ソーシャル時代に企業が取り組むべきエンタープライズビデオとは?<その1:アウトバウンド型エンタープライズビデオ>
冒頭のスライドは、オンラインビデオという巨大な空間を、エンターティンメントビデオとエンタープライズビデオの2つに分けて、それぞれに属するビデオの種類と特長を図式化したものである。
オンラインビデオとして市場に流通しているコンテンツが、映画、テレビドラマ、ミュージッククリップ、アニメ、ドキュメンタリーなどといった、エンターティンメントビデオと呼ばれる種類のものばかりではないということを理解してもらえたのではないだろうか。視聴される回数ではエンターティンメントビデオに遥かに及ばないものの、企業が主にマーケティングの目的で利用する、エンタープライズビデオという分野がちゃんと存在している。
以下に、二つのタイプの特長をまとめてみた。
※ エンターティンメントビデオ
・主な配信元はコンテンツプロバイダ、アーティスト
・B2Cモデルが多い
・有料配信が多い
・ストリーミング配信よりもダウンロード型が多い
・コンテンツの制作が難しい(高コスト)
・プロが制作
・コンテンツ販売による直接的なマネタイズが可能
※ エンタープライズビデオ
・主な配信元は一般企業
・B2Cモデルが多いが、B2BとB2B2Cもある
・無料配信が多い
・ほとんどがストリーミング配信
・コンテンツの制作が簡単(低コスト)
・自社で制作
・自社商品の売上増などによる間接的なマネタイズ
今回から3回に分けて、エンタープライズビデオの概要・種類・効果について解説する予定である。私が代表を務めるビムーブは、クラウド型のビデオ配信サービスを約3年半も企業向けに提供し続けてきた会社で、この3年半の間に230社以上のエンタープライズビデオの導入に携わってきたという実績を持っている。こうした230社以上の実績と最近の米国の動向を参考に、ソーシャル時代に企業がエンタープライズビデオにどう取り組んで行けば良いのか、そのポイントを明らかにしたいと考えている。
■ エンタープライズビデオの概要と種類
まず、エンタープライズビデオの概要と種類について明らかにすることから始めたい。そのための指針として使用する、下記のスライドも用意した。
エンタープライズビデオであるための第一の条件は、一般企業が流通するオンラインビデオであるということだ。エンターティンメントビデオは、映画会社、テレビ局、レコード会社などといったコンテンツ制作会社からコンテンツ流通の権利を買い取った、いわゆるコンテンツプロバイダと呼ばれる企業が配信元となるケースが多いが、エンタープライズビデオの場合は、ほとんどの場合一般企業が配信元となる。
そして、その配信元に名前を連ねることになる企業が属する業界も様々だ。金融、アパレル、電機など、ありとあらゆる業界がエンタープライズビデオの配信元になる可能性を持っている。また、一般企業以外にも、学校法人や財団法人などもエンタープライズビデオの配信元に含まれる。つまり、エンタープライズビデオは、エンターティンメントビデオに比べて参入障壁が遥かに低いうということだ。
このエンタープライズビデオもまた、大きく2つのタイプに区分することができる。消費者や顧客を配信先とするタイプと、自社の従業員を配信先とするタイプだ。ビジネスモデルで区分すると、前者はB2C、B2B、B2B2C、後者はB2E(Eはemployeeを表わす)という分け方をすることができる。
B2E、いわゆる企業が自社の従業員に向けてビデオを配信するタイプは、もしかしたら初耳という方が多いかもしれない。エンタープライズビデオと聞くと、ほとんどは消費者や顧客を対象としたオンラインビデオマーケティングとしての用途を思い浮かべるかもしれないが、実は、自社の従業員を対象にオンラインビデオを利用するパターンが意外に多い。ただ、このB2Eモデルは、企業のノウハウに関わる部分が非常に多く、ほとんどの企業は成功事例を公開したがらない。それもあって、あまり広く認知されていないというのが現状だ。
ここでは、消費者または顧客を配信先の対象とするタイプをアウトバウンド型、自社の従業員を配信先の対象とするタイプをインバウンド型として、2つのモデルの特長をもう少し詳しく説明したい。
■ アウトバウンド型(消費者または顧客向け)の種類・特長
① 広告ビデオ
アウトバウンド型のエンタープライズビデオを代表する活用方法と言えば、まず広告ビデオがあげられる。この広告ビデオも大きく2つのタイプに分けることができる。それは、テレビコマーシャルとウェブ専用広告の2種類だ。
この2つを比較した場合、エンタープライズビデオの中で一番視聴数が多いのがテレビコマーシャル。業界を問わず、テレビコマーシャルをコンテンツとして保有している企業であれば、ほとんどがテレビコマーシャルを自社のウェブサイト上で配信している。テレビコマーシャルの制作費用は、エンターティンメントビデオ同様、高額な制作コストが必要とされる。企業から見れば、ウェブ上で2次利用したいと考えて当然である。
