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映像のブートレッグが存在しない理由

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マイルス・ディビス、ボブ・ディラン、グレイトフル・デッドなど、ブートレッグ(海賊版)CDの方が正規版のCDよりも数多く出回っているアーティストは数えきれない。正規版よりも高額なブートレッグの方をわざわざ好んで買い求めているユーザもいるくらいである。ことCDに関していえば、ブートレッグは立派な市場になり得ている。

ところが、映像となると話は別で、CDに比べると極端に数が少なくなる。DVDのブートレッグ市場なるものは存在しない(もちろん探せばあるが、その数は限られている)。もちろん、それはインターネット動画の世界でも同じことだ。

理由は簡単で、映像に残す方が音に残すよりもコストがかかるからである。グレイトフル・デッドが、自分たちのライブにファンがカセットテープ・レコーダーを持ち込むことを許可したことは良く知られている。彼らのブートレッグが多いのも、それが理由の一つだ。音を残すのは、映像を残すよりも簡単である。もちろん音質は良くないが、素人のファンが隠し録りしたレベルの音でも技術によって何とかなる。

ところが、映像はそうはいかない。人に見てもらえるレベルの品質にするためには、できれば3カメ、最低でも2カメは必要になる。その後の編集作業も必要になるため、ファンが一人でビデオカメラを持ち込んで撮影してどうにかなるようなレベルではないわけだ。映像をコンテンツにするのは、音をコンテンツにするよりもはるかにコストがかかるのである。

この映像コンテンツ制作にコストが高額な状況は今でもまったく変わらない。インターネットで配信するための動画制作用のライブの撮影を映像制作会社に頼むと、3カメ+編集で軽く30万円はかかる(これはかなり安い方で、もっとかかる場合がほとんど)。これでは、デモ音源は作れてもデモ映像は作れない。

コストに関連していうと、昔はビデオカメラ自体が高額で、ファンが気軽に買えるような代物ではなかったというのもある。ハンディカムのビデオカメラがまだ市場に出回っていなかったこともあって、ビデオカメラ自体がカセットテープ・レコーダーのように普及していなかったのだ。

コスト以外の理由として、ビデオカメラが目立つというのもある。音だったら、それこそカセットテープ・レコーダーを足元に置いて隠し録りも可能だろうが、映像の撮影となると嫌でも目につく。隠し撮りが不可能なのである。それに、音だったら会場のどこで録音しようがさほど変わらないが、映像はそうはいかない。それなりの場所を確保しないことには話にならない。

世界のいたるところで素晴らしいライブが行われていても、映像として残されるのはごくわずかである。ライブはその瞬間の感動を共有するものであって、記録に残す必要なんてないという考えもあるのだろうが、それでもやっぱり見たい。

ライブ会場に居合わせたファンが誰でも持っているという意味では、映像のブートレッグが普及するカギは携帯だと思う。もっと高画質な映像が長時間撮影できるようになることが条件ではあるが、ファンが携帯で撮影した映像をウェブサイトにアップロードし、いくつかのアングルで撮影された映像をウェブサイトで編集・配信できるようなサービスが近い将来登場するかもしれない。

そう考えると、映像のブートレッグを楽しむための最善の方法は、DVDやBlu-rayのような記録メディアではなく動画になっているような気がする。

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