■物語と対話による医療、身体を折り曲げ幼稚園児の目の高さに
「この治療器具はとても大切なの。だから1か月間、先生たちと一緒にがんばろうね」
子どもが幼稚園のころの話です。
転んで鎖骨を骨折して近所の整形外科に行きました。診察、レントゲン撮影、診断、肩の固定器具を装着 ...。
驚いたのが、親だけでなく幼稚園児だった子どもに対しても担当医が丁寧に説明してくださったことです。
背の高いご年配の医師がひざまずいて体を折り曲げるようにして子どもと目の高さを合わせ、分かりやすい言葉を選んでいる。先生の一生懸命さに心を打たれました。
説明を受けた子どもは湿布や固定器具を我慢して療養していました。
骨折してから1週間ほどで、幼稚園で普通に遊べるようになり、ほっとひと安心。
この担当医の姿勢こそ、私が最近関心を持っているNBMそのものだと実感しました。
やや専門的になりますが、診療の概念でNBM(Narrative-based Medicine:物語と対話による医療)という考え方があります。
患者さんと医師との対話を通じて病気の原因や経緯、病気を今どう感じているかなど、患者さん自身の物語からアプローチする手法です。
NBMを意識したきっかけはインターネットで見た1枚の風景写真です。
右に森林が長く連なり、左に海が広がる写真に、こんな設問が書かれていました。
The sea belong to whoever sits by the shore(浜辺に座る者が誰であろうと海は寄り添ってくれる)
この詩の内容をふまえてあなたが海辺に腰かけて思うことを600字以内で述べなさい。
(2015年/順天堂大学医学部/小論文試験問題)
この難問にどう答えを出すのか、これで何が書けるのか。
近年、医学界で主張されはじめた「寄り添う医療」という観点で出題された問題です。
この記事では「NBM」の考え方を論じることが正解だろう述べられていました。
小さな子どもでも自分の症状や治療の見通しを知りたい気持ちは変わりません。
4歳児に対して「物語と対話による医療」を実践しようと寄り添っている医師の姿勢を見て頭が下がりました。
NBMの考えに基づいた言葉や姿勢は、伝わり方はもちろん治療の結果も違ってきます。
科学的根拠や知識や技術も大事ですが、患者さんの心に寄り添う歯科治療をこれからもより一層意識していこうと決意を新たにしました。
【参考】http://toyokeizai.net/articles/-/67304
西荻窪 いとう歯科医院 ホームページhttps://www.ireba-ito.com