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アップルのバイラルビデオ広告戦略を分析してみた(全72作品のリスト付き)

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アップルのテレビCMは、毎回新鮮な驚きがあって見る者をわくわくさせてくれる。ワンパターンだという声も一部では聞かれるが、あそこまで徹底していると、むしろ感心させられる。iPhone、iTune、iPadと次々にヒット商品を送り出し、時価総額がマイクロソフト、HP、デルの合計に近づいているというアップル。今回は、そのアップルのバイラルビデオ広告のデータを基に、アップル社のバイラルビデオ広告に対する取組み方や戦略について考えてみたいと思う。

【1】 1年間に72本のバイラルビデオ広告を公開

今回も、YouTubeチャンネルに公開されているバイラルビデオ広告を調査することから始めてみた。そこでまず最初に驚いたのが、YouTubeチャンネルにはたった72本しかバイラルビデオ広告が公開されていないということ。しかも、一番古い公開日は2010年6月7日となっている。つまり、iPhone4よりも前のバイラルビデオ広告は、見ることができなくなっているのだ。もちろん、YouTube以外の動画共有サイトを探せば、古い過去のバイラルビデオ広告を見つけることはできる。しかし、データの整合性という観点から見れば、YouTubeチャンネルに公開されている動画だけを対象にしたいところだ。よって、今回はYouTubeチャンネルに公開されている72本の動画を中心に分析を試みてみたいと思う。

まず、下に用意したグラフを参照してほしい。2010年6月から2011年6月までの1年間に公開されたバイラルビデオ広告の本数を月別に整理したものだ。たった72本と先程言ったが、この72本をわずか1年以内に公開しているのはさすがである。6年間で109本の動画を公開している、ブレンドおじさんで有名な「Will It Blend?」と比較してみると、そのペースの速さがわかるというものだ。

Photo_2

最多の25本の動画が公開されている2010年10月はMacBook Air、次に多い18本の動画が公開されている2011年3月はiPad2と、主力製品のリリースに合わせ、戦略的に公開するバイラルビデオ広告の本数を調整していることがよくわかる。また、2010年8月と2011年2月を除いて、ほぼ毎月を公開している点も見逃せない。

ここでは、最初にルイ・アームストロングの「When You re Smiling」が全編に流れる「iPhone 4 - FaceTime 」を見ておきたい。アップルのテレビCMとして、あまりにも有名なバイラルビデオ広告だが、いま見ても新鮮さは何一つ変わらない。

■ iPhone 4 - FaceTime

【2】 テレビCMと製品の紹介動画が中心

次に、アップルがバイラルビデオ広告をどう活用しているのかを分析してみたい。下の円グラフを参照してほしい。左は72作品をカテゴリ別に、右は製品別にそれぞれ分類したものである。

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カテゴリ別に分類してみてわかったのだが、アップルのバイラルビデオ広告の活用方法は3種類しかない。一番多いのが製品の紹介動画で、全体の59%を占める42作品もある。製品の詳しい解説や、操作方法の説明が目的で、アップルが一番力を入れているカテゴリのバイラルビデオ広告のように思える。いろんな製品の商品動画を公開いるが、”GarageBand”というミュージック編集ソフトのバイラルビデオ広告がアップルらしくていい。

■ GarageBand - Guitar Amps & Effects

製品紹介動画では、全72作品中一番視聴回数の多い作品「Apple - Introducing the iPhone 4」も必ず見ておきたいバイラルビデオ広告の一つだろう。

■ Apple - Introducing the iPhone 4

カテゴリで次に多いのがテレビCMで、全体の33%を占める24作品を公開している。アップルのテレビCMはどれも印象に残る作品が多いだけに、全てチェックできるのは嬉しい。どの作品も素晴らしいが、ここではiTunesでのビートルズの楽曲配信開始を宣伝するために作られたテレビCMがいい。このシリーズは全部で5作品あるのだが、他の作品がすべて写真が使われている中で、唯一実際の映像が使われている「Apple - iTunes - Beatles - Coming to America 」が最高だ。

