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ザッポスとオーバーストック・ドットコムから学ぶイーコマースビデオ大量生産のコツ

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今回は、イーコマースビデオの導入を成功に導くための重要な戦略の一つである、「できるだけたくさんの量の商品動画を用意する」を実現するためのコツについて解説したいと思う。と言うのも、前回の記事「ザッポスから学ぶコンバージョン率を高めるためのイーコマースビデオ(商品動画)戦略9つのポイント」を読んだ読者の方から、「できるだけたくさんの量の商品動画を用意することが重要なのは理解できるが、これが一番実現が難しいのでは」という質問・ご意見をフェイスブックを通して何件か頂戴したからである。

確かにその通りだと思った。私が前回紹介した9つの戦略の中で、一番実現が難しいと思われるのが、「できるだけたくさんの量の商品動画を用意する」であることはまず間違いない。よって、今回はこの課題を解決するための方法について考えてみたいと思う。

イーコマースビデオを導入するに当たって考えておかなければならないコストが二つある。一つ目が商品動画を制作するコスト、二つ目が商品動画を配信するコストだ。後者の商品動画を配信するコストの方は、もう問題になることはないだろう。なぜなら、無料で利用できるYouTubeがある。また、私が代表を務めているビムーブが提供しているような有料の動画配信サービスも、最近はかなり料金が下がってきており、コスト負担は小さくてすむ。

ところが、商品動画を制作するコストの方はそうはいかない。商品動画を制作する際、普通は外部の事業者に依頼する。また、もし社内で制作するとなったとしても、ある程度の設備や専門の人材が必要になる。どう考えてみても、商品動画を制作するコストの方が負担は大きい。

今回紹介するイーコマースビデオを大量生産するためのコツは、制作コストをゼロにするためのコツではなく、決められた予算内でできるだけ大量生産するためのコツであることを始めに断っておく。これから紹介するザッポス、オーバーストック・ドットコム、その他米国のオンライン小売事業者が実践しているイーコマースビデオ大量生産のコツが、少しでもイーコマースビデオの導入に関わっている読者の方の参考になれば嬉しい。

【1】 コンバージョン率を上げるためになぜ大量の商品動画が必要なのか

まず、復習も兼ねて、コンバージョン率を上げるためになぜ大量の商品動画が必要なのか、もう一度整理してみたいと思う。大量の商品動画が必要な理由は二つある。

① ビデオSEO効果が高まる

2007年頃からしばしば話題に取り上げられるようになったビデオSEOだが、米国のオンライン小売事業者の間で最近また脚光を浴び始めている。理由は、ザッポスとオーバーストック・ドットコムの商品動画が高いSEO効果を発揮し、それがコンバージョンアップの原因になっているというレポートが公表されたからである。つまり、ザッポスとオーバーストック・ドットコムは、SEO効果を高めるという戦略的な目的があって、大量の商品動画をオンラインショッピングサイトの商品ページに配置していたわけである。

ザッポスとオーバーストック・ドットコムがどれくらいの商品動画を保有しているのかを下の表で確認してみてほしい。「米国小売業界におけるイーコマースビデオの現状。ザッポスだけじゃない、73%のECサイトが商品動画を活用」で使用したsundayskay.comの表に、今回はザッポスを加えている。そういう意味では、今回作成した表が、正真正銘の商品動画保有TOP10ということになる。表を見てもらえればわかる通り、オーバーストック・ドットコム、アマゾン、ザッポスが、商品動画保有本数の多いTOP3だ。

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グーグルの検索エンジンは、動画コンテンツを他のコンテンツよりも高く評価する。米国では、フォレスター・リサーチが昨年発表した、動画をテキストや写真などのコンテンツと一緒に最適化して配置したウェブページのSEO効果が、動画のないウェブページよりも50倍以上も高いとしたレポートが、業界内でかなりの反響を呼んだ。そして、この動画が持っているSEO効果の存在を、ザッポスとオーバーストック・ドットコムはすでに知っていて、自ら実践していたという。

ザッポスとオーバーストック・ドットコムが、労力をかけて何万点もの商品購入ページに商品動画を配置しているのは、顧客がグーグルの検索エンジンで商品名を入力して検索した際に、商品動画を配置してある自分たちの商品購入ページが、ライバル会社のページよりも上位にランクされることを知っているからだ。

※ フォレスター・リサーチのビデオSEOに関するレポート

商品動画の高いSEO効果のノウハウについては、現在情報を整理中である。近日中にレポートする予定なのでお楽しみに。

② 顧客の期待を裏切らない

商品動画が、オンラインショッピングサイトを訪れる顧客にとって魅力的なコンテンツであることは間違いない。商品動画を配置してある商品購入ページの滞在時間が、商品動画を配置していない商品購入ページよりも長くなるというデータがそれを証明している。買い物をする時、顧客は単に欲しい物が手に入りさえすればそれでいいと思っているわけではない。できることなら、”楽しい”を感じながら買い物をしたいと思っている。”楽しい”と思えるかどうかが、買い物をした後の満足感につながる。そいて、”楽しい”と思える買い物は、ショッピング・エクスペリエンスとして顧客の記憶に鮮明に残る。

