T-Commerce(タブレットコマース)の衝撃。iPadの平均コンバージョンレートはなんとPCの2倍!
日本のオンライン小売事業者は、スマートフォンよりも先に、タブレットへの対応を急ぐ必要に迫られそうだ。なぜなら、欧米では最近M-Commerce(モバイルコマース)よりもT-Commerce(タブレットコマース)に熱い注目が集まっているからだ。今回は、なぜタブレットコマースにそれほどまで注目が集まっているのか、イギリスのリサーチ会社Affiliate Windowsが発表した、「M-Commerce - The Complete Picture」というタイトルの非常に興味深い調査レポートを参考に、その理由を明らかにしてみたい。
【1】 売上高:iPadがiPhoneを抜いて1位に輝く
下のグラフは、タブレットも含んだモバイルコマース全体の売上高の成長率を表わしている。一見してわかると通り、モバイルコマースの成長はすさまじい。2010年12月の時点では、イーコマース全体の売上高に対してわずか1.5%しかなかったものが、2011年8月時点では5%までになっていることから、急成長を続けていると言っていいだろう。
次に、モバイルコマース全体の売上高に対する、各デバイス別の売上高を見てみたい。下のグラフからもわかる通り、iPhoneとiPadが他のデバイスを大きく引き離していることが良くわかる。但し、iPhoneは2010年12月時点で50%近いシェアが、月を追うごとに下がり続け、2011年8月の時点ではとうとう35%を切るまでに落ち込んでしまっている。一方、iPadは、2011年3月~4月にかけて一度30%まで落ち込むものの、その後再び上昇を続け、2011年8月には35%台までに回復し、始めてiPhoneを抜いて1位に輝いている。
アンドロイド勢は、販売台数ではiPhoneとiPadを上回っているという統計が出ているものの、ショッピングにはまだあまり利用されていないようだ。ただ、緩やかにではあるものの、上昇を続けている点に注目したい。
この統計から、モバイルコマースをリードしてきたのがiOS勢であるということがわかる。そしてもう一つ、タブレットコマースなるものが、この世に間違いなく存在しているということもわかった。今回のレポートでは、タブレット全体のシェアを把握することはできないものの、iPadがタブレット全体のシェアの大部分を占めていることから、現時点ではiPadの売上高がそのままタブレットコマース全体の売上高に限りなく近いと考えて問題ないだろう。
【2】 トラフィック:iPhoneが1位。しかしiPadがiPhoneに急接近中
次にトラフィックを見てみてみたい。下のグラフを見てもらえればわかる通り、モバイルコマース全体のトラフィックは、2011年5月まで2.5%台を下回る状態が続いている。それが6月から突然上昇し、2011年8月には3.5%にまでなる。上のグラフ1と比べてみてほしい。売上高が右肩上がりで伸びているのに対して、トラフィックの方は6月と8月に約0.5%突然上昇しているだけだ。売上高に比べて、トラフィックの方に勢いがないのは明らかだ。
この二つの差が、実は次のコンバージョンにつながる。トラフィックがさほど伸びていないのに、売上高が急成長しているということは、モバイルコマースのコンバージョンレートがそれだけ高いということの証明でもある。よって、トラフィックの上昇率が低いことについては、気にする必要がないと考えていいだろう。
売上高と同じように、モバイルコマース全体のトラフィックに占める、各デバイスごとのシェアを表わしたのが下のグラフだ。ご覧の通り、iPhoneだけが突出していることがわかる。ただ、そのiPhoneも、2010年12月に55%だったシェアが毎月下がり続け、2011年8月には15%ダウンの40%にまで落ち込んでいる。
一方iPadは、2010年12月に20%だったシェアが、2011年8月になっても27%と、それほど増えていない。また、売上高ではiPhoneと一緒に2強を成していたのに、トラフィックではiPhone VS その他となっており、iPadは完全にその他に含まれてしまっている。
もう理解いただけたかと思うが、それだけiPadのコンバージョンレートが他のデバイスに比べて突出しているということだ。そして、ここが今回の記事のハイライトでもある。では、早速問題のコンバージョンを見てみよう。
