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米国企業の2012年度広告予算の32%がテレビからオンラインビデオにシフトするというレポートから、企業がオンラインビデオ広告を好む理由について考えてみた

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米国のマーケティングコンサルティング会社BREAK MEDIAが発表した「Digital Video Advertising Trends」によれば、米国では、企業の広告予算がテレビからオンラインビデオに急速にシフトしているという。そこで今回は、企業が2012年度に計画しているオンラインビデオ広告予算に関するレポートを紹介すると伴に、企業がテレビよりもオンラインビデオ広告を好む理由について考えてみたいと思う。


■ 予想以上のスピードで加速しているオンラインビデオ広告費

米国における企業のオンラインビデオ広告費が、予測をはるかに上回る勢いで伸びている。今年1年間の実績で見ると、広告主である企業のほぼ3分の2が、当初の計画以上の広告予算をオンラインビデオ広告に費やしているという。この影響を受けて、2012年は68%の企業が、オンラインディスプレイ広告予算におけるオンラインビデオ広告の割合を増やすだろうと予測している。

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産業別で見ると、家庭用家具、IT関連(特にB2B)、アルコール飲料、女性衣料などが、他の産業よりもオンラインビデオ広告に予算を集中させるだろうとも予測している。興味深いのは、その広告予算を何処から捻出してくるかだ。レポートによれば、オンラインディスプレイ広告予算におけるオンラインビデオの割合が27%から35%に増えるのはもちろん、広告予算全体におけるオンラインビデオの割合も38%に増える上、32%がテレビからオンラインビデオに広告予算をシフトするだろうとしている。

つまり、今年1年間の企業の実績を判断して、2012年は32%の企業がテレビからオンラインビデオに広告予算を大きくシフトするだろうと見ているわけだが、この数字は、企業がオンラインビデオ広告の価値を認めていることを示唆している。また、広告価値という視点から見た場合の、テレビ時代の完全な終焉を告げることを意味していると考えていいだろう。

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では、どんな出稿方法がオンラインビデオ広告を出稿する手段として人気が高いのだろうか。レポートによれば、モバイルやバナー広告などが伸びているものの、相変わらず人気が高いのはプレロールだという。31%の企業がプレロールによるオンラインビデオ広告の出稿を好んでおり、2012年の広告予算においても63%の企業がプレロールを計画しているとのことだ。

日本では、有料のビデオストリーミング配信サービスの市場がまだ確立していないことから、プレロールの人気が高いことに首を傾げる方が多いかもしれない。米国では、NetflixやHuluを始めとした有料のビデオストリーミング配信サービスを利用するユーザが多いこともあって、プレロール広告に対する関心が高い。

日本でも、今年サービスを開始したHuluに続き、Netflixやアマゾンなどが参入することで、有料ビデオストリーミング配信サービスの市場がある程度広がってくれば、プレロール広告に対する関心も高くなってくるだろう。

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■ テレビよりもオンラインビデオ広告が企業に好まれる理由

では、一体なぜこれ程までに企業はオンラインビデオ広告を評価するのだろうか。良く言われる、オンラインビデオはテレビと違って広告の測定効果が可能だからという意見があるが、これもどこまで本当なのか怪しい。なぜなら、オンラインビデオ広告は、どちらかと言えばそれ単独で展開することは少なく、他のメディアと複合的に展開することが多いからだ。よって、オンラインビデオだけの広告効果を測定することは、言われているほど容易ではない。

そこで、もっと別の角度から、テレビ広告との比較をベースにオンラインビデオ広告が企業に好まれる理由について考えてみた。

① クリエイティブの自由度が高い

オンラインビデオとテレビを比較した場合、クリエイティブに関する自由度が大きく違う。テレビの場合は、30秒といった放映時間の問題に始まり、様々な制約がクエイティブの妨げとなるケースが多い。しかし、オンラインビデオの場合は、テレビのような制約がほとんどなくクエイティブに関する自由度が高い。

このことは、米国で最近人気を集めているオンラインビデオ広告を見ても明らかだ。米国で最近視聴回数やシェア回数の多いオンラインビデオ広告は、広告という名称がついているものの、内容自体は広告ではなくコンテンツであるものが多い。オンラインビデオ広告の場合、テレビで放映するCMのように、ことさら自社の商品名、効果、価格をアピールするのではなく、コンテンツの面白さを消費者にアピールするのが一般的である。

広告の次元を超えたコンテンツを提供できる点が、オンラインビデオが持つ魅力の一つとなっている。この自由度の高いクリエイティブ性に、企業は魅力を感じ始めている。

② ディストリビューションの選択肢が豊富である

テレビに出稿する広告は、当たり前のことだがテレビにしかディストリビューションすることができない。しかし、オンラインビデオの場合は、そのディストリビューションの選択肢が豊富だ。

最近のオンラインビデオを使った広告キャンペーンは、キャンペーン用のウェブサイト以外に、YouTube、ツイッター、フェイスブックを始めとしたソーシャルメディアにも展開する場合がほとんどである。このディストリビューション先が豊富にあるということは、年齢や職業などに関係なく様々な属性の消費者にリーチできる可能性があるということを意味している。

また、ソーシャルメディアにディストリビューションすることで、オンラインビデオ広告が他のユーザに共有されるという効果も期待できる。テレビとは違ったこのディストリビューションの選択肢の豊富さは、広告を出稿する企業から見ると魅力的に感じるはずである。

③ 視聴できるデバイスの選択肢の豊富さと技術革新のスピード

テレビに出稿する広告は、基本的に家庭のリビングにあるテレビでしか視聴することができない。しかし、オンラインビデオの場合は、視聴するデバイスが豊富にある。数年前はPCで見るのが当たり前だったものが、最近では携帯、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソールなど、その選択肢は多様になってきている。

そして、この視聴できるデバイスの選択肢の広がりは、オンラインビデオ広告を視聴する環境をも大きく変えてしまった。今、オンラインビデオ広告は、オフィスや家庭内のPCで視聴するだけのものから、通勤途中の電車の中や休憩中のカフェの中など、何処にいても視聴できるものになっている。

視聴できるデバイスの選択肢の豊富さに加え、技術革新のスピードがテレビとオンラインビデオでは全く異なる。テレビの場合、ここ最近やっとデジタル化されたとはいえ、その技術革新のスピードはオンラインビデオの世界とは比べもにならないくらい遅い。テレビにはない、オンラインビデオ広告を視聴するデバイスのダイナミックな技術革新のスピードに企業が魅力を感じたとしても何の不思議はない。

そればかりか、インターネットに接続されたセットトップボックス型のコネクテッドテレビや、ソーシャルメディアと連携したソーシャルテレビの出現によって、テレビ装置そのものが、オンラインビデオ広告を視聴するための装置に生まれ変わろうとしている。


■ 今回のまとめ

2012年、装置としてではなく、広告として終焉を迎えるプロローグをテレビは迎えることになる。そして、オンラインビデオ広告は今まで以上に企業にとってなくてばならない存在になる。

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