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古代ローマ時代の水道が使われているトレヴィの泉のように

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西荻窪 いとう歯科医院の伊藤高史です。

地中海を1000年に渡って支配したローマ帝国。その礎を築いた皇帝アウグストゥスの右腕となって活躍したマルクス・アグリッパという猛将がいます。

ライバルのブルータス、アントニウス、クレオパトラを破りローマの内乱を終結させたアグリッパは見事に皇帝に依頼されて任務を達成しました。
ですがこれで失業したわけではありません。

その後、ローマのインフラ整備を任されたアグリッパは兵隊を率いて水道を次々と作りあげます。

ローマ市内に現存するヴィルゴ水道はパクス・ロマーナ(平和なローマ)を実現したローマ人によってメンテナンスを続けられ、トレヴィの泉やスペイン広場の噴水に水を送り続けています。今でもその水は消毒薬がなくても飲めるそうです。

歴代ローマ皇帝の中には新しい建物や宮殿を建てず、アグリッパの作ったインフラのメンテナンスだけをしていた皇帝がいました。

アグリッパたちの約150年のちに皇帝となりローマ帝国が最も平和に繁栄した五賢帝時代のアントニヌス・ピウスが代表的です。

豪華な宮殿を建てるでもなく食生活も質素だったと言われる歴代のローマ皇帝たち。

その話が当院の入れ歯治療の考え方に通じるものがあり深くうなずきながら読んでいました。

特に共感したのは、水道も入れ歯も作って終わりではないという点です。

咬み合わせの調整や、顎と合わなくなった部分に歯科専用の安定剤を貼る、部分入れ歯のバネを修理するなど定期的にメンテナンスすることで入れ歯は長く快適に使えます。

ちなみにヴィルゴ水道の他に10本以上ある水道も現在になってもローマ市内に水を運んでいます。アグリッパの物をすべて破壊して新しく作ったわけではなく現代の設備にアップデートしたということです。

では、入れ歯はどうでしょうか。
新しく入れ歯を作り直したけど違和感が強すぎて使えない。
そういう話をよく聞きます。

違和感が強く出る最大の理由は、長年に渡り使い続けていた古い入れ歯を捨てて、何の配慮もせずに新しい入れ歯を作ってしまうからです。

ローマ帝国も最期は外国からの異民族に略奪されて滅んでしまいました。ローマ市内以外の水道は打ち捨てられて、もはや遺跡として残っているだけです。

入れ歯を使いものにならない遺跡と同じような扱いにしていることが目につきます。
歯科医が患者さんの口の中でそんな蛮族みたいな振る舞いをしてはいけません。

とはいえ安価な保険治療、高額な自費治療に関係なく、入れ歯の半数以上が5年で使われなくなるというデータがあります。

メンテナンスですべての症状をクリアできるわけにはいかないので、どうしても新しい入れ歯を作るタイミングがどこかでやってきます。

ただそれでも全部リセットしてゼロから作るのではなく、ローマの水道のように過去のものを活かしたアップデートを考慮すべきだと考えています。

具体的には、現在使っている入れ歯から咬み合わせの記録を採ることで、患者さんの咬み合わせを大きく変えることなく違和感の少ない入れ歯を作ることができます。

歴代のローマ皇帝たちは、ローマを侵略した異民族と違って、アグリッパの作ったインフラを破壊するような愚を犯しませんでした。
自分たちばかりが贅沢をすることなく、ローマ市民のために尽くしています。

当院はそんなローマ皇帝たちのやり方を見習って、長年使い慣れて、口の中でなじんでいる入れ歯を破壊することなく大切にしながら、保険治療による入れ歯のメンテナンスとアップデートを主に手がけているのです。

はるか昔のロマンに想いを馳せながら、患者さんの幸せを願って明日の治療の構想を練る。
そんな読書の時間は私にとって至福のひとときです。

参考文献:・「ローマ人の物語」28巻 塩野七生著 新潮文庫
・補綴臨床別冊Denture repair 村田比呂司、馬場一美、医歯薬出版株式会社

西荻窪 いとう歯科医院 ホームページhttps://www.ireba-ito.com

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