【3】 コンバージョン:iPadが他のどのデバイスよりも突出している
Affiliate Windowsが発表した「M-Commerce - The Complete Picture」を読んで一番衝撃を受けたのが、このコンバージョンの数字だった。下のグラフを見てほしい。iPadは2010年12月と2011年7月の2回、4%という驚異的なコンバージョンを達成している。売上高とトラフィックは、モバイルコマース全体に占めるシェア率しかわからなかったのだが、コンバージョンレートは、PCも含めたイーコマース全体に占める各デバイスの数字がわかる。参考までに、ブルーの棒グラフが、PCのコンバージョンレートだ。
グラフを見てもらえればわかる通り、完全にiPad VS その他になっている。2010年3月から2011年8月までの平均コンバージョンレートは、iPadが3.82%でPCが1.9%。つまり、iPadの平均コンバージョンレートは、PCの2倍も高いということになる。これにアンドロイド系タブレットの数字が加わることになるため、タブレットコマースが大きな可能性を秘めているということがわかる。
では、なぜiPadだけがこれほど高いコンバージョンレートを達成できるのだろうか。米国のリサーチ会社Econsultancyによれば、iPadでショッピングの経験をしたユーザの満足度が高いからだという。下のグラフは、iPadで、銀行取引、ゲーム、電話、ショッピング、旅行予約を利用した際にユーザが受けた印象の統計結果だ。iPadのユーザが、「グッド」または「エクセレント」と回答した平均の割合は68%と非常に高く、逆に「プア」または「ベリー・プア」と回答した割合はわずか4%しかいない。
【4】 iPadではファッション産業の売上高が最も多い
iPad全体の売上高に占める産業別のシェアにおいても、興味深い傾向が見て取れる。モバイルコマース全体の売上高では、通信産業のシェが2.22%で1位となっているのだが、iPadだけで見ると、ファッション産業のシェアが3.81%と最も高い。
■ モバイルコマース全体の売上高に占める産業別シェア
1位: 通信産業(2.22%)
2位: エレクトロニクス産業(1.64%)
3位: ファッション産業(1.38%)
4位: 旅行産業(0.54%)
■ iPad全体の売上高に占める産業別シェア
1位: ファッション産業(3.81%)
2位: エレクトロニクス産業(1.92%)
3位: 通信産業(1.21%)
4位: 旅行産業(1.01%)
iPadでファッション産業の売上高が最も多いという結果にはうなづける。ファッション産業のオンライン小売事業者のウェブサイトは、他の産業のウェブサイトに比べてデザイン性の高いものが多い。ビデオや写真がキレイに見えるiPadは、ファッション関連用品を購入するデバイスとして最適だと考えることができる。よって、iPadでファッション孫関連用品を購入したユーザの満足度が、他の産業の製品・サービスを利用したユーザの満足度よりも高いのではないかと想像できる。
【5】 今回のまとめ:小売事業者はタブレットコマースに対応しなければならない
今回の記事で取り上げたデータを見る限り、小売事業者はモバイルコマースを通り越してタブレットコマースへの対応を早急に検討しなければならないようだ。なぜならば、iPadのコンバージョンレートの高さが、タブレットコマースの可能性を証明しているからだ。これだけ高いコンバージョンレートの実績を見せつけられたら、どんな小売事業者が飛びつきたくなったとしても決して不思議ではない。
また、それを裏付けるかのような別の調査レポートもある。フォレスター・リサーチは、モバイルコマースの市場規模が、2011年12月末の時点でで60億ドルに、そして、その後2016年まで年平均39%の成長を続け、イーコマース全体の売上高の7%を占めるであろうと予測している。そして、タブレットコマースは、2015年まで年平均50%以上という、モバイルコマース以上の成長を遂げるとも予測している。
昨日の記事でも紹介した通り、タブレットは家庭内のリビングルーム用PCとして君臨している。そして、その座は、アマゾンが市場に投入したばかりのキンドル・ファイアの登場によって揺るぎないものになるはずだ。
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