商品動画は、”楽しい”ショッピング・エクスペリエンスを得るには持って来いのコンテンツだ。商品の特長や使用感を説明している販売スタッフが、リアルな店舗の販売スタッフの代わりを務めてくれる商品動画は、”楽しい”を求めて訪問してくる顧客にとって、この上ないプレゼンとになる。

ただ、効果が高い分、商品動画の存在は両刃の剣になりかねない。商品動画が配置されている商品購入ページで買い物をした顧客が、商品動画があることを期待してまた訪問してきたとしよう。その顧客は、前回のショッピング・エクスペリエンスが記憶に残っているので、当然今回の欲しい商品にも商品動画があることを期待している。ところが不幸なことに、今回顧客が欲しいと思っていた商品には商品動画が配置されていなかった。期待が大きかった分、その失望感は相当大きい。

つまり、オンラインショッピングサイトを訪問してくる顧客の期待を裏切らないためにも、ほとんどの商品購入ページに商品動画を配置しておく必要があるのだ。2、3の商品にだけしか商品動画を配置することができないのであれば、むしろやらない方がいい。中途半端が一番逆効果である。

ただ、いきなり全ての商品に商品動画をセットするのは容易ではない。そんな時にお薦めしたいのが、ある特定のカテゴリに限定して増やして行くやり方。ブランド、新商品、セール対象品など、カテゴリは何でもいい。「あそこには商品動画がある」と思ってもらうことが先決である。また、できることなら、ウェブページのどこか目立つ所に「○○に商品動画を用意してあります」みたいな告知があると、見つけやすくてさらにいい。

今回、是非紹介したいオンラインショッピングサイトがある。最近たまたま見つけた、クロックスの米国版オンラインショッピングサイトだ。このクロックスの米国版オンラインショッピングサイトが、特定のカテゴリに限定して商品動画を配置していて、比較的商品動画が見つけやすい。まだ全ての商品購入ページに商品動画が配置されているわけではないが、”women”、”girls”、”boys”のいずれかの”clogs”を選択してもらうと、かなりの高い確率で商品動画に出会える。

※ クロックスのオンラインショッピングサイト ⇒ http://www.crocs.com/

このクロックスのオンラインショッピングサイト、ページのデザインはわかりやすいし、商品動画もザッポスライクでかなりいい。個人的に、今一番気に入っているイーコマースビデオ対応オンラインショッピングサイトの一つである。

参考までに、日本版オンラインショッピングサイトの方は、いくら探しても商品動画が見つからなかった。非常に残念だ。

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【2】 イーコマースビデオを大量生産するためのコツ

以上の説明から、イーコマースビデオを導入してオンラインショッピングサイトを成功に導くためには、大量のイーコマースビデオが必要だということがある程度理解していただけたのではないだろうか。次に、最も重要な、イーコマースビデオを大量生産するためのコツを3つ紹介したい。

① 自社生産ビデオ

イーコマースビデオを導入する上で基本となるのは、あくまでも自分たちで生産することだ。自分たちで生産する気がないのなら、イーコマースビデオを導入することは諦めなければならない。米国のオンライン小売事業者も、そのほとんどが自分たちで商品動画を生産しているというデータがある。

自社生産することの一番のメリットは、自由な企画を基に、創造力を100%発揮することができる点だ。外部に依頼した時のように、納品された商品動画を見て「こんなはずじゃなかった」と思うことがなくなる。自分たちが制作に関わっているわけだから、ある意味当然だろう。また、外部に発注するコストを抑制できるというメリットもある。大量に生産するような場合のコストメリットは、それこそ計り知れない。

一方、商品動画を自社生産することにはデメリットもある。一つは、外部の意見が反映されなくなってしまうという点だ。自分たちの思い込みで作ってしまい、発想の転換ができなくなって悪循環に陥ってしまいがちである。もう一つのデメリットは、やり方を間違うと、外部に委託するよりもコストがかかってしまうリスクがあるという点だ。設備投資や人材採用など、綿密な計画を立てることが重要になってくる。

自社生産を成功させるためのポイントは、プロの技術を効率的に活用することだ。商品動画のパイオニアとして有名なブレンドテックもザッポスも、自社内にプロのスタッフがいる。何の知識も技術もない素人の集団が、商品動画を生産しているわけではないという点を理解しておく必要がある。自社生産することを決めたら、生産ラインをどうやって組み立てるかを考えなければならない。最初からプロのスタッフを社内に採用できなくても心配はいらない。ビデオ制作会社とパートナーシップを結び、社内に常駐してもらうなどの解決策がいくらでもある。

