Point>
● 全視聴者の1週間当たりのタイムシフトテレビ平均視聴時間は2時間21分
リアルタイムでテレビを視聴する平均時間が36時間17分だったことを考えれば、タイムシフトテレビの視聴時間が極端に少ないことがわかる。次に、テレビと同じように年齢層別のデータを見てみたい。
シフトテレビの視聴時間が最も多い年齢層は35〜49歳で、1週間に3時間8分視聴している。また、同じように最も少ない年齢層は、テレビ同様12〜17歳となっており、1週間に1時間31分しか視聴していない。また、18〜24歳の次に若い世代も1週間に1時間32分しか視聴しておらず、ほとんど差がない結果となっている。
<Point>
① 最も視聴時間の多い年齢層は35〜49歳で3時間8分
② 最も視聴時間の少ない年齢層は12〜17歳で1時間31分
また、2011年のデータによれば、米国の家庭の38%がDVR装置を持っているとのことで、タイムシフトテレビを視聴するユーザは微増ではあるものの確実に増えてきていると言えるだろう。
■ オンラインビデオの視聴時間に関する調査結果
最後に、オンラインビデオに関する調査結果について紹介したい。comScoreの調査結果によれば、2010年末時点の1ヶ月間のオンラインビデオの平均視聴時間は14時間。これが、2011年には50%増の21時間と急激な伸びを見せている。また、ニールセンによれば、2011年1月時点で、約1億4千4百万人のアメリカ人がオンラインビデオを視聴しており、1週間平均にして4時間39分もの時間をオンラインビデオの視聴に使っているとのことだ。
<Point>
① 2011年の1ヶ月間当たりのオンラインビデオ視聴時間は21時間
※ 対前年比50%増
② 2011年1月時点で約1億4千4百万人のアメリカ人がオンラインビデオを視聴
ここで注目したいのは、オンラインビデオ視聴時間の伸び率である。視聴時間だけで比較すれば、テレビの1週間の平均視聴時間が36時間17分であるのに対し、オンラインビデオは4時間39分とまだまだ足元にも及ばないのが現実だ。しかし、テレビの視聴時間が前年度に比べて微増であるのに対し、オンラインビデオの視聴時間が前年度より50%も増えている点に注目したい。
ここでもモバイルの勢いは凄まじく、2010年4Q時点でモバイルフォンを所有している約3億人のアメリカ人ユーザのうち、約2千5百万人の会員がモバイルビデオを視聴しており、対前年比で見ても41%の伸びを示している。ここでも最もヘビーな年齢層は12〜17歳で、モバイルビデオの月間平均視聴時間は7時間13分と、全体平均の視聴時間4時間20分を大幅に上回っている。
■ テレビとオンラインビデオの未来について
今回まとめたテレビとオンラインビデオの視聴時間に関する調査結果を、自分自身と身の回りに当てはめて考えてみることにした。
まず、アメリカ人の1週間当たりの平均テレビ視聴時間である36時間17分について。私の場合、平日は朝も夜もほとんどニュース番組を30分程度見るくらいのものである。夜は、帰りが遅いとそのまますぐに寝てしまうことも多いことから、全くテレビを見ないで終わるということも珍しくない。
そうなると、結局休日にテレビの視聴時間を稼ぐしかないわけだが、いくら休日と言っても、せいぜい土日合わせて10時間も見れば多い方である。よって、私の1週間のテレビ視聴時間は、最も視聴時間の少ない年齢層である12〜17歳の23時間41分に限りなく近いということになる。
逆に、オンラインビデオの視聴時間は仕事がらどうしても多くなる。この数字も、最もヘビーな年齢層である12〜17歳のモバイルビデオの平均視聴時間7時間13分に限りなく近いと言っていいだろう。そして私の場合も、PCよりもiPhoneとiPadといったモバイルでビデオを視聴することが断然多い。
調査結果にある、12〜17歳の若い世代がテレビには見向きもしないで、モバイルを使ってオンラインビデオを見ることに夢中になっている点に注目しなければならない。テレビ局は、若い世代がいずれはテレビに戻ってくるだろうと思っているかも知れないが、そんな甘い考えは捨てた方がいい。
私の中学1年になる娘を見ていると、テレビは見ていても、既存の放送局が提供している番組はほとんどと言っていいくらい見る機会がない。テレビ装置で、ケーブルテレビの番組やオンラインビデオを見ているのである。つまり、今のティーンエイジャーにとって、テレビ局が放送する番組は全く魅力がないということになる。
ここ数年で、極端に減ることはないにしても、テレビの視聴時間は間違いなく横ばいになって増えることはなくなる。そして、それはとても重要なことを意味している。今のティーンエイジャーたちが大人になった時、テレビよりもオンラインビデオの方が広告価値が高くなっている可能性があるからだ。
「今回は予算がないので、オンラインビデオはやめてテレビに広告を出そう」。そんな時代が、そう遠くない将来に実現しそうな気がしてならない。