一方、テレビコマーシャルほど高額なコストをかけずに制作される、ウェブ専用の広告ビデオが存在する。いわゆる、ソーシャルビデオが一番ターゲットとしている分野だ。テレビコマーシャルと違って、時間の制限(30秒または60秒)がない分、自由にクリエイティビティを発揮することができる。場合によっては、テレビコマーシャル以上のとんでもない視聴回数を稼ぐこともあり得る。
広告ビデオは、エンタープライズビデオの主役として、今後も様々な企業によって利用されるだろう。特に、あまりコストをかけずに制作することが可能な、ソーシャルビデオのニーズの高まりが予想される。
② プロダクトビデオ
私のブログで何度も紹介したことがあるプロダクトビデオも、アウトバウンド型のエンタープライズビデオに分類される。このプロダクトビデオ、恐らく広告ビデオに次いで目にする機会の多いエンタープライズビデオではないだろうか。米国では成功事例も多く、ブレンドテック、ザッポス、オーバーストック・ドットコムなどがプロダクトビデオを積極的に活用している企業として良く名前があがる。
プロダクトビデオは、自社で制作することが当たり前として考えられており、広告ビデオと違って、制作コストがあまりかからないのが魅力である。ただし、コストメリットが大きい半面、広告ビデオと違って大量の本数が必要とされる。プロダクトビデオの場合、広告ビデオのように、高額なコストを費やして制作したコンテンツが1本だけあればいいのとは違って、できるだけ取り扱っている商品全てに用意しなければならない。中途半端な導入が許されないのが、プロダクトビデオだ。
日本では、プロダクトビデオを本格的に導入している企業はまだない。しかし、米国ではブレンドテック、ザッポス、オーバーストック・ドットコムなど、成功事例が数多く公表されており、その目覚ましい導入効果も証明されている。日本でも、今後はアパレルを中心にプロダクトビデオを導入する企業が増えてくることが予想される。
③ カスタマサービスビデオ(サポートビデオ、ハウツービデオ)
カスタマサービスビデオは、先に紹介した広告ビデオやプロダクトビデオと違って、ウェブサイトのトラフィックを増やすとか、イーコマースサイトのコンバージョンを上げるとかといった直接的な効果をもたらすことはない。両方のビデオとも、カスタマサービスが目的であるため、ユーザからの問い合わせ件数が減るとか、商品の返品率が下がるとかいった効果を期待して導入することになる。
直接的な売上増につながるわけではないため、カスタマサービスビデオは企業にしてみればどうしても導入が後回しになってしまう傾向が強い。ただ、これから到来するソーシャル時代は、いかに消費者・顧客と濃密な信頼関係を築くことができるかが重要な成功要因となってくる。そういう意味では、広告ビデオとプロダクトビデオ以上に重要な役割を果たすのが、カスタマサービスビデオなのかもしれない。
カスタマサービスビデオも、プロダクトビデオ同様制作コストがあまりかからないというメリットがある。また、プロダクトビデオと違って、用意するビデオ本数も気にする必要がない。アウトバウンド型の中では、一番導入がしやすいエンタープライズビデオだと言ってもいいだろう。
④ その他のアウトバウンド型エンタープライズビデオ
アウトバウンド型のエンタープライズビデオは、上記以外にもまだある。例えば、セミナーなどを開催している企業であれば、セミナーのダイジェストビデオを、消費者や顧客向けに配信するといった事例がある。自社の製品やサービスに興味を持ってもらえたり、次のセミナーの集客などへの効果が期待できる。
また、優秀な人材を獲得するために、人事担当者や社員が直接ビデオを使って語りかけるといった内容の、リクルーティングビデオと呼ばれるものもある。ビデオは、見た人間のエモーショナルな部分に触れることができるため、優秀な人材を採用する上で効果が見込める。
今回紹介した以外にも、アウトバウンド型のエンタープライズビデオに関しては、まだいろいろな活用方法があるはずだ。読者の皆さんが属している企業が抱えている課題を解決するための方法として、新しいエンタープライズビデオの活用方法を考えてみるのも面白いかもしれない。
また、今回使用した3枚のスライドをスライドシェアでダウンロードできるようにしたので、是非活用してもらえたら嬉しい。
次回は、インバウンド型エンタープライズビデオの種類と特長について解説する予定。どうぞお楽しみに!
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