② 既製品ビデオ

メーカーは、商品動画の貴重な供給先となる。しかも、結構コストをかけて作ったクオリティの高い商品動画を保有している場合が多い。まずは、ダメもとでメーカに相談してみるべきだ。意外なところで協力を得られるかもしれない。

既製品を使うという意味では、無料で提供されているビデオクリップのようなサービスを利用するという方法もある。実は、米国のオンライン小売事業者の中には、この無料のビデオクリップを利用しているケースが珍しくない。有名な事例としては、日本でも店舗展開しているコストコがあげられる。コストコの下記のウェブページに配置されている商品動画は、無料のビデオクリップを利用したものだ。

※ コストコの商品動画ページ ⇒ http://www.evo-spas.com/index.php?model=csxi80

既製品のデメリットについては説明不要だろう。最大の問題は、差別化をはかることができない点だ。導入することを決めたら、ライバルのオンラインショッピングサイトにも同じ商品動画が配置される可能性を覚悟しておかなければならない。日本には馴染まないかもしれないが、とりあえず数を揃えるための選択肢の一つとして、頭の片隅にでもしまっておいてほしい。

③ カスタマービデオ

商品動画を顧客に提供してもらうという方法がある。この方法は、コストがかからない上に、顧客と緊密な信頼関係を構築することができるという、副次的なメリットをもたらしてくれる。前回の記事でも紹介した、ザッポスの「Zappos Video Experience」がいい例だろう。顧客の”楽しい”ショッピング・エクスペリエンスを動画で投稿してもらうという、いかにもザッポスらしいアイディアの詰まった商品動画の使い方だ。このカスタマービデオ、ザッポス以外にも面白い事例があるので紹介したい。

● ビューティー・チョイス・ドットコム
  http://www.beautychoice.com/

ビューティー・チョイス・ドットコムは、その名の通りコスメ関連の商品を扱うオンラインショッピングサイトだ。そして、ザッポス以上にカスタマービデオを上手く活用している。お目当ての商品購入ページで「video」ボタンを見つけたら、そのアイコンをクリックしてみてほしい。写真の下に、顧客が投稿した動画のサムネイルが表示され、そのサムネイルをクリックすると動画の再生が始まる。

いずれの動画も、顧客が実際に購入した商品を手に取りながら感想を述べているのだが、商品動画を活用して”楽しい”ショッピング・エクスペリエンスを顧客同士が共有し合っている最高の事例だと思う。

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カスタマービデオのデメリットは、顧客のクオリティに商品動画のクオリティが引きずられてしまう点だろう。画質ももちろんそうだが、一番の問題点は長さだ。カスタマービデオに関して言えば、60秒ルールが全く通用しない。ビューティー・チョイス・ドットコムのカスタマービデオを見て気がつかれた方も多いかと思うが、顧客が投稿してくる商品動画はまず決まって長くなる。全てを説明しようとするあまり、ついつい撮影時間が長くなってしまうのだろう。

【3】 今回のまとめ

始めに、イーコマースビデオを導入する際、なぜ大量に配置しなけければ意味がないのかを明らかにした。理由は二つある。一つはビデオSEO効果を最大にするため、もう一つは顧客の期待を裏切らないためにである。特に、イーコマースビデオにおけるビデオSEO効果については、驚かされる調査結果がたくさん発表されている。改めて後日レポートしたいと思っている。

何事についても同じことが言えると思うが、結局中途半端な取り組みをしても大した成果は得られないということだ。グーグルの検索エンジンンをアッと言わせ、更に顧客を感動させるためには、大量のイーコマースビデオが必要だというのが結論である。

次に、イーコマースビデオを大量生産するためのコツとして、自社生産ビデオ、既製品ビデオ、カスタマービデオの3種類を紹介した。個人的には、カスタマービデオに大きな可能性を感じている。なぜなら、顧客のショッピング・エクスペリエンスを共有するためのツールとして、動画ほど適しているものが他に見当たらないからだ。顧客が熱い感動を持って伝えたいと願っているショッピング・エクスペリエンス。そのショッピング・エクスペリエンスを共有することができるのは、動画以外に考えられない。

今という時代も、カスタマービデオの普及を後押ししている気がしてならない。スマートフォンとタブレットPCの登場によって、顧客が自分で動画を撮影するという行為が本当に簡単になった。カメラを使わずに動画が制作できるというのは本当に便利だ。まさに、カスタマービデオが大量生産されようとしている瞬間が目の前に来ている。

今回のイーコマースビデオを成功に導くために必要な、イーコマースビデオ大量生産のための3つのコツは参考になっただろうか。今回の記事が、少しでも読者の皆さんの参考になることを願って終わりにしたい。

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