■ Apple - iTunes - Beatles - Coming to America

カテゴリの最後が、スティーブ・ジョブスのプレゼン動画。プレゼンに定評があるスティーブ・ジョブスの実際のプレゼンが見られるとあって、1時間を超える長い作品ばかりではあるが、6作品全て10万回以上の視聴回数を記録しているのはさすがである。ここでは、一番最近の講演でのプレゼン動画を紹介しておく。

■ Apple - 2011 WWDC Keynote Address

製品別では、iPad2が全体の27%を占める19作品、iPhone4が全体の22%を占める16作品が公開されており、この二つの製品にアップルが一番力を入れているということがわかる。次に多いのがiMovieやiTunesであることから、アップルの主力製品がPCからスマートフォン、タブレットPC、サービスといった分野に移ってきていると考えていいだろう。

【3】最もマーケティングに成功したアップルのバイラルビデオ広告は

アップルのバイラルビデオ広告の中で、最もマーケティング的に成功した作品は何か。それを知るためには、やはりvisiblemeasuresのデータが一番信用できる。ということで、下のキャプチャー画像を参照してほしい。このキャプチャー画像は、visiblemeasuresに登録されている、アップルのバイラルビデオ広告全9作品のチャートだ。1位には、最初に紹介した「Apple - iPhone 4 - FaceTime 」がランキングされている。視聴回数、口コミ回数ともに2位以下を大きく引き離していることがわかる。

Visiblemeasures

ここでは、2位にランキングされている「Apple - Get a Mac - Surgery 」に注目したい。このバイラルビデオ広告は、2007年1月に公開された昔のテレビCMで、アップルのYouTubeチャンネルには登録されていない作品だ。

■ Apple - Get a Mac - Surgery

もう一本紹介しておきたい。これもYouTubeチャンネルには登録されていない、iPhone4のAT&TとベライゾンモデルのテレビCMだ。

■ AT&T/Verizon iPhone 4 Commercial-Two is better than one

尚、参考までにアップルのバイラルビデオ広告の制作は、カンヌ広告国際祭などで数々の受賞実績を持っている、アメリカの広告代理店TBWA/CHIAT/DAYが手掛けている。
https://www.tbwachiat.com/

【4】 まとめ

①アップルのバイラルビデオ広告は、多額の制作コストをかけて作られた、製品の説明用動画とテレビCMが中心

②アンビリーバブル効果、キャラクター効果、フラッシュモブ効果などの奇をてらった演出を使わない、正攻法の作品が中心

③主力製品の発売時期に、大量のバイラルビデオ広告を一度に公開する方法を使う

最後に、是非見てほしい1本のバイラルビデオ広告がある。これは、1984年1月22日のスーパーボウルの放送中に、一日だけ放映された「Macintosh」の発売を告知するために制作されたCMで、コンセプトの背景になっているのは、1948年に発表されたジョージ・オーウェルの有名な小説「1984」だ。この「1984 Apple's Macintosh Commercial」は、ビッグ・ブラザーに支配された国家について書かれた近未来小説で、このCMの中に出てくるビッグ・ブラザーとは、当時の巨人で、「ビッグ・ブルー」の愛称で呼ばれていたIBMのことだと言われている。今のアップルの作品とは全く異なるテイストの、迫力に溢れたバイラルビデオ広告だ。

監督は、1979年の「エイリアン」、1982年の「ブレードランナー」でお馴染みの映画監督リドリー・スコットが務め、1999年にUSTVガイドで「過去50年で最高の広告」に、Advertising Age誌で「1980年代のベスト広告」にそれぞれ選ばれている。

■ 1984 Apple's Macintosh Commercial

今のアップルに、「1984 Apple's Macintosh Commercial」のようなバイラルビデオ広告は作れない。「1984 Apple's Macintosh Commercial」と「iPhone 4 - FaceTime」の歴然とした差は、1984年当時と現在のアップルの立場の差をそのまま物語っている。バイラルビデオの面白さもそこにあると思っている。利益や株価などで比較するよりも、バイラルビデオを見比べてみる方が真実がわかる場合がある。

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