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■ 3回目のデートでキスを迫る治療計画書?

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■治療費450万円!

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「うわー、これは...」

患者さんから差し出された書類を見て頭を抱えてしまいました。

タイトルは「○○様の治療計画書」。

他の歯科医院で作成されたものです。

最近はカルテをもとに治療計画書を自動的に作るシステムがあります。

治療前と治療後をきれいな写真で示して治療方法と金額をわかりやすくまとめて「治療計画書」としてプリントしてくれます。

当医院では導入する気がないのでこのシステムについて不勉強なのですが保険治療にはたぶん未対応です。

歯科医院向けの高額なシステムなので、おそらく単価の低い保険治療は除外している可能性が高い。

患者さんが持参した治療計画書によると

残っている歯が痛くならないよう上下の6本ずつ残っている歯の神経を除去してから削ってセラミックブリッジをかぶせる。

神経を除去する治療もいま流行りの歯科用顕微鏡を用いて精密にやるそうです。

精密にやる以前の話として保険のプラスチックのつめもので十分治せる歯をそこまで大きく削ることには疑問を感じますがそれは置いといて、歯がない奥の部分に上下合わせて8本もインプラントを埋入。

もちろんすべて自費治療で見積もりは合計450万円(税別)とありました。

※プライバシー保護のため内容や金額は本物の計画書とは変えてあります。

この計画書には

・治療期間(治療が終わるまで何年かかるの?)

・リスク(本当に無事に治療が終わるの?)

・アフターフォロー(何かあったらどう対処するの?)

こうした現実的な問題とそれに対する答えは何も書いてありません。

とにかく大がかりな治療をやりたい。

そんなフワフワした危なっかしい計画です。

「いやー、こわいですね」患者さんの前でそのようなことを口にするのは良いことではないのでしょうが私は思わずつぶやいてしまいました。

「いやー、そうなんですよ」患者さんもこの治療計画に不信感を持っているのがわかります。

もちろん治療計画が大事なのは否定しません。

治療計画を立ててから治療しなさいと歯科大学の授業で習います。

これは基本中の基本です。

私も治療計画を立ててから治療に入ります。

しかし、自動作成システムによってつくられた治療計画書を手にした私は違和感を覚えました。

■違和感

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この違和感がどこからくるものか長らく分からなかったのですが、最近ふと過去に自分がこの治療計画書と同じ間違いをしていた、あることを思い出しました。

「見合い」です。

まだ婚活という言葉も使われていない時代だったので、私は結婚相談所へ入会して見合いをしていました。

2年半ほど在籍して11人の方と見合いをしました。

結婚相談所のシステムは、おおむね週1回ずつデートして3か月で結婚を決めるというものです。

そこで入会してすぐに計画書を作りました。

週1回つまり月4回×3か月=12回分のデートの計画です。

タイトルはずばり

「結婚への道、デート計画書

こっぱずかしい。

結婚相談所のシステムに合わせたアドバイスを受けながら、高額すぎず、適度にオシャレな都心の店を12軒チョイス。

プロポーズの場所まで決めてあったので計画書どおりに進めれば3か月後に見事ゴールイン!

マニュアルに沿った完璧な計画だったはずです。

しかしその結果は ......。

ちっとも使えませんでした。

なぜなら会話の流れによって次に会う場所などいくらでも変わるからです。

相手の方の好みもあります。デート前から相手の好みなどわかりません。

今から考えれば当たり前のことでした。

そう考えると自費治療の計画書とデートの計画書の類似点が見えてきたのです。

どちらもシステムが決めたゴールに向かって計画通りにことが進むことを前提にしている点です。

問題なのは、相手の気持ちや都合を考えない自分勝手な「妄想」であることと、その妄想を相手に「押しつける」ことです。

■3回目のデート

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もう少し下世話な話をします。

昔の恋愛マンガで「3回目のデートでキスをする計画をたてる」という話を読んだことがあります。

先に申し上げておきますと見合いでそんなことはできませんし普通のお相手はそんな気などないに決まっています。

この計画を実行するとどうなるか。

3回目のデートの時にトラブルになるわけです。

女性を魔法のようにひきつける天性のオーラと百戦錬磨のテクニックを持つカリスマホストみたいな男性なら、計画書に従って着実に任務を遂行できるかも知れません。

しかし「モテない歯医者の代表」みたいな私が、まだ互いに手探り状態の3回目のデート中にいきなりそんなマネをしたらすぐに警察のご厄介になってしまうことは簡単にわかると思います。

