グラグラ揺れている歯を抜いて入れ歯にプラスチック製人工歯を継ぎ足す増歯と、残っている歯に歯医者が新たに金属バネ(クラスプ)を作る修理を行なった症例
杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。
「歯がグラグラで入れ歯がつかえなくなったんです」
3年ぶりに来院されたのは60代女性のGさん。
みぎ上の前から3番目の歯が抜けそうなくらい大きく揺れています。
いっそのこと自然に抜けてくれたら患者さんも歯医者もラクです。
麻酔の注射をしなくて済みますから。
しかしそう簡単には自然に歯が抜けることはありません。
そこで今回は、みぎ上3番を歯を抜くことにしました。
Gさんは部分入れ歯を使っています。
これまでずっと、グラグラしている歯を抜いたら、その抜いた部分はプラスチック製人工歯を部分入れ歯に継ぎ足す増歯修理を繰り返してきました。
最後に治療してから3年間ずっと調子よく使っていたそうです。
今回も修理の内容としては同じです。
みぎ上3番を抜歯していた部分はプラスチック製人工歯を部分入れ歯に継ぎ足す増歯修理。
これまでずっと、みぎ上3番の歯に金属バネ(クラスプ)を引っかけて入れ歯を口の中に維持してきました。
今回抜歯するとクラスプが効かなくなってしまいます。
他に1つクラスプが奥にあります。
しかしクラスプが2→1つになると入れ歯は簡単に外れてしまって使えなくなります。
そこで手前のみぎ上2番は健全な歯でしたので、そこに新たにクラスプを作る修理を行なうことにしました。
口の中の型をとって石こう模型を作ります。
模型に入れ歯を合わせておいて模型上で歯医者が自分でワイヤーを屈曲してクラスプを作る。
歯科用プラスチックでクラスプを入れ歯に埋め込んで出来上がり。
工程としては単純なものの、ひとつ問題がありました。
それは入れ歯の適合が悪いこと。
口の中でもあまり合っていなかったとはいえ模型と入れ歯も合いません。
やはり3年間ずっと調子よかったとはいえ放置していたのでアゴの形が変わってしまっています。
そのようなことで定期的に歯医者に通うことの重要性はご説明させていただきました。
それはともかく、そんな中でも修理は必要です。
なんとか模型と入れ歯が合う場所を見つけました。
また前から2番目の歯は一般的に細長いです。
だから型に石こうを注いで模型を作る時もひと工夫が必要です。
歯が抜けても保険治療で入れ歯に増歯修理
それは細い金属線を埋めこむこと。
こうすることで折れにくくなります。
しかし努力の甲斐なく石こう模型はボッキリ折れてしまいました。
とはいえ石こう模型が折れてから実は金属線が威力を発揮します。
石こうだけだと砕けてしまったら元のように再現できなくなってしまいます。
それが金属線のおかげで折れ口がピッタリと合うのです。
ピッタリと合わせておいて歯科技工用の瞬間接着剤を流して模型の修理は完了。
さっそく修理し始めます。
模型上でクラスプを屈曲して合わせます。
このように合っているか分からない入れ歯を修理する際は、クラスプはピッタリ合わせすぎずルーズに合わせます。
歯とクラスプにスキマが見えるくらいです。
なぜなら入れ歯が口の中で合わない、模型と口の中とで誤差が生じる可能性があるからです。
模型上でピッタリすぎると、模型と口の中とで誤差があった場合には、口の中で合わない、装着できなくなります。
しかしルーズにしておけばスキマはあるものの入れ歯が口の中に収まります。
歯とクラスプのスキマはワイヤーを少しずつ屈曲して合わせることが可能です。
このような修理はワイヤー屈曲だからこそできる芸当です。
近ごろは歯科技工士でさえもこのワイヤー屈曲ができなくなっています。
昔は入れ歯を作る技工士ならば誰でも当たり前のように屈曲できました。
私もある勤務先の大きな歯医者で院内に技工所を備えていました。
そこの技工士さんからクラスプの屈曲を習いました。
別に卓越した技術の持ち主だったわけではなく保険治療の技工物を作製する並の腕前の技工士さんです。
しかし最近ある大学病院の歯科技工所はもうワイヤー屈曲できる技工士がいないという話を聞いたことがあります。
それではどうやってクラスプを作るか?