私は妻と出逢って、3回目の計画なんて無視しました。

3回どころか結婚に至るまで1年くらい時間をかけています。

もし3回目のデートで唐突に顔を近づけていたら現在もまだ100人目の見合いをしていたことでしょう。

101回目のプロポーズならドラマになりますが「結婚相談所で100人目の見合い」など実はよくある話です。ドラマにもなりません。

歯科医院用のシステムがはじき出した450万円の治療計画書も、無謀な「キス計画書」と同じです。

自費治療に関するトラブルが増えているのは、治療計画と称した歯科医の自分勝手な妄想の押しつけが横行しているからです。

もっともそんな計画書を作って妄想を爆発させることが楽しい、夢が広がるという高揚した気持ち「だけ」はわかります。

実は私も結婚した妻とこんなデートしたいなーというフワフワした計画を持っています。

ある雑誌に載っていたのですが、ヘリコプターで東京見物しながらシャンパンで乾杯するというもの。

しかも家からヘリポートまでリムジンでの送迎付き。

いやー、バブリーですね。

とはいえこの計画は実現していません。

なぜなら妻は乗り物酔いしやすいからです。

車でさえ苦手なのにヘリコプター内で酒を飲んだらどうなるか想像したくありません。

他にも自宅の前にロールスロイスなど停まったらご近所さまの目がイタいし、そんなデートにふさわしい服となると、当然タキシードですが持っていないし、それにデートの日に豪雨だったらどうしよう。

色々と言い訳していますが九割九分は予算の都合です。

こんなお大尽なデートを実現するには、それこそ450万円の治療を完遂できるほどの綿密な計画とパワーが必要です。

結局は普段着で行ける近所の気楽なレストランのほうが楽しいだろうなということは容易に想像できます。

なにごとも妄想しているだけなら楽しいものですが、高い目標を実現するためにはハードルがいくつもあるものです。

それは歯科治療も同じです。

仮に450万円の治療をするなら計画書は本一冊くらいの分量になるはずです。

A4用紙1枚のフワフワした妄想に付き合わされる患者さんはいい迷惑です。

では、どうしたらいいのでしょうか。

■価値観のすり合わせ

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最も大切なことは「価値観のすり合わせ」を行うことです。

「見合い」をするなかで素敵なレストランやプレゼントの品をたくさん調べておいたのは無駄な努力ではありませんでした。

なぜなら選択肢が広がり会話も広がるからです。

「中華料理がいいな」と言われれば即座に何軒かオシャレなお店を提案できる。

「花が好き」とわかれば事前にレストランに注文しておいてデザートと一緒に花束を出してもらう。

相談所の先生に見立ててもらったセンスの良いアクセサリーをプレゼントする。

とくにアクセサリーなどセンスを要する物は、私のようなモテないクンは自分で選ばないほうが賢明です。

当時の私はモテないなりに知恵を絞りました。

あのときの努力が多少なりとも身についたおかげで、今でも図書館で雑誌LEONや家庭画報などをめくってオシャレな店やプレゼントを探したり、都心のデパートを探検したりしています。

がんばってデートを重ねていくうちに相手のこともわかってきます。

勉強してたくさんの知識を得て色々なことができるようになったおかげで互いに好みを合わせる柔軟性が身につきました。

本やネット上でも紹介していますが、時間をかけて互いの違いを理解して、修正して落としどころを探ることを「価値観のすり合わせ」と言います。

つまり歯科治療でも大事なのは、患者さんと歯科医師とで「価値観のすり合わせ」をすることです。

たとえばデートで「イタリアンが好き」と相手が言うのに

「いや洋食なんかダメじゃ、わしゃ絶対に和食しか食わん!」

と自分の価値観ばかり押しつけていたらデートが成立しないのは当たりまえです。

歯科治療も同じです。

「保険医療機関だから保険治療をする」

この基本的な方針は、歯科以外の医科では当然のことですし患者さんもそう思うのが当たり前なのに

「いや保険治療なんかダメじゃ。わしゃ絶対に自費治療しかやらん!」

と言って歯を削り始めたらトラブルになるに決まっています。

かといって保険治療ならすり合わせが要らないかというと、そんなことはありません。

・入れ歯を新しく作るか作らないか

  • 入れ歯を作るならいつ作るか

・歯を抜くか抜かないか

  • 抜くならいつ抜くか

・歯を削るか削らないか

  • 削るにしてもどの程度まで削るか

・揺れている歯の対応は

  • いつまで抜かない努力をするか

・どんな入れ歯にするのか

  • 入れ歯の歯並び、大きさ、形、設計をどうするか

など保険や自費に関係なく、歯科治療は患者さんとのすり合わせの連続です。

治療計画は必要ですが、患者さんと価値観のすり合わせをして修正が入ることが前提になります。

■求められるのは慎重な姿勢

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事前のすり合わせが必ずうまくとは限りません。

見合いでも、すり合わせがうまくいかないことを経験してきました。

食事の好み、時間のルーズさ、会話が噛みあわない、金銭感覚など。

すると「ご縁がありませんでした。伊藤様のより良いご縁をお祈り申し上げます。とのことです」と相談所経由でメールが来て交際終了。

もちろん後腐れなく終わることは重要です。

だから私は見合い相手の家を知らないようにしていました。

お相手をデートの帰りに車で送ったこともあったのですが最寄り駅までにしておきました。

そんな愛想ないことをしていたから上手くいかなかったのかな。

残念ながら見合いと同様に歯科治療でも患者さんとすり合わせがうまくいかないことがあります。

そんな時に当院に来る前の状態に戻せないとトラブルになることがあります。

高額治療を計画して、インプラントを顎骨に打ち込んだもののうまくいかず「よいご縁をお祈り申し上げます」のメールで終了というわけにはいきません。

とくに入れ歯なら周囲の歯を削らないで作れることも多いです。

たとえ削ることになっても最小限で済みます。

ですから思わぬ事態が起こっても治療前の状態に戻せる、あるいは最小限の侵襲でリカバリーできます。

歯科治療とはそのくらい慎重な姿勢で取り組んでちょうどいいのです。

ちなみに見合いを重ねてわかったことがあります。

それは「価値観のすり合わせ」をするには、ある程度の時間と会う回数が必要だということです。

後に妻となる女性と初めて会ったとき、この女性は地味な茶色とか紺色とかナチュラルな色が好きそうだというのが第一印象でした。

しかし何回か会っているうちに意外とピンクのブリブリなものが好きとわかって花束の色などに反映させました。

今でも記念日のプレゼントはブリブリ系の配色に寄せたものを選んでいます。

いとう歯科医院はホームページに治療についてたくさんのことを書いています。

それはブリブリ系が好みの人に地味なダーク系の物を選ぶような愚を犯さないように、ホームページを読んでいるあなたと「価値観のすり合わせ」を行うことが目的です。

そもそも初めてお会いした患者さんにいきなり高額な自費治療の提案をしてしまう歯科医の神経が私には理解できません。

価値観のすり合わせのできていない、互いのことなど何もわからないのに大金の話をする。

これは見合いでもNGとされています。

相談所の先生から入会時に「お金をかけすぎないこと」と釘を刺されました。

あまりに高額な品をプレゼントすると後でトラブルになるからです。

初めての患者さんに450万円の提案をするのは、初デートで数百万円もするロレックスやハリーウィンストン、またはパテックフィリップなどダイヤモンドが入りまくった超高級時計をプレゼントしてしまうのと同じです。

治療費に450万円の提案をする歯科医は見合いでもそういうことをしてしまうのでしょうか。

そんなことをすれば相談所に情報が回ってすぐ出入り禁止となる行為です。

このように結婚相談所の世界では当たり前にご法度となっていることが歯科の世界では横行しているのです。自費治療でトラブルが多いのも当然だと思いました。

別に私は高額な自費治療のすべてを否定するつもりはありません。

しかしそれは回数と時間をかけて患者さんと歯科医師との間に価値観のすり合わせができてからの話です。

自費治療をやるにしても、せめて初めて治療するときくらいはトラブルやリスクの少ない安価な保険治療で慎重に経過を見るのがスジだと考えます。

■一生のお付き合いになるもの

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安価といえば都心でも二人で1万円以下で過ごせるオシャレで美味しいレストランがたくさんあることを発見しました。

また数千円でも気の効いたプレゼントがたくさんあることも結婚相談所で学びました。

入れ歯の設計や治療方針は、保険治療でも選択肢がたくさんあります。ウン十万円、ウン百万円など必要ありません。

ちなみにその450万円の患者さんは上下に小さな部分入れ歯を作るだけで済んだので、総額1万円ほどの保険治療で歯並びを回復することができました。

また治療を重ねていると年月とともにその価値観が変わってくることがあります。

結婚して子どもが小学生に通うようになってからはレストランを選ぶ基準が変わりました。

新婚当初はオシャレな雰囲気を優先していました。

それが「ドリンクバーがあること」が最優先の条件となり、今はファミレスガストのへビーユーザーです。

歯科治療もそれと同じで年月とともに価値観が変わってきます。

たとえば歯が抜けたり折れたりして残っている歯の本数が変われば、入れ歯の設計も変わってきます。

とくに1本だけ残っていた歯を失って総入れ歯に変わったときは最大限の注意が必要です。

入れ歯治療の大御所と呼ばれる先生が「残り1本とゼロでは、三途の川のあっちとこっちくらい違う」と表現されていました。とてもわかりやすいです。

またよくある話ですが、歯を10本つなげたセラミックブリッジの歯が揺れて一度に外れると10本の歯が一気に0本になります。

セラミックブリッジ以外でも、自費治療でつくられた高額な金属床や、シリコン入れ歯や、インプラントだと致命的な不具合が生じたときに修理や調整ができない、あるいは対応が非常に難しくなります。

その点、保険治療のプラスチックの入れ歯なら、大変であることに違いはないのですが柔軟に対応できます。

夫婦においても結婚退職、引っ越し、出産、進学、病気など大きなことが起こります。

節目節目に対応できる柔軟性と無理のない生活設計が必要なのは歯科治療と同じです。

ちょっと背伸びをして高級車を自動車ローンを組んで購入したものの、住宅ローンの審査が通らなくなったなど、無理をするとすぐに破綻するところも共通しています。

歯科治療とは患者さんと一生のお付き合いになるものです。

治療計画と称した妄想の押しつけをせず、お金をかけすぎない保険治療で回数を重ねて、少しずつ価値観のすり合わせをして口の中の変化にも柔軟に対応する。

こうしてあなたの幸せに貢献することが歯科医師の役割と信じて今日も治療に励んでいます。

西荻窪 いとう歯科医院 ホームページhttps://www.ireba-ito.com

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