模型上でワックスでクラスプの形を作ります。
それを耐熱性の石こう、埋没材に埋めて熱を加えます。
そうするとワックスが溶けて空洞ができます。
その空洞に熱して溶かした金属を流しこむ「鋳造(ちゅうぞう)」という方法でクラスプを作ります。
鋳造クラスプは強度があって歯に引っかかる力が強い。
だから入れ歯を口の中に維持できます。
ただ欠点もあります。
入れ歯に歯科専用の入れ歯安定剤を貼る治療の費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~4,000円
維持力が強すぎて逆に歯を抜く力がかかってしまうことです。
後は入れ歯を着脱する際にクラスプに力が加わります。
そのせいでワイヤーと比べるとしなやかさ、柔軟性(展延性)に劣る鋳造クラスプは金属疲労を起こして、ある日突然ボッキリ折れます。
また今回のような、そもそも適合が不確実な症例では絶対に合わせることはできません。
後は工程が多いです。
・石こう模型を作る
・ワックスで形を作る
・埋没材に埋めて硬化するのを待つ
・熱してワックスが溶けるのを待つ
・金属を溶かして流しこむ
・金属が固まるのを待つ
・埋没材を壊してクラスプを掘り出す
・研磨する
・完成したクラスプを入れ歯に埋めこむ修理をする
とてもじゃありませんが鋳造クラスプを作っていたら1時間で入れ歯修理するのは不可能です。
その点、ワイヤークラスプならば
・石こう模型を作る
・ワイヤーを10分くらいで屈曲
・完成したクラスプを入れ歯に埋めこむ
これで出来上がり。
クラスプを曲げる技術さえあれば、入れ歯修理はもう鋳造クラスプでは勝負にならないと思います。
修理した入れ歯は意外にも口の中にピッタリと合いました。
入れ歯と模型は、合わないなりに合わせる方法はあります。
入れ歯を上アゴの口蓋部分にピッタリと合わせて修理しました。
口蓋部分は年月が経っても比較的変形が少ないといわれています。
今回はそのような知識が功を奏しました。
「あっ、これなら外れないですねー」
Gさんは笑顔で答えてくださいました。
もちろん長年診ていなくて入れ歯は不適合が大きいし歯、歯グキの状態も悪いです。
とはいえ使える入れ歯さえあれば後はゆっくり治療を行なって改善していきます。
・他にグラグラしている歯があるので、そんな歯を抜く。
・クラスプが引っかかっている歯はムシ歯があるので治療する。
・歯グキの状態が悪く歯と歯グキの境目の深さが5ミリ程度もあるので歯石除去やブラッシング指導を通じて改善していく。
もし入れ歯修理ができなかったら、どのような治療方針になりますでしょうか?
総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円
おそらく新しく入れ歯を作るしかないでしょう。
しかしその治療方針では上手くいかない可能性が大きいです。
だから入れ歯を修理しました。
なぜなら入れ歯を新しく作るには、他の歯、歯グキの状況が悪いからです。
そちらの治療から始めていたら、それだけで1か月はかかります。
それから入れ歯を作り始めるわけですが、やはりプラス1か月かかります。
2か月以上も入れ歯を使えないので歯がないまま過ごしていただかなければならないことになります。
治療に進展がないまま2か月も過ごす。
私が患者の立場だったとしても、そんな根気は保てません。
もう歯がないままでいいや...
ことになります。
そしてますます入れ歯が入らなくなってしまう。
そんな不幸な患者さんを増やしてしまいます。
それに引き換え完璧とは言い難いものの、とにかく入れ歯修理さえできれば、初回でもう入れ歯があって歯並びを回復できています。
後のことは患者さんは、ゆっくり構えていれば大丈夫。
患者さんも歯医者も落ち着いて治療していきましょう。
Gさんは仕事をしている方です。
入れ歯修理さえできれば時間の融通が効きます。
仕事の都合に応じて週1回~2週に1回くらいのゆったりペースで通っていただいて順調に経過しています。
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